【ジャンル別のオススメ】協奏曲
『ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第2番 他』
クルレンツィス指揮のマーラー室内管、ピアノがメルニコフ、ヴァイオリンがファウストという最強の組み合わせによるショスタコーヴィチ。曖昧なところのない明晰な演奏で、3曲とも文句なしの素晴らしさですが、とりわけ《ピアノ協奏曲第2番》は作品の新たな魅力に気付かせてくれる名演。独特の寂寥感と、ロマンティックな星空のような美しさが混じり合う(少しラヴェルのような)第2楽章は本当に稀有な存在です。レコーディングにあたり、メルニコフとファウストはショスタコーヴィチの自演盤を研究して臨んだとのこと。ヴァイオリン・ソナタに関しては、オイストラフがショスタコーヴィチのピアノ伴奏で1968年にプライヴェート録音した音源を、オランダのコレクターを訪ねて聴かせてもらったというのですから、力の入りようがうかがえます。(レコード芸術特選盤、仏ディアパゾン誌で5点満点の評価)
『ボルトキエヴィチ:ピアノ協奏曲第2番&第3番』
ロシア情緒あふれる交響曲や、ロマンティックなピアノ作品の人気が高まりつつあるウクライナ出身の作曲家、ボルトキエヴィチのピアノ協奏曲は、まさに“もうひとりのラフマニノフ”といった趣で、ロシア音楽ファン、ピアノ協奏曲ファン必聴の作品です。第2番、第3番ともに20世紀初頭に書かれたものですが、作風は感傷的で、実にロマンティック。それでもチャイコフスキーやラフマニノフの亜流で終わることなく、作品からはボルトキエヴィチ自身の個性がはっきりと感じられます。
ラフマニノフの《ピアノ協奏曲第2番》を強く思わせる第2番は、左手のために書かれた協奏曲のレパートリーとしても貴重。ロシア的な終楽章はボロディンを思わせます。第3番には「Per aspera ad astra(逆境を通じて天(栄光)へ)」というラテン語の副題が付けられており、楽曲の後半、天の星々を思わせる美しい緩徐部分から鐘が打ち鳴らされる華々しいフィナーレまで、オルガンが非常に効果的に、かつ感動的に用いられています。
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カントロフ(指揮) 『イザイ:弦楽器のための協奏的作品集協奏曲集』
艶やかなヴァイオリン、深みのあるチェロ、親密な弦楽四重奏、それらが黄昏色のオーケストラとともに奏でるノスタルジックな響き。「詩曲」と呼ばれるこれらの協奏的作品群は、無伴奏ソナタばかりが演奏されるイザイの、作曲家としての全く別の面を示しています。弦の魅力は当然ですが、フランス楽派の影響を受けた大胆な和声進行や、叙情的な雰囲気を盛り上げる壮大な管弦楽書法も後期ロマン派のレパートリーとして申し分の無い充実度。この手の作品を取り上げ、名演に仕立て上げるカントロフの手腕は本当に素晴らしいですね。ハードカバーブック仕様の装丁が美しく、興味深い図版も収録されています。
『ゴダール:ヴァイオリン協奏曲集』
19世紀フランスの作曲家バンジャマン・ゴダールは《ジョスランの子守唄》で有名な、フランス・ロマン派を代表する作曲家です。その才能はサン=サーンスにも匹敵するとされ、交響曲や協奏曲などの大作からサロン向けのピアノ音楽まで、数多くの作品を残しています。この素晴らしいメロディに満ちたヴァイオリン協奏曲を聴けば、彼がどれだけの作曲家であったかお分かりいただけると思います。標題音楽を得意としたというだけあって、《詩的な情景》Op.46における描写力もお見事。知られざるヴァイオリン音楽の魅力を見事な美音で紹介している女性ヴァイオリニスト、ハンスリップの演奏も特筆されます。
武久源造(fp) 『バッハ:協奏曲集IV 未来系バッハへの道』
当アルバム最大の特徴は、バッハのチェンバロ協奏曲を、最初期のピアノであるジルバーマン・フォルテピアノで演奏しているという点。バッハはピアノのための作品を残しませんでしたが、フリードリヒ2世のもとでの即興演奏の際に、ジルバーマン製作のフォルテピアノを弾いています。
結果的に武久源造と気鋭のアンサンブル「ハルモニア・インヴェントゥール」による挑戦は、大成功だったと言えるでしょう。フォルテピアノの音色はオーケストラの楽器の音とよく調和するため、角のとれたまろやかな響きが実に魅力的です。冒頭には奏者自身がフォルテピアノ用に編曲した《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番》の「プレリュード」が置かれており、一気にアルバムの世界に引き込まれます。※《2台のチェンバロのための協奏曲》もペダル・チェンバロとジルバーマン・ピアノの共演という、世界初の画期的な試み。(レコード芸術特選盤)
