こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

三輪洋子

バークリーの助教授は、ボストンで人気ナンバーワンのピアニスト

三輪洋子はボストン在住のジャズ・ピアニスト。バークリー音楽大学の助教授として教え、ボストンを拠点とした自己のトリオで活躍している。この度リリースされた新作『アクト・ナチュラリー』も、長年活動を共にしているレギュラー・トリオによるもの。ジャズ・スタンダードに加え、ジョン・レノンやニール・ヤングの曲を独自のアレンジで演奏している楽しい作品だ。

「今度のCDは私がレギュラーでやっているトリオの、いつものライヴの演奏をそのまま録音したいと思いました。だから録音もどんどん進んで、ほとんどがファースト・テイクですね。レギュラーでずっとやっているトリオの強みは、その3人でしかできないサウンドがある、ということだと思います。私だけが目立つんじゃなくて、トリオのサウンドで勝負する、というか。ドラマーのスコットとは最初から12年一緒で、ベーシストのウィルは5年ぐらい前からやっています。曲についても、ジャズ・スタンダードじゃない曲を自分なりのアレンジでやることが面白いと思うんですね。お客さんが、え、これってニール・ヤング? って驚いてくださるのがうれしいんですよ」

12年間同じメンバーでトリオを続けているのは、ジャズの世界ではきわめて珍しいことだ。だいたい、バークリーに入ってからボストンに15年間居続けることはすごい意志力だな、と思う。

「最初はバークリーで1年だけお勉強して帰国するつもりでいたんです。それがバークリーに来たうれしさのあまりピアノを弾きすぎて腱鞘炎になっちゃいまして、泣く泣く作曲や理論を学びました。それでプランが変わって、せっかくだからちゃんと卒業したいと思って長くいて、ピアノが弾けるようになったら仕事が入るようになり…という内に15年経ったんですね。でも腱鞘炎になったおかげで自分で曲を作るようになったので、そのことはよかったんだと思います」

卒業後ボストンにずっと居続ける人は少ないようだが、なぜボストンに?

「ほとんどの人がバークリーを卒業するとニューヨークに行くんですけど、結局はボストンにいたときと同じようなグループだけで、お金ももらえないような小さいところでセッションしているんですね。ニューヨークは、自分が住む場所としては私は好きじゃないんです。たまに行くとエネルギーをもらえるんだけど、住むには暗いイメージがあって。ボストンに残ったおかげで少しずつファンが増えていって、今はスカラーズとレガッタ・バーという、二つの大きなジャズ・クラブで演奏できるようになりました」

ところで、バークリーの助教授になるというのは、実は凄いことなのだと思う。きっかけは?

「学生の頃からピアノの伴奏者の仕事をバークリーでやらせていただいて、卒業後はスタッフとしてピアノを弾いていました。そうしたら9‧11が起こって、グリーン・カードがなかったり市民権を持っていない外国人がクビになっちゃったんです。それでしばらくバークリーから遠ざかっていました。ある日留守電にバークリーから『教えに来てくれませんか?』というメッセージが入っていて。バークリーには理論とかイア・トレーニングとかいろんな授業があって、まずはそういう授業の講師をさせられるのが普通です。私はそれには興味がなかったんですが、ピアノの個人レッスンの先生をやってほしいということだったので、それならぜひ、と。私はテクニックだけじゃなくて、ステージで何が起こって、ステージで何が要求されているのか、ということを自分の経験から教えることを大事にしています。何が起こっても対応できるフレキシブルなミュージシャンになってもらいたいんです」

三輪さんが学生だったときに、そういう先生はいましたか?

「いなかったかもしれませんね。自分ひとりで悩んで壁にぶちあたって、それを乗り越えてなんとかやってきた、と思います。辛くて悲しくて、もう音楽やめてやる! と一瞬思うんですけど、それは自分にはできないことなんですね。順調に行くんじゃなくて、辛い時期を体験したことが自分の書く曲や演奏に出ているんだと思います」

ところで、日本人の女性がアメリカでジャズ・ミュージシャンとして活動することについて、いろいろ辛い部分もあるのでは?

「初めて演奏する場で、日本人の女性には最初は挨拶もしてくれないことも多いんです。でも1曲目にちゃんと弾くと態度ががらっと変わって、にこっと笑ってくれたりとか(笑)。そういう意味ではアメリカは実力主義ですね。そんな中で女性の魅力を売りにする人がいてもいいけど、私は実力で勝負したい。今は続けてきたトリオが評価されるようになって、黒人の方がサンデー・ブランチの演奏を聴きに来てくれて、ここは僕の教会だよ、って言ってくれたりすることがほんとにうれしいんです!」

LIVE INFORMATION

9/29(土)神戸朝日ホール
9/30(日)貝塚コスモスシアター
10/ 2(火)大阪ロイヤルホース
10/ 3(水)丸の内コットンクラブ
10/5(金)浜松ハーミッツトドルフィン
10/ 6(土)名古屋doxy
10/ 8(月・祝)岡山 NHK岡山放送局 ひかりの広場

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年09月05日 11:45

ソース: intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)

取材・文 村井康司