「音楽界の異端児」エリック・サティ(1866~1925)生誕150年特集
「サティは19世紀の世紀末のパリと第一次大戦前後のパリで活躍した音楽家だ。長いこと傍系の作曲家として無視され、音楽史のページからははみだし者のように扱われてきたサティが1970年以降多面的に論じられるようになっていったのはなぜか?」
「おそらくサティは先駆的でありすぎたのだ。いわば時代がやっとサティに追いついたのだ」
(「卵のように軽やかに―サティによるサティ」訳者あとがき、秋山邦晴、筑摩書房)
「音楽界の異端児」エリック・サティ。彼が生み出した数々の奇妙なタイトルと内容をもった音楽は、同時代のパリのアーティストだけでなく、後世の世界のアーティストに多大な影響を与えました。その音楽と同じく、彼の生き様も風変わりなもので、変人扱いを受けていたようですが、多くの熱烈な信奉者にも恵まれました。生涯を通じて親友であったドビュッシーはもちろん、「バレエ・リュス」との関わりから発展したピカソやジャン・コクトーとの友情、「フランス6人組」・・・デュレ、オネゲル、ミヨー、タイユフェール、プーランク、オーリックの6人、そしてダダイズムとのかかわりから生まれた交友関係など、生涯に渡ってパリの芸術家たちと交流を持ちながら、あの独特の作品を生み出していきました。
2015年はサティの没後90年、2016年は生誕150年にあたり、各レコード会社はサティ作品のCDを次々にリリースしています。ここでは、それらの中からとくにおすすめの名盤をご紹介いたします。
(タワーレコード)
参考映像集
(1)サティ:3つのジムノペディ~第1番 アレクサンドル・タロー(ピアノ)
1888年、サティ22歳のときの作品。当時、フランス音楽界ではワーグナーの音楽を熱烈に支持する勢力と、フランス古典音楽にロマン派の色彩を持ち込み新しい音楽を目指す勢力が競い合っていました。パリ音楽院の学生だったサティはそのどちらにも属さず、中世の神秘主義を愛し、学校を抜け出してはノートルダム寺院に出入りしたり、グレゴリオ聖歌を研究する毎日を過ごしました。
20歳でパリ音楽院を退学し、一時軍人を目指しましたがこれも挫折し、1887年12月から文学酒場「黒猫」の第2ピアニストのアルバイトをしながら、作曲を続けることになります。シャンソンの伴奏やポピュラー音楽をピアノで演じていた頃に作曲されたのが、この作品です。作品名は、古代ギリシャの壺に描かれたジムノペディアと呼ばれる神々を讃える踊りを由来としています。
(2)サティ:3つのグノシェンヌ~第3番 アレッシオ・ナンニ(ピアノ)
1890年、サティ24歳のときの作品。前年、1889年はフランス革命100年にあたり、パリで万国博覧会が開催されました。この時、サティは初めてバリ島のガムラン音楽や、ルーマニアの民俗音楽に触れ、大きな影響を受けます。このグノシェンヌ(古代クレタ島にあった都に由来するサティの造語)は神秘的で東洋的な雰囲気をもった作品となっています。
(3)サティ:星の息子たち~第2番:奥義伝授 ラインベルト・デ・レーウ(ピアノ)
1890年オカルティストのジョゼファン・ペラダンと知り合い、彼が主宰していた秘密結社「薔薇十字教団」の公認作曲家となります。1892年、サティ26歳のときデュラン=リュエルの画廊で薔薇十字会絵画サロンが開かれ、そこでぺラダンの演劇『星たちの息子』を上演するにあたり、フルートとハープのための3つの前奏曲を作曲しました。それをピアノ編曲したのがこの作品です。ペラダンとは同年決別し、薔薇十字教団との関係もこの年限りとなりました。
(4)サティ:あなたが欲しい(ジュ・トゥ・ヴ) 近藤由貴(ピアノ)
1900年頃、34歳のサティが作曲したシャンソンです。1898年、サティはパリ郊外のアルクイユの貧しいアパートに引越し、1925年に亡くなるまでここに住むことになります。「黒猫」を始めとする文学酒場を転々とした彼は、シャンソン歌手ヴァンサン・イスパの伴奏ピアニストとして生計を立てていました。この時代に彼は60曲ものシャンソンを作曲しました。黒い上着に山高帽と雨傘、というスタイルが確立したのもこの頃だと言われています。
(5)サティ:スポーツと気晴らし Michael Seregow(ピアノ)
1914年、出版者ルシアン・ヴォージェルが、イラストレーター、シャルル・マルタンの絵を添えたピアノ曲集の出版を計画。最初ストラヴィンスキーに作曲を委嘱しましたが報酬額が折り合わず、サティが代わって作曲することとなりました。マルタンの絵にサティ自筆の楽譜や詩が印刷された美しい芸術作品として、現在も本として読むことができます。曲は序文の“食欲不振のコラール”と20の小品から成っています。
1.ブランコ 2.狩 3.イタリア喜劇 4.花嫁の目覚め 5.目隠し鬼 6.魚釣り 7.ヨット遊び 8.海水浴 9.カーニヴァル 10.ゴルフ 11.蛸 12.競馬 13.陣取り遊び 14.ピクニック 15.ウォーター・シュート 16.タンゴ 17.そり 18.いちゃつき 19.花火 20.テニス
(6)コクトー台本 ピカソ美術 サティ作曲 バレエ“パラード”より
1911年、少年時代からサティの音楽を愛していたラヴェルが、独立音楽協会のコンサートで名ピアニストのヴィニエスとともにサティの「サラバンド第2番」「ジムノペディ」「星たちの息子」を演奏。それまでパリ楽壇でほとんど認められなかったサティが、若い芸術家たちから大きな支持を集めるようになります。