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『スホーンデルヴルト&アンサンブル・クリストフォリ/ベートーヴェン: ピアノ協奏曲全集 - 弦楽合奏7人&完全二管によるロプコヴィツ邸試演時編成で』
古楽大国オランダが生んだ知性派フォルテピアノ奏者、アルテュール・スホーンデルヴルトが原則「1パート1人」という編成で衝撃を与えたベートーヴェンのピアノ協奏曲全集。彼はベートーヴェンが公開初演前にパトロンのロプコヴィツ侯爵邸で行っていた試演のときの編成を検証し(鍵となったのは部屋の大きさ!)、その編成で全曲を演奏しています。特に弦楽器はヴィオラとチェロだけをダブらせ、ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス1というユニークな編成。またベートーヴェンが自身のヴァイオリン協奏曲を編曲したピアノ協奏曲第6番Op.61aも収録されています。まさに目から鱗、作品に対する考え方まで変わってしまいそうな、全クラシック・ファン必聴のBOXです!
オーケストラ・シンポシオン『メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調(初稿版)&シューマン:交響曲第2番』
オーケストラ・シンポシオンは、コンマスの桐山建志をはじめ、日本を代表する古楽系奏者たちによって構成された演奏団体。高い技術を持っており、丁寧な演奏で活気のある音楽を聞かせてくれます。刺激的なアプローチもありますが、行き過ぎることはなく、耳にきつくあたりません。コジマ録音からリリースされている4枚のアルバムはどれもオススメ。
唯一のロマン派アルバム『熱情のライプツィヒードレスデン 1840'S』ではメンデルスゾーンとシューマンの名曲を取り上げていますが、メンデルスゾーンの《ヴァイオリン協奏曲 ホ短調》はなんと初稿版(自筆譜)!これが普段耳にするヴァージョンとは結構違っているのです。細かい部分ではありますが、聴いてすぐにわかるレベル。ここではピリオド・アプローチの面白さと相俟って、超有名曲をまったく新鮮な気持ちで聴くことができます。オフィクレイドを使用した《序曲「夏の夜の夢」》もカップリングされており、メンデルスゾーン好きな方は必聴。細かく表情づけを行いながら軽やかに畳み掛けてゆくシューマン:《交響曲第2番》も実に面白い演奏。弦のポルタメントや管楽器のサウンドに特徴があります。
『クララ・シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調』
ロベルト・シューマンの妻であり、当時もっとも人気のあるピアニストのひとりであったクララ・シューマンは、作曲家としても相当な才能を持つ人物でした。13歳のときに書き始めたというこの協奏曲にも、彼女の素晴らしい楽才が随所ににじみでています。特にお聴きいただきたいのは、オーケストラが休止し、ピアノ、チェロのソロ、ティンパニのみの親密なアンサンブルとなる第2楽章、そして魅力的な楽想がふんだんに用いられた堂々たる第3楽章。早熟な天才少女の、憧れに満ちた音楽をお楽しみください。第1楽章のみ残されたヘ短調の協奏曲と、夫ロベルトの協奏曲も収録されています。
メルニコフ(p)、フライブルク・バロック・オーケストラ 『シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 他』
アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)、イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)、ジャン=ギアン・ケラス(チェロ)という、いまや世界が認める存在となった三人による、シューマン・プロジェクトの第2弾。1837年製エラール・ピアノを弾くメルニコフと、気鋭の指揮者エラス=カサド率いるFBOによるシューマンのピアノ協奏曲は、時代楽器による新たな名盤の誕生といって差し支えないでしょう。細かなアーティキュレーションの違いが、こんなにも楽曲のイメージを変化させるとは……。すみずみまで神経が行きわたり、切々と訴えかけてくるようなシューマンです。エラール・ピアノの素晴らしい表現力にも注目。
