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インタビュー

JUSWANNA


  ブラック・ボックス、それは旅客機のコックピットに搭載されたレコーダーの入っている箱──という存在に象徴的なように、然るべき地位の人間、その機械を修理できる技術を持ち合わせた人間以外には見られないため、〈封印〉を意味する言葉である。羽田空港のある東京最南端の大田区から全国制覇を狙う王道ヒップホップ結社、JUSWANNAが自身のファースト・フル・アルバムを『BLACK BOX』と名付けたのも、そんな〈黒い実話を詰め込んだ作品〉という理由からだそう。

「ニュースなんかで聞く〈ブラック・ボックス〉って言葉の響きがずっと気になってて。この世のタブーを詰めておくものっていうか。それに飛行機の墜落事故の時も壊れないタフな箱でもある。そんな、普段TVじゃ観られないような、ブラックな音や言葉を詰めたアルバムだって意味も込めて。そのタイトル曲のフックはNYでKRS・ワンとマーリー・マールのライヴを観てる時に出来ました」(MEGA-G THE CHEF)。

「その曲は、クラブというか暗がりの箱のなかにいろんなヤツがいて、いろんな考えがあって、何があるかわかんないパンドラの箱みたいなイメージ。あと“ピエロスタイル”でも言ってる通り、人目を気にしすぎて言いたいことのひとつも満足に言えないラッパーが多い気がして。聴いてるのはガキだけじゃないし、ヘッズだけでもない。いつまでもピエロ扱いされちゃたまらないですから」(MESS aka メシアTHEフライ)。

 地元の友達の影響でMICROPHONE PAGERを聴いてから日本語ラップのファンになり、〈さんピンCAMP〉のビデオや、〈雷おこし〉〈鬼だまり〉のライヴなどで観た先人たちのステージが忘れられずにラッパーを志したというMEGA-Gと、スケボーを通じてヒップホップを聴くようになり、高校の時に観たメソッド・マンのPVに衝撃を受けてマイクを握るようになったというメシア、そしてその2MCから〈影の司令塔〉と呼ばれているDJ MUTA。筆者が彼らのライヴを初めて観たのはもう随分前のことだが、ハーコーで粋でいなせなワード・プレイを織り交ぜた、頭ん中を引っ掻き回すようなリリックを繰り出すフロウ巧者2人のタイトな掛け合い、そして背後で真っ黒い円盤を操るMUTAの絶妙なバックDJぶりには驚かされることしきり、だった。

「2人ともオリジナリティーがあっておもしろい。でもお互いの個性は全然違う。だからこそJUSWANNAになるんだと思います。ライヴではヒップホップ・クラシックから日本の浪曲や三味線の音、無名のアブストラクトなトラックも……何でもアナログを使って、それをJUSWANNA色に染めていきます。しかも格好良く。即興性もエンターテイメント性も含めて、俺らにしかできないことをやっていますね」(MUTA)。

 彼らがめざすのはただひとつ。何をやっても本物の、決して外れないストレートな男気ヒップホップ。今作に通底する魅力もまさにそれだ。

「土台はもちろんヒップホップ。しかもスモーキーな。でも、まったく興味ない人にも何だコイツら?って思わせるようなものになったと思います」(メシア)。

 プロデュースにはMalikやTempleATSのYamaan、そしてI-DeAにD.L(!)などが参加。MESSいわく「空母」のLibra仲間ら大勢のMCも客演に駆けつけている。

「トラック集めに関しては仲の良い人が中心ですね。普段遊んだりしてるなかでデモを聴かせてもらったりして。ただD.Lさんはお願いする前からヤル気満々でした。ゲストについても同じで。L-VOKALやDAGは自分のコネクション、BESや仙人掌はメシアのコネクション、山仁くんやSIDE RIDE、少佐はLibra繋がり。普段から私生活やライヴでいっしょに遊んでるメンツですね。知らない人とデータのやり取りだけで曲作りなんてしたことないので、信頼できる仲間を選びました」(MEGA-G)。

〈まるでアイス・Tとスパイク・リーに楽太郎を足した最新のブラックな日本語ラップ〉を放つ彼らが、今作で表現してみせた黒い世界。それは、決して特殊なものではない現実。だからこそ、沁みるのだ。それにしてもクールG・ラップ&DJポロ『Live And Let Die』へのオマージュ・ジャケのサマになることときたら!

PROFILE

JUSWANNA
MESS aka メシアTHEフライ(MC)、MEGA-G THE CHEF(MC)、DJ MUTA(DJ)から成るヒップホップ・ユニット。都内で活動を開始し、2006年にI-DeAの“Mad In Japan AKA Bad Ninjaman”やMSCの“路上の灯”に客演したことで脚光を浴びる。同年にLibraと契約して、6曲入りのファースト・ミニ・アルバム『湾岸SEAWEED』をリリース。以降は精力的なライヴ活動を展開しながら、メンバー個々がSHINGO☆西成やEccy、BES、BUZZER BEATSらの作品にそれぞれ参加して知名度を上げていく。今年に入って発表した先行シングル“ピエロスタイル”と“BLACK BOX”が高い評価を得るなか、このたびファースト・フル・アルバム『BLACK BOX』(Libra)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年04月02日 16:00

ソース: 『bounce』 308号(2009/3/25)

文/二木 崇