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インタビュー

小山実稚恵 インタヴュー



© Wataru Nishida

アルバム・デビュー25年の軌跡が詰まった充実の選曲

2012年は、小山実稚恵がショパンのピアノ・ソナタ第3番他でアルバム・デビューを果たしてから25年の記念の年にあたる。この間、幅広いレパートリー を収録してきた彼女が最新録音に選んだのは、初録音のシマノフスキ、スカルラッティを含む、ピアノの多種多様な魅力が詰まった小宇宙のような作品群。得意のロシア作品、大好きなバッハも含まれている。

「2011年の震災に遭遇し、東北出身の私は衝撃を受けました。そしていま自分にできることは何かと考え、音楽の力を信じてみんなが聴きやすい曲、自分の思いが強い曲、いまの心情を映し出す曲でアルバムを作ろうと思いました」

昨年は人生について深く考えさせられる年だったと述懐する。そして生きる意味を考え、さまざまな作曲家のリアルな人生が投影された個性的な作品でプログラムを組み立てた。

「軽井沢の大賀ホールのピアノはまさに生きている楽器で、空気の変化で瞬時に音色が変化します。それに合わせ、いまはこの曲に向いていると判断し、曲を選んで集中して録音しました」

今回は嬰ハ短調のスカルラッティで幕開けし、同調のバッハで終幕する。そのなかに彼女いわく「弾いているとあまりに美しく素朴で、胸がいっぱいになる」というブラームス、「ミステリアスな魅力」というスクリャービンとシマノフスキ、寒い土地に育ったからか、「ロシア作品が内包する情景がよく理解でき、雪の硬さや氷の触覚がわかる。重いコートの感覚も。ロシア作品は本能的に好きなんです」というラフマニノフやチャイコフスキーがちりばめられている。

「デビュー以来さまざまな作品を弾いてきましたが、なかでもバッハは特別な位置を占めています。存在自体が非常に大きく、圧倒的ですね。私はラフマニノフやショパンを弾いているとピアノを弾く幸せを心から感じ、ベートーヴェンを弾いていると人間に生まれてよかったとつくづく思う。そしてバッハは宇宙的な広がりを感じます」

今年6月には東急文化村オーチャードホールの全24回のシリーズ後半のスタートとなる13回目を迎え、秋にはフェドセーエフ指揮チャイコフスキー記念オーケストラとのツアーも予定。いま、充実の時を迎える小山実稚恵の新譜は、「こういう曲が聴きたかった」とみんなが願う1枚ではないだろうか。各作品の表現を変え、作曲家の魂に肉薄していく渾身のピアニズム、濃密な1枚だ。

LIVE INFORMATION 2012年

2/25(土)さいたま芸術劇場音楽ホール
3/3(土) 広島市西区民文化センター
3/6(火)調布市グリーンホール
3/10(土)秋田県民会館
3/11(日)盛岡市民文化ホール
3/18(日)Bunkamura オーチャードホール
3/21(水)豊田市コンサートホール

★10月にはフェドセーエフ指揮チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ(モスクワ放送響)と日本ツアーを予定
http://amati-tokyo.com/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年02月22日 16:25

ソース: intoxicate vol.96(2012年2月20日発行号)

取材・文 伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)