シュタイアー(cemb)、フライブルク・バロック・オーケストラ 『J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲集』
とにもかくにも1枚目冒頭の第1番を。この2枚に収められたバッハ演奏の凄さを最も端的に味わえるのは、やはりこの番号だ。シュタイアーが次々に繰り出す、まさに一糸乱れぬ走句の連続、がっしりと鳴動する低弦に支えられたフライブルクの重量感とのせめぎ合い。聴き手を不思議な感興のうねりへと連れ去るマジカルな気配が濃厚に立ちこめる。全き愉悦が横溢する第3番、親しみある楽想を丁々発止と展開する第6番など、奏でられる音楽自体がとても大きい。緩徐楽章でつくため息も深く、情感の増幅にも事欠かない。intoxicate (C)森山慶方
『ブラームス:ピアノ協奏曲第1番(1854年製エラール・ピアノ使用)』
あの重厚長大なイメージのブラームスのピアノ協奏曲は、作曲当時どのようなサウンドで鳴り響いていたのだろう……そんな疑問にお答えする、目から鱗の一枚がこちら。リットナーは、ブラームスのピアノ作品を作曲年代にあった楽器を使用して録音し、高い評価を得ているピアニストです。
彼が今回協奏曲の録音に当たって選択した楽器は、エラール社の1854年製ピアノ。この作品の初演に関して、ブラームスはエラールのピアノが用意できなかったためにハンブルク初演を見送ったというエピソードがあるのです。つまり幻のハンブルク初演の再現といっても良いでしょう。指揮はコンチェルト・ケルンとの名盤でも知られるエールハルト。刺激的かつエキサイティングなオーケストラ・サウンドと、味わい深くも透明感あるエラール・ピアノの音色、その組み合わせの妙をお楽しみください。若きブラームスの激情が大迫力の音響で迫ってきます!
スパーダ(p) 『パイジェッロ:ピアノ協奏曲全集』
パイジェッロはモーツァルトにも影響を与えたイタリアのオペラ作曲家。モーツァルトやベートーヴェンが彼の主題を使って変奏曲を書くような、当時の人気作曲家でした。そんな彼の8つのピアノ協奏曲は、シンプルながら心地よいメロディーの流れと胸のすくような透明感が一体となった、知る人ぞ知る佳品。一見何でもないような作品にも思えますが、何度も聴いているうちに抗いがたい魅力を放ってくるのです。人によってはモーツァルトより好きになってしまうかも。スパーダの弾くピアノの澄んだ音色も見事なものです。
アイヒホルン(vn) 『ロード:ヴァイオリン協奏曲集』
13歳でヴィオッティの愛弟子となり、ナポレオンの宮廷ヴァイオリニストも勤めたというロード。彼のヴァイオリン協奏曲はパガニーニやヴィエニャフスキも愛奏したといい、特に第7番はナポレオンの御前で披露されたというエピソードがあります。作風は初期ロマン派風で感情豊か、技巧的な部分であっても楽想からみずみずしさが失われることはありません。芳しい旋律線は、彼がボルドーの調香師の家の生まれであることと関係しているのでしょうか……アイヒホルンのヴァイオリンの美しさは驚嘆すべきもので、是非コレクションに加えていただきたい1枚です。
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『セルヴェ: チェロ協奏曲, およびその他の協奏的作品』
ベルリオーズやロッシーニによって賞賛されたベルギーの大チェリスト、セルヴェはチェロをエンドピンで床に立てて弾くスタイルを体系化し、それまでのチェロ演奏技法をさらに発展させた人物として知られています。まだまだチェロのための作品が少なかった時代に、技巧と音楽的内容のバランスがとれた数々の名作を残し、それらは今でも世界中のチェロ奏者に愛奏され続けています。メンデルスゾーン風の曲想に超絶技巧と美しい歌を盛り込んだ《チェロ協奏曲第1番》や《協奏的小品》、16世紀の舞曲に基づく《ラ・ロマネスカ》(これは当時大評判となったそうです)など、劇的かつ繊細なセルヴェの名作を、ベルギーの名手ポスカンが愛情のこもった最良の演奏で聴かせます。
『ポッパー:チェロ協奏曲第1番~第3番』
チェコ出身の19世紀の偉大なチェリスト、ポッパーの音楽は、ほとんどチェロを弾く人にしか知られていませんが、名手ならではの素敵な作品が沢山眠っています。彼のチェロ協奏曲は、縦横無尽の技巧はもちろん、チェロで奏するのに相応しい暖かみのあるメロディ(たまにちょっと感傷的)に、ロマン派の王道を行くような壮大なオーケストラと、どこをとっても理想的に書かれています。ブラームス、またはライネッケのようなドイツの正統派の作曲家がお好きなら、これらの作品も必ずや気に入ることでしょう。チェリストのウェン=シン・ヤンは他にもピアッティやセルヴェ、ダヴィドフといった「当時のチェロのエキスパート」達の演奏困難な作品を録音していますが、その演奏はどれを聴いても素晴らしく、いつも驚かされます。いったいどれほどのテクニックを持っているのでしょうか……
