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インタビュー掲載中!女性シンガー・ソングライター北村早樹子『卵のエチュード/マイハッピーお葬式』

北村早樹子


音楽シーンのみならず映画や舞台のクリエイター達の間でも大きな注目を集める天才女性シンガーソングライター、北村早樹子。本秀康主宰の雷音レコードより同時リリースしたアナログにも収録されている“マイハッピーお葬式”と映画『殺人ワークショップ』主題歌“卵のエチュード”を収録した2曲入りシングル。

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大阪生まれのシンガーソングライター、北村早樹子がじわじわと活動を活発にしつつある。一聴すると楽しげな童謡・唱歌のようなスタイルを持ちつつ、独特の湿り気と毒をしのばせた彼女の楽曲はインディーズ映画界などから高い評価を得、これまでもいくつかの映画の主題歌に使われてきた。『卵のエチュード』は以前から交流の深い白石晃士監督の最新作『殺人ワークショップ』(9月13日より渋谷アップリンクにて公開)の主題歌に起用された。キャリア12年目にして活動領域を徐々に広げつつある北村に、これまでの歩みや新曲の制作秘話をたずねてみた。


北村早樹子
(文・構成:玉川カルトット/写真:吾郎メモ)

――もともと歌うのは好きだった?

まだ小さい時に、お母さんがよく運転しながらカーステレオに合わせて歌ってたんですけど、わたしもあるとき調子に乗ってけっこう大きな声で歌ってみたんですね。そしたら「あんた、ほんとに音痴やねぇ」と言われたのが結構ショックで、以来けっして人前では歌わんとこうと心に決めたんですが・・・。

――そんな北村さんが歌いだそうと思ったきっかけは、フォークソング好きの親戚のおじさんに聞かせてもらった早川義夫さんやあがた森魚さんのレコードだったとか。

歌が上手いとかそういう問題じゃなく歌っていいんだ! そしてこんなにも(歌って)感動するものなんだ! ってすごい衝撃をうけたんですね。それから自分も声を上げようって思い、曲作りも同じ時期に始めました。

――その後ライブ活動を続けつつプライベートでは結婚という大きな転機を経て、2006年チューバディスクからファーストアルバム『聴心器』をリリース。バイオリンの波多野敦子さんが全面的に参加したり早川義夫さんが帯コメントをくれたりと、非常に恵まれたデビューとなったわけですね。

レーベルの中島さんは本当に自分の好きなようにさせてくれて、わたしが「売れない、売れない」って卑屈になってたら、「ちょびちょび10年ぐらいかけて売っていったらいいやん。売れる、売れないとかそんなん関係なく早樹子ちゃんは10年後も20年後も歌ってる気がするわ。」って言ってくれて、実際初回プレス分は数ヶ月で売りきったんですが、なによりも中島さんのその時の温かい言葉が嬉しくて、今でもしっかり胸に残っています。

――いいエピソードですね。翌年セカンドアルバム『おもかげ』(2007年)をリリースされてから、いよいよ2008年に上京されるわけですね。そして先輩シンガーソングライターの豊田道倫さんとの出会いがあり、その豊田さんのプロデュースで2011年にサードアルバム『明るみ』をリリースするわけですが、非常に厳しい印象のある豊田さんとの作業ではいろいろと学ばれるところも多かったのでは?

そもそもプロデュースというものがどんなもんなのかわたし分かってなかったんですけど、豊田さんはしっかり歌詞の中身とか、ちょっとした言葉の選び方とかにも踏み込んでくださいましたね。『おもかげ』までのわたしは、言葉を何重にもオブラートに包んだような作風だったんですけど、そのことについて豊田さんには「全然わからん。」と一蹴されました。特に印象に残っているのが「北村さんはもっと尻軽性を出さなアカンぞ!」っていう言葉です(笑)。「北村さんはとりあえず10キロ太って金髪にせえ。」って言われたときは、最後まで「イヤです」って断り続けましたけど。

――それから2013年に4枚目『ガール・ウォーズ』をリリースされるわけですが、この作品では一気に演奏スタイルを変化させましたね。

それまではピアノ弾き語りというスタイルを貫いていましたが、ちょっとこの時期からわたし、変な神経の難病を患ってしまってピアノがちゃんと弾きにくくなってしまったので、マイク握って歌える曲作ろうって思って、このアルバムではカセットMTRを駆使しての多重録音っていうのをやってみました。

――そのあたりの変化は僕も覚えています。ライブの内容の方もガラリと変わりましたね。ハンドマイクひとつでカラオケで歌ったのを初めて見たときは衝撃でした。当時のことを今振り返ってみると?

今思えばそれはそれで楽しかったんですけど、「北村さん変わったわ。」ってスーッと離れていったお客さんがたくさんいらっしゃって、残念な結果に終わりましたね(笑)

――でも『ガール・ウォーズ』、ラストにはライブでも定番のピアノ弾き語り超名曲『朝も昼も夜も』が入っていたり、とっても魅力的な作品だと思います。さて、この頃から今回のシングル曲『卵のエチュード』や『マイハッピーお葬式』をライブで演奏するようになるわけですが、曲を披露するまでの経緯を、順を追って教えていただけますか?

