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インタビュー

JOHN BUTLER TRIO 『Flesh & Blood』



バンドの大いなる進化を刻む4年ぶりのニュー・アルバム。心で動く肉体のグルーヴは、喪失の向こうにある希望を創造性豊かに描き出した!



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ジョン・バトラー・トリオのニュー・アルバム『Flesh & Blood』は、2009年にニッキー・ボンバ(ドラムス)とバイロン・ルーターズ(ベース)のラインナップとなって以降、ひとつの到達点とも呼べるアルバムだ(ただ、残念ながらボンバはほぼすべての制作が終わった段階で脱退を表明。後任にグラント・グラシーが加入した)。前作『April Uprising』(2010年)をリリースした彼らは、ブルージーなグルーヴに溢れた音楽性と、生粋のライヴ・バンドとしての実力をワールド・ツアーで見せつけた。2011年リリースのDVD「Live At Red Rocks」でもその勇姿を観ることができるが、2010年の〈フジロック〉や同年の単独公演にて、その変幻自在な演奏に魅了された方も多いのではないだろうか。トリオ・バンドとして邁進する一方で、ジョン・バトラー(ヴォーカル/ギター)はソロでのライヴに加えて、オーストラリアのキンバリー地方で環境保護活動に取り組むなど、多方面で活躍していた。

2012年に制作を始めた今回の新作は、彼らのキャリア史上もっとも長い期間をかけ、ヴァラエティーに富み、かつダイナミクスにも溢れた内容となった。その理由のひとつをバトラーはソロ・ライヴの経験だと語る。

「トリオでのライヴは3人の演奏を10人がやっているように聴かせるという〈かけ算〉の考えでやってきた。ソロ・ライヴをやるにつれて、少ない音数でも言葉と音は力強く響くことを実感したんだ。だから今作は小さな音から恍惚的でエフェクティヴな大音量まで、トリオの力を最大限に引き出した」。

バンド色を強めるためにルーターズやボンバとの共作も増え、作曲面でも変化が見られる。レゲエ調の“Blame It On Me”やファンキーな“Devil Woman”は、3人によるジャム・セッションで書き上げられ、即興演奏のヒリヒリとした空気が巧みに収められた。また“Cold Wind”のように、大陸を感じさせるサウンドスケープを採り入れているのも特徴的だ。

「2か月半をかけてオーストラリアを旅行したんだ。“Cold Wind”はそのときにウルル(エアーズロックのある場所)で出会った男性の話を元に書いている。大自然のなかで長い時間を過ごすうちに、ただ曲を書くだけなく、それ自体を感じられて、嗅ぐことができて、味わえるものにしたくなったんだ」。

また歌詞の面での変化は、言葉遣いに見られる。例えば前作では、先祖がブルガリアの〈四月蜂起〉に参加したことに由来してタイトル・トラックでもある“April Uprising”が生まれ、〈闘い〉や〈革命〉という直接的な言葉が多く用いられていた。だが、本作ではこれらの言葉は避けられ、感情の部分に内包されている。

「詩的な言葉遣いを意識したね。例えば、〈喉が渇いた〉という表現よりも、〈僕の口の中は砂漠だ〉というようにイメージを具体化させ、聴き手に新たな感情を思い起こさせるようにした。時事問題について触れるときも、白黒をハッキリさせないグレーな言い回しを追求したよ。今作では精神や心を模索し、もっと自分の内面を見つめていたんだ。そこに本当の革命があるんじゃないかと思ったんだ」。

“Winds Are Wild”はバトラーの祖母の他界をテーマにした荘厳な楽曲だ。今作はその祖母を含めた4人の故人に捧げられており、それらはアルバム・タイトルにも起因している。

「このアルバムを作る前に祖母や元ギター・テック、初期作でいっしょに関わったエンジニア、義理の父親などを亡くした。その経験を経て、僕たち人間は心で動く動物なんだということがわかったんだ。結局は〈フレッシュ(肉)&ブラッド(血)〉なんだってね」。

このように悲しみを乗り越えて作られた本作だが、一聴すると喪失感よりもその後に生まれる希望や温かさが強く感じられる。アーシーでよりワイルドに進化した演奏に加えて、内面を綴ったシンプルな歌詞——『Flesh & Blood』は、人間として一回り成長したバトラーの〈証〉でもあるのだ。



▼ジョン・バトラー・トリオの近作を紹介。
左から、2007年作『Grand National』、2010年作『April Uprising』、2011年のライヴDVD+CD作『Live At Red Rocks』(すべてJarrah/Pヴァイン)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2014年01月22日 17:59

更新: 2014年01月22日 17:59

ソース: bounce 363号(2014年1月25日発行)

インタヴュー・文/伊藤大輔