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インタビュー

アンドレア・セグレ(映画監督)

小さなヴェニスを舞台に描かれる〈詩人〉たちの友愛

ヴェニスに似たアドリア海に面する漁師町、キオッジャを舞台とする『ある海辺の詩人─小さなヴェニスで─』。男たちの憩いの場であるオステリア(酒場兼カフェ)で働き始めた中国人女性と、かつて旧ユーゴスラヴィアから移り住み、言葉遊びが得意なことから〈詩人〉と呼ばれる老年男性のあいだで育まれる心の交流を静謐なタッチで描く。ドキュメンタリー畑で活躍してきたセグレ監督にとって初の劇映画であるにもかかわらず、どこか幻想的な叙情性のもとに、今日のイタリアにとって切実でリアルな移民問題を融けこませる完成度の高さに驚かされる。

「母親がキオッジャ出身で、私は子どもの頃からあの町の文化圏に属してきた。学校で映画作りを学んだわけではなく、旅をしながらその先々でカメラを回すことで映画を学んだ私のなかで、移民への関心も早くに芽生えました。この映画では、幼い息子を祖国に残し遠く離れた異郷の地で働き暮らす中国人女性に焦点を当てますが、私の映画はいわば外国で出会った人々を被写体とすることで始まり、しかし今回はその関係が逆転するかのように、外国からやってきた存在をイタリアで迎えるかたちになるのです。これは、以前から多くの移民を送り出してきながら、現在は逆に移民流入の急増による軋轢に直面する、イタリアの現状を指し示すものでもあるでしょう」

それぞれに異郷の地で疎外感を味わう男女のの強い絆は、まず何よりも〈水〉を介して成立する。キオッジャという実在の町の特質を緻密かつ大胆につかみ、物語の舞台として活用する手腕においても、セグレのドキュメンタリー的な資質や経験がいかんなく発揮されるのだ。

「人を結びつけるものであると同時に、分かつものでもある〈水〉……。私の考えでは、自然や風景は映画の単なる舞台背景にとどまらず、それ自体が、主要な〈登場人物〉でなければならない。でもこの点に関しては、ロベルト・ロッセリーニらネオ・レアリズモの作家たちが、私よりはるかに巧みに説明してくれるでしょう(笑)。いずれにしても、やはり私の最初の劇映画はキオジャで撮られるべきだったのです」

雪を頂く山並みが蜃気楼のように海の向こう側に浮かぶ遠景ショットに心惹かれた。最後にそのショットについて質問すると……。

「あれは、300キロほどキオッジャから離れた地点にある山並みです。あれほどくっきり見えるのは、年に2、3回ほどにすぎず、地元の住人にとっても珍しい光景なのです。それでも実は脚本にあの光景を書いておきました。ドキュメンタリーの現場でありがちなことですが、それを実際に撮れるかどうかは運次第で賭けのようなものになります。ラッキーでしたね(笑)」

映画『ある海辺の詩人-小さなヴェニスで-』
監督・原案・脚本:アンドレア・セグレ
出演:チャオ・タオ、ラデ・シェルベッジア、マルコ・パオリーニ、ロベルト・シトラン、ジュゼッぺ・バッティストン
配給:アルシネテラン(2011年 イタリア、フランス)
◎3月、シネスイッチ銀座他にて全国順次公開
http://www.alcine-terran.com/umibenoshijin/

©2011 Jolefilm S.r.l.- Æternam Films S.a.r.l - ARTE France Cinéma

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年03月01日 19:13

ソース: intoxicate vol.102(2013年2月20日発行号)

取材・文 北小路隆志