マルタ・アルゲリッチ 80歳記念特集~世界的人気と実力を持つカリスマ・ピアニスト
アルゼンチンのブエノスアイレス出身、現代を代表する世界的人気と実力を持つ、カリスマ的なピアニスト。日本においても彼女のコンサート、活動、録音は常に話題となる最も注目されるアーティスト。マルタ・アルゲリッチが2021年6月5日に80歳の誕生日を迎えました。ここでは各社から発売される記念新譜とともに、映像を交えながら彼女の歩んできた道をご紹介いたします
(タワーレコード 商品本部 板倉重雄)
マルタ・アルゲリッチ
アルゼンチンのブエノスアイレス生まれ。5歳からヴィンチェンツォ・スカラムッツァに師事。8歳でモーツァルトとベートーヴェンのピアノ協奏曲を弾いてデビューした。1955年にヨーロッパに渡り、グルダ、ミケランジェリなどに師事。57年にブゾーニとジュネーヴの国際ピアノ・コンクール、65年にショ パン国際コンクールで優勝して以来、人気、実力と もに世界のトップ・ピアニストとして活躍を続けている。またヴァイオリンのギドン・クレーメル、チェロの ミッシャ・マイスキーらとデュオを行うなど、室内楽 にも熱心に取り組んでいる。96年、フランス政府から芸術文化勲章オフィシエを贈られた。また同年から「別府アルゲリッチ音楽祭」総監督を務めている。これを契機にブエノスアイレス、ルガーノ、ハンブルクへと日本から世界へアルゲリッチ音楽祭が広がった。
音楽文化の発展及び友好親善に寄与した功績により、2005年には旭日小綬章受章、世界文化賞受賞、2016年には旭日中綬章受賞、ケネディ・センター名誉賞を受賞。2018年にはイタリア共和国功労賞の「コメンダトーレ」を受賞し、同年サー・アントニオ・パッパーノ、サンタ・チェチーリア管弦楽団との音楽祭初の海外公演「別府アルゲリッチ音楽祭 in ローマ」を成功させた。
CDはドイツ・グラモフォンをはじめとする各レーベルからリリースされており、グラミー賞、 グラモフォン誌のアーティスト・オブ・ザ・イヤー賞、 ドイツ・レコード批評家賞をはじめ、多くの賞を受賞している。
(ユニバーサル・ミュージック)
80歳記念新譜
(1)(2)ドイツ・グラモフォンは誕生日前日の6月4日にアルゲリッチ初録音となる『ドビュッシー/ピアノと管弦楽のための幻想曲』を世界同時発売しました。指揮は少女時代からの友人でライバルでもあったバレンボイム。近年はピアノ・デュオのパートナーとして頻繁に共演しています。国内盤はMQA-CD×UHQCD仕様で、MQA対応プレーヤーを用ればハイレゾ再生ができ、通常のCDプレーヤーでも高品位な再生音を楽しむことができます。
(3)ワーナーミュージックは1965年録音の『幻のショパン・レコーディング』を最新リマスターで再発売しました。この録音は彼女がショパン国際コンクールに優勝後、英EMIがロンドンで録音したものですが、直後に彼女がドイツ・グラモフォンと専属契約を結んだため、長い間オクラになっていたものです。1999年にようやく初発売され、その名演により大きな反響を呼びましたが、今回、最新リマスターされ、より良い音で味わうことができるようになりました。
(4)は2019年にハンブルクで行われた「アルゲリッチ&フレンズ」ライヴ録音の6枚組。アルゲリッチ本人の演奏トラックが多く、貴重なソロ録音「子供の情景」を含むのが嬉しいところ。カンブルランとのプロコフィエフ、デュトワとのチャイコフスキーを収録。デュトワはストラヴィンスキーの「結婚」の指揮も担当。ルノー・カピュソン、マイスキー、ブニアティシヴィリ、パパヴラミ、コヴァセヴィチ、酒井茜など豪華ゲストとの共演を楽しむことができるほか、2019年の来日公演でも評判となったボジャノフのスカルラッティも収録しています。
(5)はドイツ・グラモフォンがアルゲリッチ80歳記念で発売したショパン録音全集BOX。ブックレットにはWolfram Goertzによるアルゲリッチのショパン演奏についてのライナーノーツが掲載されています(英語、ドイツ語、フランス語)。CD5枚組。BDオーディオ付き。
(6)は(5)と同日に発売された彼女のショパン録音を集めたLPレコード5枚組。BOX内のLPはそれぞれオリジナル・デザインのジャケットに収納されており、若き日の彼女の美しいポートレートを楽しむことができます。LPレコード派の方におすすめです。
(7)はユーロアーツがアルゲリッチの80歳記念して発売した1977~2020年の名演を映像で振り返るDVD-BOX(6枚組)。協奏曲のライヴ録音から盟友バレンボイムとの共演、ベルリン・フィルの元コンマス、ブラウンシュタインとの2020年デュオ、そしてドキュメンタリーまで約7時間もの映像が収録されており、彼女の芸術をとことん味わうことができます。
