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インタビュー

ルトガー・ベッケンホフ(audite)



Ludger Bockenhöff


〈最もふさわしい音〉のために、緻密と誠実を


「僕らが最も大切にしているのは、音楽家と膝をつきあわせて話し合いを重ね、この作品とこの演奏に最もふさわしい音は何かを追究すること」とドイツのレーベル〈audite〉を率いるルトガー・ベッケンホフは語る。歴史的録音の高音質復刻から、実力高い音楽家たちと共に着々と進める新譜まで、いずれも音楽的内容と驚くべき高品質の録音とが合致したアルバムを世に送り続ける人だ。

「新録音も、細部にこだわりつつ音楽の大きな構造を捉えないといけませんから凄い集中力を要する仕事。しかし永遠に残るものを創るため最善を尽くす人々と共に仕事できるのは素晴らしい!」

原田英代や河村尚子ら音楽の緻密と生命力を磨くピアニストとの録音も美しいし、優れたショスタコーヴィチ全集を完成した俊英・マンデルリンク弦楽四重奏団とはメンデルスゾーンの全集を進行中、クレモナ四重奏団とはベートーヴェンを全集録音するほか、ホリガー指揮WDR響のシューマン交響曲全集など新企画も多数。復刻ものでは、フルトヴェングラー指揮の録音をRIAS放送に残されたマスターから見違える音質で蘇らせた12枚組CDは大好評、LPレコードでの選集も評判に。

「日本からの提案に大賛成でLP化しました。日本の皆さんは過去の個性的な巨匠指揮者たちの名演にこだわりを持って聴いてくださっていますね。ヨーロッパでは同じRIASの録音によるバッハのカンタータ選集(リステンパルト指揮/1949〜52年に29曲を録音して中断)をリリースして、いま聴かれてもなお新たなバッハ解釈の窓を開けるようなものとして非常に注目を集めました。我々は放送局と長年かけて構築してきた信頼関係に基づいてオリジナルから復刻していますが、コピーを重ねるうちに劣化する録音もマスターまで遡れば驚くほど良い状態で保存されているものが多い。ところが古い録音はピッチが変動していることもあり音楽の内容に関わるので繊細な調整が必要です。フィッシャー=ディースカウの《冬の旅》を復刻した時も、どの調で録音したのか分からないくらい。ご本人に確認したら、こだわってなかったなぁなんて言われて(笑)。音楽学的な観点などあらゆる分析を重ねて復刻しました」

ダウンロードなど新しい聴き方にも対応しつつ 「CDという規格は今後も残ってゆくと思います」と語る氏の緻密な仕事、今後も要注目だ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年07月02日 15:49

ソース: intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)

取材・文 山野雄大