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インタビュー

ニュウニュウ

原曲に寄り添ってリスト編曲版を演奏

2年前からアメリカに留学して研鑽を積んでいるニュウニュウが、シューベルトやワーグナー、パガニーニの作品をリストがピアノ用に編曲したものを集めて1枚のアルバムを作り上げた。

「どうしても収録したかったのは、シューベルトの《魔王》。これは3つのキャラクターがそれぞれ個性的な音楽によって表現され、それをリストがより鮮明に立体的な形で編曲している。ぼくは原曲を何度も聴き、歌詞も理解し、自分なりの《魔王》を生み出したかった。だからディレクターがすぐにOKを出してくれたけど納得できず、何度もテイクを重ねてあきれられたくらい(笑)」

ニュウニュウはニューイングランド音楽院の奨学生として付属高校で通常の学科を学び、週に2回音楽院でピアノのレッスンを受けている。

「高校のクラスでは、留学生はふたりだけ。すべて英語で授業が行われるため、これが一番大変。もう日常会話は大丈夫だけど、宿題も山ほどあってパソコンで先生に提出しないといけないため猛特訓し、英語を書くのがすごく速くなった」

新譜のなかでは、ワーグナーの《イゾルデの愛と死》がもっとも長く弾き続けている作品。7歳で始め、上海音大のマスタークラスで演奏したときにはパウル・バドゥラ=スコダとレスリー・ハワードが見事な演奏に仰天したという。以後、ハワードからは教えを受け、今回のリスト編の録音でも原典版のこまかなところを伝授してくれた。

「先生は原典版を詳細に研究し、だれも気づかないようなこまかい出版のミスを見つけ、本来あるべき姿を教えてくれる。ほとんどの楽譜はのちに手が加えられているから、オリジナルを知ることはとても大切。ぼくはまだまだ曲の理解が足りず、表現力も磨かなくてはならないから、こうした偉大なピアニストたちから教えられることは多い。もっと演奏を成熟させ、聴いてくれる人に納得してもらうピアニストになりたいんだ」

既に182センチの長身だが、かなりスリム。からだも精神ももっと鍛える、と熱く語る。昨秋には中国を訪れたアヒム・フィードラー指揮ルツェルン音楽祭弦楽合奏団と共演し、リストの《呪い》を演奏。珍しい作品ゆえ、大変だったという。

「別のピアニストが決まっていたけど演奏されない曲なので辞退し、ぼくに回ってきた。こういうチャンスは逃したくないので、1カ月間必死でさらったんだ。リストを知る意味でもよかったよ」

勉強あるのみ、そう語る口調が清々しかった。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年09月07日 21:12

ソース: intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)

取材・文 伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)