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インタビュー

ティム・ロビンス


オスカー俳優が音楽で語るストーリー

 

デビュー・アルバム『ティム・ロビンス・アンド・ザ・ロウグス・ギャラリー・バンド』を引っさげ、初来日公演を行なったオスカー俳優のティム・ロビンス。舞台上の彼とバンドから音楽をやる喜びがたっぷり伝わってくるライヴで、僕らを楽しませてくれた。

 だが、彼は本格的な歌手活動を始めたばかり。言葉の通じない日本で歌うのに難しい面もなかっただろうか。

「演劇で観客と直接触れ合うことを学んだし、外国で公演したこともある。最も本質的なことは、感情、感情の真実だって理解するようになった。それは言語を超越するんだ。ただ言葉だけだったら距離ができてしまうが、信じられる誠実な感情があれば、言葉を超えられるんだよ」

ロウグス・ギャラリー・バンドとのサウンドはフィドルやマンドリン他をフィーチャーして、アイリッシュぽさもある、ポーグスあたりを思い起こさせるものだった(実のところ、同行したデイヴィッド・コールターはポーグスの元メンバー)。

「アルバムの制作にあたって、プロデューサーのハル・ウィルナーにどんな楽器編成にしたいかと訊かれた。僕はポーグスが大好きで、大きな影響を受けている。そしてアーケイド・ファイアの大ファンなんだ。彼らのやっていることはフォーク音楽だと思う。だから、昔ながらのギター、ベース、ドラムじゃなくって、色んな楽器を使いたかった。アコーディオンやフィドル、ハーディガーディなどを使って、異なったサウンドにしたかったんだ。幸いにバンドの連中は幾つも楽器を弾けるミュージシャンなので、曲毎にどの楽器が合うかなと選んだ」

ティムは60年代に活躍したフォーク・グループ、ハイウェイメンのギル・ロビンズの息子という音楽一家の出身。フォークのメッカ、NYのグリニッチ・ヴィレッジで育ち、幼い頃から音楽に親しんだ。

「とても特別な場所で育ったね。たぶんあの頃、つまり60年代のアメリカで、いや世界中でも最も進歩的な地区だった。あの時期には音楽をやりたい人たちはみんなグリニッチ・ヴィレッジにやってきたから、最高のシンガー・ソングライターたちが登場するのを目にした。ディランやフィル・オクス、彼らに続いたエリック・アンダーソンとか。その考えは自分自身の物語を書くということだった。ロックンロールの前にフォーク音楽がそれをやったんだ。もちろん当時はまだ子供だったから、外の世界を知らなかったよ。グリニッチ・ヴィレッジが僕の世界だった。17歳でカレッジに進んで、初めて世界がダサいところだって知ったのさ(笑)」

実はティムが目指していたのは、俳優でも歌手でもなかったという。

「大学に行った元々の目的は演劇の演出家になるためだった。LAで「アクターズ・ギャング」という劇団を始めた。それが30年前のことで、今も一緒にやっている。俳優業はその後のことで、劇団の資金稼ぎに始めた。映画スターになるなんて野望は一切なかった。演出家になりたかったんだからね。でも、それから起こったことがエキサイティングだったのは否定できないね。劇団を続けるお金も稼げたし。それで俳優も続け、ある時点でそれが本業になった。でも、演出をやりたい気持ちは変わらなかったから、『ボブ・ロバーツ』や『デッド・マン・ウォーキング』で映画監督もやったわけさ。92年に『プレイヤー』に出て、カンヌで賞をもらったときには、あらゆるオファーが来たよ。「世界が牡蠣だ」という表現を知っている?(世界が思うままになるの意) そんな中に音楽のオファーもあった。でも、そのときは良くないと感じたんだ。カヴァー曲を集めたレコードなんか作りたくなかったし、一瞬のロックスターにはなりたくなかった。幸運にも得られた名声を利用したくなかったんだ。だから「ノー」と断った。たぶん将来やるだろうとは思っていたけど。その後は3人の子供を育て、映画と演劇の仕事で忙しくしていた。音楽まで手は回らなかったんだ」

だが、そういった年月にも常に曲は書き続けていたという。

「僕は映画の撮影にも必ずギターを持っていく。アルバムの大半はホテルの部屋で書かれた。1日の仕事を終えて夜遅く、自分の体験や出会った人びとに聞いた物語を曲にしたんだ」

演劇や映画も歌も同じく物語を語るわけだが、脚本と歌を書くのでは、どちらが難しいのだろう。

「曲作りの方がずっと難しい。レナード・コーエン、トム・ウェイツ、ウォーレン・ジヴォン、タウンズ・ヴァン・ザント、スティーヴ・アール、ジャクソン・ブラウン、スプリングスティーンといったソングライターたちに感心させられるのは、たった4分程度で僕らを異なった世界に連れていくことだ。曲作りは自分への挑戦なんだよ」

それでは、歌手と役者の違いはどうだろう?

「感情を正直に表現する点は同じ。良い役者には苦悩の醜い面を見せる勇気がある。歌も心の奥底から感情を表現する。異なる点は、演技では別の人物を演じるけれども、音楽の場合はそれが自分だから、表層がもう1枚めくられ、より赤裸々なんだね。また、ライヴの体験は音楽の方が満足できるよ。演劇では毎晩同じセリフを同じ場所で言わなくちゃならないけど、音楽は毎晩異なった物語を語れる。どの曲を、どの順番で歌うかの選択次第で、自分がその旅を組み立てられるんだ。でも、どちらにしても表現に正直さが欠けたら、うまくいかないさ」

 

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年11月01日 11:00

ソース: intoxicate vol.94(2011年10月10日)

interview & text : 五十嵐正