A.デイヴィス(指揮)『エルガー:チェロ協奏曲、威風堂々第1番~第5番』
さすがCHANDOS、自国を代表する作曲家のアルバムの制作に関しては、並々ならぬ熱意が感じられます。選曲、演奏、音質、さらにジャケット写真まで含め、こんなに完成度の高いアルバムはそうないでしょう。「ナッシュ・アンサンブル」のチェリスト、ワトキンスがノーブルな演奏を聴かせる《チェロ協奏曲》に始まって、名曲《序奏とアレグロ》《弦楽のためのエレジー》と続き、《威風堂々》(嬉しいことに全5曲!)で締めくくる絶妙なプログラム。エルガーの滋味深い音楽は、このような瑞々しい演奏とクリアな録音で聴いてこそ、という感じがします。《威風堂々》の壮麗なサウンドは言わずもがな、実にドラマティックな演奏で、この5曲のためだけに当盤を買うのもアリでしょう。アンドルー・デイヴィスのイギリスものにハズレはありません。1920年代初頭のロンドンの写真を用いたジャケットも素敵ですね。
『チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番(1879年版)』
1875年の完成後、1879年と1888年の2度にわたって改訂が行われたチャイコフスキーの《ピアノ協奏曲第1番》。我々が現在よく耳にしているのは1888年の最終稿で、誰もが知っている冒頭の連続する和音もその際に書き換えられたものです。この盤でガフィガンが使用しているのは1879年の版、しかも2015年のチャイコフスキー生誕175周年を記念して初めて公開された、新たな原典版を用いています。ここにはチャイコフスキーが印刷譜に対して行った様々な変更が含まれており、今回が初録音。音の強弱やアーティキュレーション、テンポの指示等がより抒情的なスタイルになっているほか、例の冒頭の和音がアルペジオになっており、その違いに驚かされることでしょう。
ロト&レ・シエクル 『デュボワ:ピアノ協奏曲第2番、十重奏曲』
サン=サーンスの同時代人であり、和声や対位法の教本の著者として有名なデュボワ。その気難しそうなイメージとは裏腹に、曲中にふと現れる感傷的な曲想が彼の最大の魅力となっています。ピアノ協奏曲は充実した第1楽章に続く第2楽章の感傷、第3楽章の諧謔、第4楽章の即興といずれも彼の力量が窺える優れた内容。十重奏曲は20世紀に入ってから書かれた作品で、シャブリエにも似た優しさと繊細な書法が大変魅力的です。
『ショパン:ピアノ協奏曲第1番&第2番』
1849年製のエラールで弾くアヴデーエワ+古楽界の巨匠ブリュッヘン&18 世紀オーケストラ+エキエル校訂のナショナル・エディション=オリジナル楽器演奏の名演が、新しいショパン像を提示。アヴデーエワは作品を緻密に研究し、すべての音に魂があるかのような丁寧さで音楽を紡いでいく。軽やかなサウンド、丸みを帯びたハーモニー。ブリュッヘンの流れるようなショパン。あまりにも魅力的で新鮮な演奏でした。
『映画を彩るピアノ協奏曲集』
映画のために書かれた華麗なるピアノ協奏曲、もしくはピアノ協奏曲風にアレンジされた映画音楽を集めた、他にはないナクソスレーベルならではの名盤です。演奏はこの種の音楽が得意な、知る人ぞ知るピアニスト、フィリップ・フォーク。音質もよく迫力あるサウンドをお楽しみいただけます。ラフマニノフやチャイコフスキーを思わせる甘く美しい旋律満載のディスクですが、それだけではありません。ローザの「白い恐怖」協奏曲ではテルミンが使用され、異様な雰囲気を効果的に表していますし、ハーマンの《死の協奏曲》では現代音楽風の曲調と、リストばりの超絶技巧をお楽しみいただけます。
『ジャズ・ノクターン~ジャズ・エイジのアメリカ協奏曲集』
《ラプソディ・イン・ブルー》はこれが世界初録音となる省略なしの完全オリジナルヴァージョン。バックがジャズ・バンドだからオリジナル、というわけではありません。当アルバムの指揮者ローゼンバーグが今から30年以上前にガーシュインの兄アイラから貰ったという、手稿譜のコピーを用いて演奏しているのです!つまり従来削除されていた部分が復活しているということで、これは貴重。この録音ではバンジョー等の音もはっきりと聞こえ、オケ版を聴き慣れている耳には斬新です。演奏も綺麗すぎないところが良く、《バンジョーとオーケストラのための組曲》などその他の作品もかなり楽しめます!
