こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

BLUE KING BROWN 『Worldwize: Part 1 North & South』

 

旅の途中で出会ったさまざまなリズムがそこかしこで鳴り響き、力強いメッセージが平和な未来を太陽のように照らし出す──。大地を揺らす魂のサウンド、聴け! 踊れ! 泣け! 笑え! 歌え! 叫べ!

 

 

次のレヴェルへと進むために……

レゲエ、ファンク、アフロビートなど世界中のさまざまなサウンドを吸収して大地の躍動を感じさせるグルーヴを描いてきたオーストラリア出身のジャム・バンド、ブルー・キング・ブラウン(以下BKB)。このたび、前作『Stand Up』から4年ぶりとなるセカンド・アルバム『Worldwize: Part 1 North & South』が完成した。「4年もの時間がかかったのには、2つの理由があるんだ」と語ってくれたのは、バンドのリーダーであり、プロデューサー的な役割も担うベーシストのカルロ・サンストーンだ。

「1つは、最初の段階で100%納得した内容でない限り、アルバムは出さないと決めていたから。結果、思っていたより時間がかかったけど、楽曲制作はとてもクリエイティヴで発展的なものになったよ。もう1つの理由は、アルバム制作と同時に前作のプロモーション活動とその後のツアーの準備を行っていたからだね。そのせいでツアーの合間にレコーディングのスケジュールを組み込まなくてはいけなかったけど、さまざまな国で過ごした時間がアルバムにプラスとして反映されていると思っているよ」。

バンドで表現したい音を徹底的に追求した結果、今回のアルバムは〈North〉サイドと〈South〉サイドから成る2枚組になった。

「制作の中盤あたりでダブル・アルバムにしようと思いついたんだ。〈South〉がダブ・ディスクになっているんだけど、ダブ・ミュージックはBKBがすごく好きなスタイルで、馴染みのない人々ともそれを共有したいと思って採り入れてみたよ」。

前作は多種多様なビートを採り入れ、バンドの描く音の楽しさを伝えてくれる仕上がりだった。しかし今回のアルバムでは〈North〉サイドで前作の流れを残しつつ、〈South〉サイドでこれまでになくディープでヘヴィーな世界観を創出している。

「前作はすべてライヴ・レコーディングによるもので、サンプリングもしなかったし、録音後の編集もほとんど行わなかった。でも、今回はアレンジや新しい音のダビング、プログラムされたビートの追加、さまざまな声ネタや質感を加えることに制作時間のほとんどを費やしたんだ。これはこれですごく楽しくてね。楽曲制作に関するさまざまな方法を学ぶことができたよ」。

また、全体から響くバンドのグルーヴやメッセージからは、より魂を奮い立たせるような力強さが感じられるのも本作の大きな特徴だ。彼ら自身もレコーディングの途中から、進化したバンドの姿を実感していたという。

「BKBの作詞、作曲、アレンジのスキルは、本作の制作期間もいま現在も着実に進化している。次のレヴェルへと進むために常に努力しているからね。ヴォーカル面では、録音した場所であるジャマイカはキングストンの雰囲気を感じ取ってもらえるといいなと思っているよ。キングストンへ赴いたのはBKBが愛する音楽の中心部だから。エネルギーに囲まれながら、そこでアイデアやヴォーカル・パートを作り上げていくのは最高だったね」。

そのキングストンのエネルギーをとりわけ感じ取れる楽曲が“Women's Revolution”だろう。ヴォーカルのナタリー・パーパーとゲストに迎えたクイーン・アイフリカがレゲエのリズムに乗せて繰り広げるハーモニーからは、曲名通り女性の持つパワーが溢れてきて、聴く者を圧倒する。

「この曲で表現したかったことは、女性は強く、私たちが共存している将来を安全で公正な場所にするために重要な役割を果たしているということ。〈貧困をなくすいちばんの方法は、コミュニティー内の女性を教育することである〉という哲学に賛同しているんだ。音楽的には新しいビートやメロディーをプログラミングしたり、ヴォーカル・アレンジや弦楽部分を補足したり……と、いろいろ手を加えているよ」。

 

地球上でみんなが繋がっている

他にもスライ&ロビーやジャー・メイソンが参加した楽曲も収録。もっとも、キングストンのヴァイブを満載した内容であるものの、本作にはレゲエのビートばかりが収められているわけではない。BKBらしい地球の鼓動を感じさせる楽曲もあり、特に“Our World Is Our Weapon”はマリアッチ風のギターやアフリカン・パーカッションの音色が、華やかでありながらもどこか哀愁を帯びていて、実に素晴らしい出来映えだ。

「この曲ではバンドの音楽的なアイデンティティーの要素を強調したかった。100トラック以上のサンバ・パーカッション、さらにはチャランゴというリュート属の弦楽器やペルーの10弦ギター、西アフリカのトーキング・ドラムまでを駆使してレコーディングしたよ。曲のアイデアとしては、サパティスタ(メキシコの最貧地域と呼ばれるチアバス州を中心に活動する民族解放軍)について大勢の人が歌ったり、演奏したりしているという感覚を表現したかったのさ」。

そう、独特の陶酔感を与えるグルーヴを放ちながら、世界で何が起こっているのかを真摯な視点で伝えてくれるのもこのアルバムの魅力なのだ。

「アルバムを制作するにあたって多くを学び、たくさんの時間、そして愛とエネルギーを注いだ。それを世界中の人々と共有できることを嬉しく思っているんだ。作品を通じてリスナーには良い気分になってもらい、踊りたくなったり、頷いてもらったり、友達や家族と楽しんでもらったりしてほしい。また同時に、私たちは音楽を通じてこの地球上でみんなが繋がっているということ、教育や健康、暴力や戦争から安全を得る権利があるということを伝えたいんだ。このアルバムが進歩的な考え方を持つ新しい世代を刺激し、数多くの組織やより安全な社会を作ろうと戦っている人々に力を与えるものであればと願っているよ」。

最後に、この〈Worldwize: Part 1〉を聴いていると、〈Part 2〉の内容も気になってくるのだが……。

「もちろん、〈Part 2〉はBKBの次のプロジェクトとして予定されている。どのような音になるかは楽しみにしていてほしいね」。

(通訳/安井乃寿江)

 

▼ブルー・キング・ブラウンの作品を紹介。

左から、2005年のミニ・アルバム『Blue King Brow』、2007年作『Stand Up』、同年のミニ・アルバム『Keep It Dubbed』(すべてRoots Level)

 

▼『Worldwize: Part 1 North & South』に参加したアーティストの作品を紹介。

左から、クイーン・アイフリカの2009年作『Montego Bay』(VP)、スライ&ロビーのニュー・アルバム『One Pop Reggae』(Taxi/ソニー)、ジャー・メイソンの2008年作『No Matter The Time』(Corner Shop)、エリオット・マーティンが在籍するジョン・ブラウンズ・ボディの2008年作『Amplify』(Easy Star)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年09月01日 17:59

更新: 2010年09月02日 21:56

ソース: bounce 324号 (2010年8月25日発行)

インタヴュー・文/松永尚久