1914年、詩人のジャン・コクトーはサティを訪ね、バレエの創作を提案。コクトーはそのアイディアを画家のパブロ・ピカソにも伝え、バレエ・リュスの興行主、セルゲイ・ディアギレフに売り込みます。ディアギレフも賛同し、第一次世界大戦のため数年を経て出来上がったのがこの15分ほどのバレエ“パラード”です。1917年5月18日、サティの51歳の誕生日の翌日、パリ・シャトレ座で初演されたときは大成功を収めました。振付と「中国の手品師」役はレオニード・マシーンが担当しました。
(7)サティ:“ソクラテス”より Julia Cavallaro(メゾソプラノ) Charles Blandy(テノール)Rodney Lister(ピアノ)
1918年に作曲され、1920年2月14日に初演されたピアノ伴奏つきの歌曲。ソプラノ歌手のジャンヌ・バトリの紹介でヴェルサイユに招かれたサティは、前衛音楽の庇護者だったポリニャック大公妃より作曲を依頼されます。そこでサティは好きだったプラトンの『対話篇』から三篇のテキストを選んで曲を付けました。
サティ生誕150年、没後90年記念限定盤としてエラート・レーベルが発売したサティ作品全集(10枚組)
※上記楽曲(1)~(7)を全て収録。サティ作品が全て聴ける世界初のBOX。
これまでピアノ作品全集は、旧EMIとしてチッコリーニが録音していましたが、ここではアレクサンドル・タロー、ミシェル・ルグラン、アンヌ・ケフェレックらによる演奏、そして他レーベル音源(ティボーデ、アルマンゴーら)による演奏、そしてタローとアルマンゴーにはこのボックスのための新録音も含め、管弦楽、歌曲なども含めた全集となっています。
(ワーナー・ミュージック)
サティ生誕150年記念限定BOX~SONYエリック・サティ&フレンズ(13枚組)
※上記楽曲(1)(2)(4)(5)(6)を収録。名曲を複数の演奏で聴けるほか、サティ周辺の関連作品も収録。
この13枚組には、サティの作品のみならず、ドビュッシー、ラヴェル、サン=サーンス、シャブリエなどサティと交流のあった作曲家たちの作品がコロンビア~CBSとRCA Red Sealからは発売された歴史的演奏で収録されています。諧謔性、描写性、そしてエスプリと皮肉。これらの感情を音楽に持ち込むことの難しさと楽しさを身を持って示したサティ。プーランクやミヨー、サン=サーンスやフォーレらの夥しい作品の中から、サティの強い影響力とカリスマ性が透けて見えてくるのではないでしょうか。当時のパリの空気が感じられる好企画です。CD1~12の各ディスクはLP発売時のオリジナル・カップリング、オリジナル・ジャケット・デザインの紙ジャケットに収められています(レーベル・デザインも当時のデザインを再現)。CD13は「初期録音」と題したコンピレーションで、カザドシュ、クーセヴィツキー、クルツ、トゥーレルなど1930年代~40年代にアメリカで録音されたサティとサン=サーンスの歴史的録音の復刻です。
(ソニー・ミュージック)
Deccaティボーデのソロ録音集+ロジェ&コラールの連弾BOX(6枚組)
※上記楽曲(1)~(6)を収録。(6)は4手ピアノ版。
サティのピアノ・ソロ作品を年代やテーマによって6枚のCDにまとめたセット。フランス出身のティボーデの演奏は、極めて雄弁で多彩なニュアンスが際立った素晴らしい演奏です。今回の発売にあたって、パスカル・ロジェとジャン=フィリップ・コラールの名ピアニストが組んだ連弾作品集も収録されており、サティのピアノ・ワールドが堪能できるセットに仕上がっています。デッカらしい透明感ある優秀録音です。
(ユニバーサル・ミュージック)
1968年のオリジナル・アルバムのCD化~サティ:管弦楽曲集(2枚組)
※上記楽曲(1)(2)(3)(6)をオーケストラ版で収録。
”Homage to Satie - Orchestral Works”のタイトルで米ヴァンガードが発売した2枚組。長く廃盤でしたが2015年に復活しました。収録曲目は下記の通りです。
パラード、メルキュール、ルラーシュ、風変わりな美女~大リトルネッロ、「真夏の夜の夢」のための5つのしかめ面、馬の装具で、ジムノペディ第1番&第3番(ドビュッシー編)、梨の形をした3つの小品(デゾルミエール編)、2つの前奏曲、グノシェンヌ(プーランク編)、星の息子たち(マニュエル編)、びっくり箱(ミヨー編)
モーリス・アブラヴァネル指揮ユタ交響楽団
真のマルチアーティスト、エリック・サティ
変わり者と称された、彼の足跡を辿るドキュメンタリー映像(日本語字幕つき)
サティはもちろん作曲家でありますが、デザインをしたり、自宅に教会を創設したり、風刺の名人であったりと、遊び心のあるエピソードが沢山あり、このドキュメンタリーはそうした部分にも焦点をあてています。またアップライトピアノを2台重ねてピアニストが演奏したり、スイミングプール、鉄道の駅、工場など、音楽に誰も興味を持っていない場所で演奏し、演奏家自ら「家具の音楽」と化したり、サティの挿絵をアニメーションとして使用したりと、実際にサティの想像を映像化しています。またサティの研究者や関係者、親交があった人物の貴重なインタビュー映像も収録。サティ本人(声優が担当)とともに彼の人生を歩んでいくような内容です。
(キングインターナショナル)