(タワーレコード 商品本部 板倉重雄)
ユニバーサルミュージック国内盤の記念新譜
『マルタ・アルゲリッチの芸術UHQCD(20タイトル)』『マルタ・アルゲリッチ ベスト(2枚組)』特集ページはこちら>>>
『アルゲリッチの名盤を初SACDシングルレイヤー化!ショパン、ラヴェル、バッハ』特集ページはこちら>>>
デビュー時代(1950~60年代)
【参考映像】ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調(1969年)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
クラウディオ・アバド指揮RAIローマ交響楽団
1957年に弱冠16歳でブゾーニとジュネーヴの国際ピアノ・コンクールで優勝した彼女は、圧倒的な技巧による鮮烈な演奏、そして黒髪のエキゾチックな美貌により瞬く間にヨーロッパ楽壇にその名を轟かせます。1960年にドイツ・グラモフォンに(1)『デビュー・リサイタル』を録音。1965年にショパン国際コンクールで優勝すると、同社と専属契約を結んで1967年に(2)『ショパン作品集』を録音しました。同じころに天才指揮者として華々しくデビューしていたアバドとのコンビも生まれ、(3)『プロコフィエフ&ラヴェル:ピアノ協奏曲』、(4)『ショパン&リスト:ピアノ協奏曲』が録音され、今日でも同曲演奏中のトップを争う名盤として高く評価されています。
ソリストの時代(1970~80年代)
【参考映像】アルゲリッチとデュトワ(1972年)
冒頭でモーツァルトのロンドK.511、リストのピアノ・ソナタの一節、
中ほどでショパンのピアノ協奏曲第1番の一節、
最後にチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の一節を弾いています
1970~80年代の半ばまではアルゲリッチがソリストとして演奏に、録音に最も活躍した時代です。日本にも1970年の初来日を皮切りに、76、78、81年と単身来日し、ソロ・リサイタルや協奏曲でその妙技を披露しました。1974年にも当時結婚していたデュトワとの来日が予定されましたが、夫婦喧嘩のため(のちに離婚)キャンセルされました。その後1984、85、87年にも来日しましたが、ベロフやクレーメルを伴っての演奏会となり、次第に独奏曲よりも室内楽に演奏活動の比重をおくようになってゆきます。ここでは70~80年代に器楽曲を弾いた名演を4点ご紹介いたします。
アンサンブルの時代(1990~2010年代)
【参考映像】アルゲリッチとクレーメル(2006年)
クライスラー:美しきロスマリン
1980年代から、彼女はピアノのコヴァセヴィチ、フレイレとのピアノ・デュオや、ヴァイオリンのクレーメル、チェロのマイスキーとの共演で世界をツアーするとともに、録音を行い、仲間とのアンサンブルの世界に身を浸すようになります。こうした大家同士の顔合わせは、従来にはなかったようなスケールの大きな室内楽演奏となり、音楽ファンを驚かせました。90年代後半に入ると、自らの名を冠した音楽祭やコンクールを創設(98年から別府アルゲリッチ音楽祭、99年からブエノスアイレスにてマルタ・アルゲリッチ国際ピアノコンクール、2001年からブエノスアイレス-マルタ・アルゲリッチ音楽祭、2002年からルガーノにてマルタ・アルゲリッチ・プロジェクト)。さまざまなコラボレーションによる新たな創造を生み出すとともに、若手の積極起用により後進の発掘、育成にも力を注ぎました。
現在(2019年~)
【参考映像】ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調(2021年)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
シルヴァン・カンブルラン指揮
シュンフォニカー・ハンブルク
近年になってもアルゲリッチは技巧の切れ味、鋭いセンスともまったく衰えることなく世界の第一線で活躍しています。ここでは2019~20年の最新録音から2作品をご紹介いたします。(1)(2)は古くからの盟友、小澤征爾と共演したベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番です。彼女の得意とする作品で、弾きぶり(RCA)やシノーポリ、アバドとの共演盤(DG)もありましたが、今回の録音はあらゆる意味で決定盤と言えるものです。一方のピアノ連弾版の《田園》は、彼女にとって初録音で、かつ共演がギリシャ生まれの新鋭テオドシア・ヌトコウということで、後進の育成という彼女の近年の活動を象徴するものとなっています。