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インタビュー

吉松隆

反骨と大博打の60年。作曲家・吉松隆の夢がここに結実。

2013年3月20日に東京オペラシティコンサートホールで行われた吉松隆の還暦記念コンサートより。左はELPのキース・エマーソン。
©中島正之

プログレの名曲《タルカス》のオーケストラ版や大河ドラマ「平清盛」のサントラなどにより、ここ数年クラシックファン以外からも熱い注目を集めている作曲家、吉松隆。この春、還暦を記念して集大成コンサート『鳥の響展』が開かれ、そのライヴ盤も最近発売された。その演目中、とりわけリスナーを驚かせてくれのるが、1980年に初めてオーケストラで演奏された吉松(当時27才)の実質的デビュー曲《ドーリアン》だろう。そこでは、イエスやELPといったプログレからジャズ、邦楽、ケチャ、現代音楽などが大胆に統合されている。吉松は笑いながら、当時をこうふり返る。

「クラシック界からはかなりけなされたし、師匠の松村禎三先生にも、欲望に任せてなんでも書けばいいってもんじゃないと言われた。でも、あれが受け入れられていたら、その後の僕の作曲家人生もかなり変わっていたと思う。それこそ、翌年《タルカス》のオケ版を作っていたかもしれない」

そう、様々な要素を取り込んだ、一種ロックのような高揚感、スピード感を持ったこの曲には、近年発表されたオケ版《タルカス》まで真っ直ぐにつながる吉松の音楽的ヴィジョンが既に開花している。換言すれば、吉松は30年以上ずっと同じ夢を見続けてきたのだ。

その《タルカス》も、初演のライヴ音源を収めたCDよりも、かなりアグレッシヴになっている。当日会場で聴いていた作曲者キース・エマーソンも、その激しさとスピードに驚いていたようだ。

「ギターとかドラムとか足せばもっと楽だよねと当日彼が言っていたけど、それをやると逆に緊張感がなくなる。カール・パーマーが一人でドラムを叩いているパートをパーカッショニスト6人がかりでドカドカやるからこそ、逆に緊張感と統一感が出てくるわけで」

このコンサートと前後して、60年の人生を振り返った自伝『作曲は鳥のごとく』も出版されたが、吉松の作曲家人生はけっして楽なものではなかった。

「40代前半、初めて寿司屋のカウンターで食べた時、俺もやっとここまで来たかと思いましたもん(笑)。でも、特に辛かったという記憶もない。だいたい、音楽家として生き残るという気持ちも全然なかったし。好き勝手やって、30代半ばくらいでポックリ行っちゃうんだろう…ぐらいに考えていたから、怖いものはなかった。清水の舞台から飛び降りたら、うまく枝に引っ掛かり、更に60近くになって、地面のトランポリンで跳ね上がっちゃった感じかな。競馬に勝つつもりで最初に大金をつぎ込んだら負けちゃって、それを取り戻そうとしてずっと続けてしまった、そんな人生です」

博打打ちの矜持を持つ、本物のアーティストである。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年09月10日 16:52

ソース: intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)

interview&text:松山晋也