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インタビュー

AA=


  THE MAD CAPSULE MARKETSの活動休止後、10-FEETのリミックス参加などわずかな活動を除いては沈黙を続けていた上田剛士。彼が2年半の時を経て、ソロ・プロジェクトであるAA=を始動させた。

「20歳の時からずっとやってきたMADを止めて、自分の中心にあったものがなくなって、何を作るべきか、そもそも自分は何だろうって〈無〉の状態になっちゃったんです。制作はしていて、普通のロック・バンドの形も考えたし、逆にラップトップで完結できる音楽も作っていたけど何かが足りない。そんな時にダリの絵を見る機会があって、それがすごく愛情を持って描かれているのを感じたんです。そこから、自分が好きなものを好きなように表現すればいいって思ったんですよね」。

 そうして生まれたAA=のファースト・アルバム『#1』(〈ファースト〉と読む)で繰り広げられているのは、デジタルな打ち込みとハードなギターが竜巻のようなグルーヴを生み出す、開放的なミクスチャー・サウンド──それはかつて彼がMADで鳴らしていた音ともリンクするパンクでサイバーなフューチャー・ロックだ。

「きっと、(MADと)音が近いとか気にならなくなったから動けたんだと思います。MADという偶像と、そこにいた自分との対峙が大きなテーマだったので。それを乗り越えてやっとやりたい音と言葉を見つけた。だからMINORUとやることにも抵抗はなかったです」。

 そう、本作にはMADの元ギタリストであるMINORUが参加。その他にもBACK DROP BOMBのTakayoshi Shirakawaが加わり、時にはラフでオールド・スクールな、あるいは滑らかでハイブリッドなミックス感、そして音作りの方法など、サウンドに対するさまざまな価値観がせめぎ合っている。

「例えばBACK DROP BOMBのハイファイさに比べて、自分は音としての歪みを追求してる。そのほうがエモーショナルになりやすいんですよね。そのなかで俺が作ったメロディーやトラックを、今度はタカが彼の解釈で出してくる。それが新鮮だし、おもしろい融合ができたんじゃないかな」。

 一方、歌詞ではエスカレートする人間の欲望に〈NO〉を叩き付ける“4LEGS GOOD, 2LEGS BAD”やポジティヴに未来を指向する“ROOTS”など、彼のストレートな心情が反映されている。

「消費していくだけの世界は嫌だし、それを突き詰めると人間のエゴに行き着くんだと思う。そういうのに対峙していく姿勢が大事で、それが言葉になっていった感じです。共感してくれれば嬉しいけど、それよりも自分の嫌なことややりたいことをただ言うことが重要だった。そこはMADでやってたことと違うかもしれないですね」。

〈トッカータとフーガ〉のフレーズからビキビキのテクノ・ビートへ向かう先述の〈4LEGS GOOD, 2LEGS BAD〉にデジタル・ハードコア全開の“I HATE HUMAN”、ポジティヴなメロディーが洪水のように溢れるパンクな“LOSER”“ELECTRIK”、そしてスカを取り入れたパーティー・ソング“ROOTS”や歪んだ打ち込みと速射砲のようなラップが展開する“ALL ANIMALS ARE EQUAL”。なかでも“STARRY NIGHT”“NEW HELLO”“R.I.P.”というラスト3曲のカタルシスと幸福感は、自分のやりたい音楽を手にした彼の喜びと開放感が反映されているようで、実に感動的だ。

 飽和してもなお強迫的に続く進化のゲームに逆らうのは難しい。自分のサウンドと言葉を貫く『#1』は、現在の加速する人間の欲望に対するアンチテーゼとして、実にパンクな作品と言えるのではないだろうか。

「たぶん、流行のもの、最新の音楽を取り入れた時点で自分の音楽が終わる気がするんですよ。そうじゃなくてもっとリアルな感情や気分を採り入れて、自分のなかで昇華したうえで新しいものを作っていきたい。それがたとえ過去の自分と繋がっていても、まったく新しくなくてもいい。〈俺はこれなんだ〉って答えが見えて、いまここに形にできていること、それが大事なんです」。

PROFILE

AA=
2006年に活動休止したTHE MAD CAPSULE MARKETSのベーシスト、上田剛士によるソロ・プロジェクト。上田がヴォーカル/ベース/プログラミングを担当し、バンド・メンバーにはBACK DROP BOMB/WOWWのTakayoshi Shirakawa(ヴォーカル)、元MAD CAPSULE MARKETSのMINORU(ギター)が参加して2008年よりレコーディングを開始。同年10月に配信限定で“PEACE!!!”を発表。12月には上の2人にRIZEの金子ノブアキ(ドラムス)も加えて〈COUNTDOWN JAPAN〉にて初ライヴを行う。このプロジェクトを通して取り組んでいる自然環境保護運動も注目され、このたび収益の一部がWWFに寄付されるというファースト・アルバム『#1』(commmons)を発表したばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年03月12日 00:00

更新: 2009年03月12日 17:51

ソース: 『bounce』 307号(2009/2/25)

文/佐藤 譲