ショパンを生んだ国ポーランドには、素晴らしいピアノ協奏曲がいっぱい!
『パデレフスキ:ピアノ協奏曲 イ短調』 ゲルナー(p)
ポーランド出身の偉大な音楽家を考えたとき、ショパンの次に挙げるべきはパデレフスキの名前でしょう。パデレフスキは演奏と作曲の両方に類稀なる才能を発揮し、また機知に富んだ教養ある人物であったため、ピアニストとしても作曲家としても当時の人々から大変な尊敬を集めていました。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、彼は短期間ながらポーランドの首相まで務めたのです。1880年代後半からのピアニストとしての人気は凄まじいもので、リスト以後のもっともリスト的なカリスマ・ピアニストといっても過言ではありません。しかしキャリアの前半では、演奏ではなく作曲に可能性が見出されていたというのですから驚きです。
そんなパデレフスキの作品には、知られざる名曲が数多く眠っており、この《ピアノ協奏曲 イ短調》もそのひとつ。シューマンやグリーグ、またマクダウェルの第1番などとあわせて聴きたい、イ短調協奏曲の名作です。全曲を通して聴きごたえたっぷりの力作ですが、白眉は第2楽章「ロマンツァ」。偉大な先人ショパンを思わせる憧れに満ちた緩徐楽章は、あの気難し屋のサン=サーンスをも感服させたと伝えられています。(パデレフスキは自作に自信が持てなかったため、サン=サーンスのもとへ助言を求めに行ったのです。このエピソードについては下記自伝の上巻に詳しく載っています。)確かに、この第2楽章には人の心を動かす何かがあります。ポーランド国立ショパン協会が制作した俊英ゲルナーのみずみずしい演奏が録音も新しく、オススメ。
※パデレフスキ:ピアノ協奏曲 イ短調より第3楽章
『モシュコフスキ:ピアノ協奏曲 ホ長調』 モーグ(p)
モシュコフスキも前述のパデレフスキと同様、演奏と作曲の両方に長けた教養ある人物で、生前は高い尊敬と人気を集めていました。「ショパン以降に、ピアノのためにどのように作曲すればよいかをもっとも心得ていた人物」というのがパデレフスキによるモシュコフスキ評。パでレフスキはさらに「彼の書法はピアノのテクニックすべてを包含している」とまで語っています。
生前はピアノの小品だけでなく、オペラのような大規模作品でも人気があったモシュコフスキ。この《ピアノ協奏曲 ホ長調》も、第一次世界大戦以前は人気が高く、特にドイツやイギリスで親しまれていたといいます。作品は美しいメロディで溢れ、彼の特長である充実のピアノ書法とエレガントな作風が上手く組み合わされています。特に終楽章(第4楽章)における幸福感に満ちた楽想とスリリングなピアノ・パートの混合は、ほかではなかなか味わうことのできないもの。前述のパデレフスキや後述のシャルヴェンカの協奏曲とともにリバイバルが求められる作品です。過去の名作の蘇演を積極的に行っているドイツの若きヴィルトゥオーゾ、ヨーゼフ・モーグの演奏で。※フランスのディアパゾン誌で5点満点の評価
『F.X.シャルヴェンカ:ピアノ協奏曲全集』(2CD)
タワレコオンラインのベストセラー&ロングセラー!前述のモシュコフスキとも親しい間柄であったポーランド系ドイツ人の作曲家・ピアニスト、フランツ・クサヴァー・シャルヴェンカの4つのピアノ協奏曲は、初演時から大絶賛されていた第4番をはじめとして、今日演奏されないのが不思議な作品の代表格。ピアノパートもオーケストラパートもこれぞロマン派!と呼びたくなるようなゴージャスさで(もちろんシリアスな面もあり)、ピアノ協奏曲好きにはたまらない作品となっています。
