坂本美雨、会心のエレクトロニカ・ポップ・アルバムをリリース
坂本美雨という人は、声を楽器のように操る。
歌となった言葉には深い感情が宿り、また音楽を通じ、
自身の可能性とリスナーのイマジネーションを広げようとする。
そう、坂本美雨という人は、多くの人達がつい忘れがちな、
音楽が立ち上ぼる瞬間のイメージや響き、予感、気配といったことに、とても注意深い。
そんな彼女が、最新アルバム『PHANTOM girl』で見せる表情は、驚く程ポップだ。
これまでの奥深さをベーシックに、幾つものチャレンジを経た結果でもある。
今回彼女はMySpaceで知り合ったニューヨーク在住のクリエイター、
デイヴ・リアン(The Shanghai Restoration Project)にサウンドプロデュースを委ねた。
アルバム1枚を共作するのは彼女にとっても異例だが、
デイヴ・リアンの持つエレクトロニカなサウンドメイキングは統一感と共に、
間違いなく新たな坂本美雨像を描き出している。
これ程彼女の歌声がスッキリと、そして立体的に響き、
しかもポップでアップトゥデートに感じられたのは初めてかと思う。
そこには理由がある。
「彼は元々アカペラグループにいたんです。
私の声を実験して、それをあなたのエレクトロニカ・センスと融合させたい、と言ってくれました。
ドライなエレクトロニカと、歌うことの両方を知っているからこそ、
私の作りたい世界を想像できたんだと思います。
しかも『どういう風に届けるか』も考えられる。
それも今の自分には必要だったから」。
そしてポップな理由がもう一つ。それはアルバムにストーリー仕立てな流れを作ったこと。
この作品は1日の何気ない感情変化を綴ったものだ。とても身近かな感触がある。
「まず、私と同世代くらいの女の子の一日を想像して書き出し、
その日常でもし私の声が鳴っているとしたらどんな感じかな、
そう思って二人で組み立てていったんです」。
映像的でありつつリアリティも感じさせるのは、
こうした綿密な作業と彼女がこれまで培ってきたイマジネーション力との賜物だろう。
だから安易にポップになったのではない。
むしろ今の自分に何が必要かを問い、今の自分が感じるリアリティに至った、
その地点から解き放たれたイマジネーションだ。
これがアルバムを具体化し、結果として説得力に繋がったはず。
このアルバムは、これまでの実験を実らせた坂本美雨の新たなスタートを記した作品だ。
(MMMatsumoto/MARQUEE編集長)