シャーラタンズ、ティム・バージェスがアルバム『Who We Touch』を語る
通算11枚目となる最新作『Who We Touch』が好評を博しているシャーラタンズ。2008年秋以来となる2年ぶりの来日公演が、11月25日に決定した。ユースのプロデュースのもと、「ヨーロッパの秋」をイメージして制作された本作誕生の背景や、衝撃のデビュー作から20年という節目への思い、そして、新作を引っさげての来たるツアーについて、メインソングライターであるヴォーカルのティム・バージェスが語ってくれた。(権田アスカ)
Photo by Tom Sheehan
--2010年の今年はデビュー作『Some Friendly』から20年という、シャーラタンズにとって節目の年です。デラックス・ヴァージョンが発売になったり、アルバム収録曲を全曲プレイするライヴも行なわれたそうですね。
「ライヴはすごくよかったよ。アルバム発売当時の90年にはまだ生まれていなかったはずの、若いファンがたくさん来てくれたんだ。古いファンも大勢ひさしぶりにライヴに足を運んでくれたし、演奏していてノスタルジックな感覚もあったけど、不思議と古い曲をやっているという気分にはまるでならなかった。今のものをやっているっていう感じがすごくしたんだ」
--同世代のバンドの多くが解散したり、活動を休止する中、シャーラタンズが今もコンスタントに作品をリリースし、ツアーに出られる最大の理由はなんなのでしょう?
「自分自身をアーティストだと思っているからなんじゃないかな。だからこそ僕は物事を続けていきたいし、作品をリリースする毎にアーティストとして成長したい。そのつど、違う旅を始めるような感じでもあるし、仕事とは思っていないのかも(笑)」
--変化を続けるシャーラタンズを支える、ファンの存在も大きいと思います。前作『You Cross My Path』(2008年)は、無料ダウンロードという画期的なスタイルで発表されましたが、新たなファン層を築くきっかけにもなったのでは?
「そうだね。実際、多くの新しいファンを獲得できたよ。僕たちのことを知らなかった若い層が、僕らの音楽に触れる機会を作ることができた。ビジネス的観点から、無料ということに反対する人たちもいたけれど、僕らはやってよかったと思っている」
--ジョン・ブルックス(ds)のケガで、予定していた『You Cross My Path』のアメリカツアーがキャンセルになり、その空いた時間を有効利用して新作『Who We Touch』の曲作りを始めたとか?
「僕はツアー中も常に曲作りをしているんだけど、ツアーがなければ家で曲を書いている。そういうわけで、去年の9月は家に帰って新作の曲作りをしていたよ。ただ、時差ボケもあって、家に戻って数日間はうまいように作業が進まなくてさ。ちょうどその頃、ザ・ホラーズのベーシストのリースが、家へ遊びにきたんだ。『曲作りに思い悩んだとき、ブライアン・イーノならどうするだろう?』『なにかクレイジーなことをするはずだ』なんてたわいない話をふたりでしたんだけど、そのときの会話から着想を得て、僕は試しに自分の好きなコードを書き出して壁一面に貼り、目に入ったコードを次々に弾きながら曲を書いてみたんだ。そのやり方で最初の曲が完成したあとは、どんどん曲ができていったよ」
--これまでの作品では、ティム、マーク・コリンズ(g)、トニー・ロジャース(key)の3人でアイディアを持ちよって一緒に曲作りをしていましたが、今回は個々に曲を書いたそうですね。
「そうだね。「Your Pure Soul」はトニー、「Smash The System」はマークの作った曲がベースになっており、それに僕が歌詞とメロディをつけていった。それ以外の曲は、僕がほぼすべてをひとりでまとめていったけど、例外もあるよ。たとえば「You Can Swim」はメンバーとジャムセッションをしている最中にできたから、ギターのリフレインや曲全体に、ジャムっぽい雰囲気が感じられると思う」
--新作のプロデューサーにキリング・ジョークのユースを選んだ理由は?