例えば《ピアノ協奏曲第1番》は被献呈者のリストによって賞賛されたほか、作品の予想以上の出来に驚いたハンス・フォン・ビューローによって、チャイコフスキーの《ピアノ協奏曲第1番》からの盗用を疑われたというエピソードも。またマーラーが指揮をしたり(第4番)、ソリストを務めたりした(第1番)というエピソードでも知られています。マルコヴィチ&N.ヤルヴィの演奏は4曲ともクオリティが高く、作品の魅力を余すことなく伝えるもの。2枚組に4つの協奏曲が収められ、お腹一杯楽しめるアルバムです。
『ストヨフスキ:ピアノ協奏曲第1番&第2番』
19世紀後半において、もっとも傑出したポーランド人作曲家だとみなされていたのがジークムント・ストヨフスキ(1869-1946)です。これまでに挙げた作曲家よりもさらに知名度は下がりますが、デュボワやドリーブ、パデレフスキに師事した「頑固なロマンティスト」だと聞けば、食指の動く方も多いのではないでしょうか。部分的に印象主義的な手法も見られますが、彼の基本はあくまで「ロマン派」です。アントン・ルビンシテインに捧げられたヴィルトゥオジックな《ピアノ協奏曲第1番》は、ショパン的な主題が魅力的な第2楽章と激しくインパクトのある終楽章が印象的な作品。よりお薦めしたいのが《ピアノ協奏曲第2番「プロローグ、スケルツォと変奏曲」》で、ストヨフスキの作曲技術の高さと、ロマンティックな楽想の魅力を存分に味わうことができます。様々な打楽器を繊細に用いたスケルツォでの楽器法も見事。この作品は被献呈者パデレフスキの演奏によって、アメリカで大変なセンセーションを巻き起こしたと伝えられています。ロマン派音楽の愛好家にとってはとりわけ注目すべき作曲家だといえるでしょう。
『ドブジンスキ:ピアノ協奏曲第2番、交響曲 他』(2CD)
次は初期ロマン派まで時代を遡って、ショパンの級友ドブジンスキ(1807-1867)のコンチェルトをご紹介します。ショパンと同じくエルスネルに作曲を学び、ポーランドの民族的要素を自作に取り入れていったドブジンスキ。彼の《ピアノ協奏曲第2番》(1824)はショパンのコンチェルトよりも早く書かれ、ショパンにも影響を与えた当時の大作曲家・ピアニストのフンメルや、パリで活躍したヴィルトゥオーゾ、カルクブレンナーの作風に近いものとなっています。作品は非常に充実しており、めくるめく展開と尽きることの無いメロディの魅力はカルクブレンナー以上といえるでしょう!また序曲と交響曲では、彼が管弦楽の分野でも素晴らしい成果を残したことがわかります。特に序曲はロッシーニやスッペに引けを取らない楽しさ、力強さ。楽器使いの巧妙さでは彼らを上回っているかもしれません。「性格的」との標題がついた《交響曲第2番》での試み(マズルカ風メヌエットなど、各楽章にポーランドの民族舞曲の要素を結びつけた)も独創的です。演奏も最高!※フランスのディアパゾン誌で5点満点の評価
『ジェレンスキ&ザジツキ:ピアノ協奏曲』
ジェレンスキ(1837-1921)はビゼーやサン=サーンスとほぼ同時代の作曲家ですが、こちらのピアノ協奏曲は20世紀に入ってからの作曲なので、かなりロマンティック。華麗なピアノパートを彩るように、全楽章を通じてシンバルやスネアドラム、トライアングルが活躍するため、ところどころでラフマニノフのような印象を受けます。パリでライネッケに師事したザジツキ(1834-1895)の協奏曲は17分ほどの短いものですが、内容がギュッと詰まっていて聴き応えあり。《グランド・ポロネーズ》はいかにもポーランド的な佳作。ポーランドの作曲家の層の厚さを感じさせる1枚です。
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カテゴリ : Classical
掲載: 2016年10月01日 12:00