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インタビュー

秦 基博 『Documentary』

 

 

 

待望のニュー・アルバム『Documentary』は、秦 基博が20代最後にリリースする作品である。
それは<大人>という表現が、もはや何の違和感もなく似合う年齢だ。
ここでは、どこか今までの彼とは違う表情が垣間見える。音楽的にも、そして世界観も--。

 

「今の自分がそこにあればいい。ヘンに背伸びもせず、逆に若ぶりもせず、<今はこういう感じです>っていうことですね」(秦 基博)

 

 新作『Documentary』には、
去年以降にリリースした“朝が来る前に”や
“アイ”など、5つのシングル・ナンバーをすべて収録。
そしてアルバムの中核を成すのは、
この1年ほどの間に書きためられてきた曲たちだ。
過去2作に比べると、長めの期間をかけて制作された一枚である。

 

「とにかくいっぱい、いろんなタイプの曲を作ろうって
いうところから始まったんですね。
ほんとに夢の中でも曲作ってて、ハッ! と起きて、
寝ぼけながらレコーダーに録った時もありました(笑)」

 

 半年に及んだ楽曲のデモ作りにおいて秦に大きな力を与えたのは、
ギタリストの久保田光太郎である。
90年代、トリオ・バンドのSUPER TRAPPでグルーヴ感たっぷりのロックを轟かせ、
その後アレンジャー/プロデューサーとして活躍し続ける彼は、
本アルバムでもその才覚を存分に発揮。
また、この久保田に伊東ミキオ(Key.)、松田卓己(Ba.)、矢野博康(Dr.)といった
猛者たちで組まれたバンドも強力だ。
伊豆でのレコーディング合宿に始まった彼らとの交流を、秦はうれしそうに語る。

 

 「合宿では毎日みんなでいっぱい飲んで、いっぱいしゃべりましたね(笑)。
僕はひとりで……シンガー・ソングライターでいますけど、
音を肉感的にというか、バーン! って出したいなというのがあって。
このメンバーではそういう部分を強く出せる気がしています」

 

 そうしたバンド・サウンドが躍動するのがタイトル曲“ドキュメンタリー”や
“oppo”、“アゼリアと放課後”。また、キーボードに森俊之(!)、
ラテン・パーカッショニストの正木健一が参加した“Selva”では
複雑なリズムに挑戦している。
さらに“猿みたいにキスをする”では、かせきさいだぁがラップで加わり、
Spangle call Lilli lineの大坪加奈がコーラスをする--などなど、
音楽面での多様なアプローチが随所で図られているのだ。
いずれの曲でも、新たなフェイズに突き進もうとする秦の姿が確認できる。

 

「ミュージシャンとして、自分がやりたいことをやろうと。
表現したい言葉を書きたいし、言いたいことを言う、
それだけを求めたいなと思ったんですよね。
だからいい意味で裏切っていきたいところもある。
すごくシンプルな、基本的なところに立ち返ったっていう感覚があります」

 

 

 

 もっとも久保田によると、どの曲もすべての出発点は
秦の弾き語り--歌とギターに置いて、
そこから音全体に発展させることに注力したという。
それだけに、今までの秦の音楽の最大の魅力は
しっかりと守られているという構図だ。

 

 そしてその歌声も、少しだけ変わった。
以前はハスキー気味の声が青い叙情を強く放っていたのだが、
このアルバムでは主に中域の太い発声が歌の情感を形作っている。
しかも歌詞のいくつかでは生活の中でのせつなさや苦みをすくい上げており、
そこにはどこか大人になりきれない、
成熟しきれない自分を確かめるようなトーンが感じられる。
人生、あるいは人間を見つめるような描写がなされている1曲目の“ドキュメンタリー”、
最終曲“メトロ・フィルム”は、とくに鮮烈だ。

 

 「今の自分がそこにあればいい、っていうか……。
ヘンに背伸びもせず、逆に若ぶりもせず、
<今はこういう感じです>っていうことですね。
ただ、<こんなこと、みんな思ってるんじゃないかな?>とは思いますけどね。
だいたい僕ぐらいの歳の人って、社会人になって5、6年以上経って、
ちょっとずつこんなことを考えてるんじゃないかな? って。
その点では自分もほかの人たちも、あまり大差ないような気がします」。

 

 

 


 

  言葉の背景に<自分は決して特別な人間じゃない>との認識が見える。
いずれにしても、これは秦の現在の体温を誠実に表したアルバムだということだ。
思えば、この秋でデビューから丸4年。
あの頃、前へ踏み出すことへの勇気や逡巡を唄っていた彼の歌は、
やはり青春の余韻のようなみずみずしさをまとっていた。
それを思うと『Documentary』での秦にはアーティストとして着実に成長した像が確認できる。
“透明だった世界”の<気づいたら 僕も 大人になってた>というフレーズは、かなりの部分、
現在の彼のリアリティに照らし合わせている言葉ではないだろうか。

 

 とはいえ人間たるもの、そうやすやすと成熟できるものではない。
年齢を重ねる道中では迷い悩むことは多いし、
確信や自信を持つのはどんな人だって難しいことだ。
<大人>であるはずなのに、どこかで揺らいでしまう思い--。
秦は自分のそういった心情までをこのアルバムで描いてしまっている。
その正直さがまた、この男らしいな……と、僕は思う。

 

 ジャケット写真では、おぼろげな朝焼けの中で彼がたたずんでいる。
これは何かの続きであり、何かの始まり--
29歳の秦 基博が刻まれた、まさに<ドキュメンタリー>だ。
ひと回り大きくなろうとしている彼の歌、たくさんの人に、ぜひとも堪能していただきたい。

 

 

■ LIVE…


HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2010-2011 -Documentary-

11/11(木) 三重県文化会館 中ホール
11/17(水) ホクト文化ホール 中ホール(長野県県民文化会館)
11/18(木) 富山県教育文化会館
11/23(火・祝) 高知BAY5SQUARE
11/29(月) 周南市市民館
11/30(火) 倉敷市芸文館
12/02(木) 熊本県立劇場 演劇ホール
12/16(木) 静岡市民文化会館 中ホール
12/22(水) 秋田市文化会館 大ホール
12/24(金) 函館市芸術ホール
12/26(日) 盛岡市民文化ホール 大ホール

2011
1/08(土) 広島ALSOKホール
1/15(土) 新潟県民会館
1/21(金) 札幌市民ホール
1/28(金) 中京大学文化市民会館 オーロラホール
1/30(日) 神戸国際会館こくさいホール
2/02(水) NHKホール
2/05(土) サンポートホール高松
2/07(月) 京都会館第一ホール
2/09(水) グランキューブ大阪
2/13(日) 福岡市民会館
2/18(金) 大宮ソニックシティ
2/19(土) 東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)
2/22(火) 神奈川県民ホール

 

■ PROFILE…秦 基博(はた もとひろ)

 06年11月にシングル「シンクロ」でデビュー。
「鋼と硝子で出来た声」と称される唯一無二の歌声と圧倒的なライヴ・パフォーマンスで注目を集める。
最新アルバム『Documentary』リリース後、全国ツアーがスタート!

 


記事内容:TOWER 2010/10/05号より掲載

カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2010年10月04日 11:00

ソース: 2010/10/05

青木 優