「ユースとは前から知り合いで、いつか一緒に仕事がしたいと思っていたんだ。僕らは2年ほど前にワイト島のフェスに出演したんだけど、キリング・ジョークも出ており、そのときひさしぶりにユースとつるんだのがきっかけになった。ユースはすごく楽しい人だし、彼にしかこの作品のプロデュースはできなかったと思うよ。というのも、新作は遠大でヨーロッパの秋っぽい雰囲気にしたかったから。オーケストラ的だけどオーケストレーションを使わず、アヴァンギャルドというか、少し普通ではないものにしたかったし、そういった世界観にうまくコマーシャリティを加えてくれたのが、ユースだった」
--それにしても、なぜ「ヨーロッパの秋」なんでしょう?
「僕は昔から、音楽以上のものを捉えている雰囲気のあるアルバムが好きなんだ。たとえば、ロサンゼルスでレコーディングした『Wonderland』(2001年)では、ロスという町やスタジオのあったワンダーランド・アヴェニューの雰囲気も捉えることができたと思う。あの通りは、ドアーズが育つなど劇的な出来事が多々起きた、すごく特別な場所なんだ。新作では秋という季節感を出したいという思いが最初からあったし、ヨーロッパ的な雰囲気のレコードにしたかった。だから、秋のロンドンでレコーディングすることにこだわったし、発売も秋になるように調整したんだ」
--そのレコーディングですが、ピンク・フロイドが所有するBritannia Row Studiosで行なったそうですね。
「この環境が新作に与えた影響は大きいんじゃないかな。僕はシド・バレット在籍時のピンク・フロイドのファンだから、今回のレコーディングでシドからインスピレーションをもらえたと信じたい(笑)。僕らが敬愛するニュー・オーダーの「Blue Monday」もここでレコーディングされたらしいし、不思議な巡り合わせだよね。実はこのスタジオだけでなく、State Of The Ark Studiosも使ったんだけど、そこには60年代の古い卓があって、ロニー、ミック、キースって彫られていたんだ。つまり、ローリング・ストーンズが使ったってことだよ! ニューヨークでミックスを行なった際に使った卓も、以前レッド・ツェッペリンが使用したものだった。すべて偶然だったんだけど、それぞれの場所で、昔そこで作られた素晴らしい音楽の神髄に触れられた気がするよ」
--だからなのか、アルバムのオープニング曲「Love Is Ending」は、いきなり期待感を煽られるカオティックな力強いイントロで始まります。
「爆発的な曲でアルバムをスタートさせたかったんだ。このアルバムを間口の広いオープンな作品にしたいと思う一方で、デヴィッド・リンチ監督作の『ワイルド・アット・ハート』(90年)のようなドラマチックで情熱的なものにもしたかった。あの映画は、めちゃくちゃ暴力的な始まり方をするからね(笑)。それに、クラスのドラマーのペニー・リンボーが、この曲のイントロを作る手助けをしてくれたというのもある」
--ペニーはヒドゥントラック「I Sing The Body Eclectic」でもゲスト参加していますね。
「この曲以外にも、いろいろな部分でペニーの手を借りたよ。僕は昔からペニーが大好きで、13歳の頃、クラスのライヴを観にいった話をペニーにしたら、彼もたまたまそのときのライヴのことを覚えていてさ。うれしかったよ。クラスは僕が子供のころ、初めて夢中になったバンドだし、憧れのペニーをゲストに迎えてコラボレーションできるなんて、今作ではいろいろな意味で夢が実現したよ」
--また、「You Can Swim」は美しい情景が目の前に広がる、エンディングに相応しい楽曲です。新作には愛について触れた曲が多いですが、この曲の歌詞は少し謎めいているというか、独特の世界観があります。
「そうだね。このアルバムはまさに愛がテーマで、その中にはシュールなラブストーリーも含まれるし、愛が始まる曲もあれば、愛が終わる曲もあるわけだけど、この曲には“ひとりでやってごらん、君なら大丈夫だ”というメッセージが込められているんだ」
--最後に、今回のツアーはどんなものになりそうですか?
「新作の曲をたくさん披露する予定だけど、前作『You Cross My Path』を今も気に入っているから、前作の曲もいろいろプレイするつもり。古い曲ももちろん演奏したいし、新しいものを15曲、昔のものを15曲くらいの割合にしたいと思っているよ」