『卵のエチュード』はもともと白石晃士監督の『殺人ワークショップ』という映画の主題歌を作ってほしいというオファーが監督本人からありまして、白石監督と渋谷のガストで打ち合わせをしました。その際に映画の内容をガッツリ聞いた上で作りました。

――その後『マイハッピーお葬式』が完成したと。

夏ですね。神保町試聴室というところで月に一度、こじんまりと自主イベント(「北村早樹子のヒソワイどん!」)をやっているんですけど、わたしのお友達の魔女のるみたん(東京リチュアル代表・谷崎榴美)に出てもらったときに、魔女は儀式を日常的にやってるんですが、るみたんは公開儀式っていうのをイベント会場などでもやってるので、わたしも《儀式》をテーマにした新曲を作ろうと思い、《儀式》といってもわたしはまったくの無宗教で神様を信じていない人間だから、あんまり馴染みないなあと思い、わたしにとっての《儀式》はお葬式くらいしかないなあと思い立ったんです。葬式のことをすごく考えてた時期があって、それこそライブをやってもお客様も少ないし、友達も少ないし、本当に周りに人がいなくて、でも死んだ時くらいは来てくれるんちゃうやろうかみたいなのがあって…それで書いた歌詞ですね。

――目の前にある絶望に対してお葬式に希望を見出したのですか?

結局みんな日々の生活が忙しいんですよね。そんな忙しい皆さんがわたしごときに割ける時間なんて、ライブの30分もないわけですよ。だけど死んだ時くらいは来てくれてもええんちゃうかな? みたいな気持ちを歌詞にしたんです。まあ、こんなこと思ってても普段から言ってたら頭おかしいじゃないですか。なので、大声で言っても怒られないかたちで歌でなんとか表現してます。

――歌詞が卑屈過ぎるように思えますが…。

この曲で一番言いたかったことは、「ママの主役にも 彼の主役にも なれなかった」という部分です。ほかの人からはどれだけ邪険にされ、クズ扱いされたとしても、この人だけには主役にしてほしい。そういう相手が“ママ”と“彼”で、今のところどちらも叶っていないので腹いせに歌ってやりました。

――歌詞に反比例するように曲調は明るいですね。

内容は恨みつらみでも、気づいたらめっちゃ明るい鼻歌を歌ってる自分がいたみたいな感じで、自然とあの曲調になりましたね。こんな内容歌ったら「ふざけすぎやで、北村さん!」って誰かに怒られるんじゃないかと思ったんですけど、最初にライブでやった時に周りの信頼してるお友達から――魔女のるみたんと白石監督なんですけど――えらい評判が良くて、さらにお客さんからも「あのお葬式の歌はどのアルバムに入ってますか?」って問い合わせを多くいただいたりして。ものすごく嬉しかったです。覚えやすくて分かりやすいし、明るい曲なのが良かったのかなあと思います。

――『卵のエチュード』のジャケットについて聞かせてください。乙女画家の金田アツ子さんがジャケットを手がけています。金田さんは北村さんの殆どのライブに足を運んでいるほどの熱心なリスナーだそうですね。

肩書きの、乙女画家って何やねんって思うかもしれませんが、中原淳一とか竹久夢二とかの系譜にいらっしゃる方ではないでしょうか。去年、アツ子さんの個展にお邪魔した際に、縦横2m×1mぐらいある超力作のわたしの肖像画的な油絵を発見し、たいへん感激していつかジャケットにさせてくださいってお願いしていて今回それが叶いました。

――ところで、先日のレコ発ライブで披露した新曲『ドクターVSクランケ』では辛い病院通いの日常すらも歌にしてすごい逞しい印象を持ちました。

新曲『ドクターVSクランケ』は別に辛い病院通いの歌ではなくって、あれは最後フォーリンラブって言ってます。実はラブソングなんです。(病院通いをすることが多く)わたし無駄に病院やら対お医者さんの経験値が増えてきてるので、これでひとネタ、じゃないですが、本当に天才的に言葉責めのうまい先生と出会ったことから、うっかりこれから恋に発展したりとかあるんっちゃうって、ちょっと一瞬本気で思った時期があったんです。その経験を元に、医者と対戦しながらいつの間にかクラっと恋に落ちてしまう痛い女の子の恋の歌を作ってみました。

――なるほど。いつの日か音源に入るのを楽しみにしています。弾き語り以外のバンド編成でご自身の楽曲をライブでやってみたいという気持ちはありますか? 特にポップな面を全面に打ち出した『ガール・ウォーズ』楽曲など、個人的にはすごく見てみたい気がします。

バンド編成、やってみたいです。演奏はバンドに任せてハンドマイクで歌ってみたいですね。でも、バンドとゆう社会を築いてその中で人とうまくやれる自信が全くありません。 

――いやいや。それにしても以前よりもずっと楽しそうに見えますよ。自分の音楽が不特定多数の人に聴かれることは、活動をする上で一番の喜びなのでは?

そうですね。誤解されがちなのですが、わたし決して「売れなくてもいいねん」ってスタンスではないんです。がめつく「売れたい! 売れたい! 売れたい!」とまでは思いませんけど、聴いてもらえてわたしははじめて救われると思ってます。誰にも聴いてもらえなかったら、わたしもっと病むし、みたいな感じです(笑)。

北村早樹子

――売れたらこうしたいとか、なにが欲しいとかあるんですか?

別に文学少女ぶるわけでは全くないんですが、わたし本が大好きなので、おっきい本屋さんやとカゴとかカートで買い物してる人いるじゃないですか、あれがしてみたいです!値段気にせずばんばんカゴに入れて買い物して、紙袋何個も抱えて重いわ~て言いながら帰りたいです。

――それはいい話ですね~。そんな北村さんの、最近気になるものを教えてください。

ジュリー・デルピーってゆう、フランスの女優さんで映画監督でもあるんですが、個人レーベルわらびすこ舎の副舎長の影響で知ったんですが、大好きです!ものすごいテンポで、ゲスな下ネタをまくし立てる会話劇みたいな作品が多いんですが、ま~下品で、でもめっちゃかっこよくって美しくって、天才としかいいようがないです。それから最近は医療ものの小説をよく読んでて、ちょっと前にめちゃ流行ってた高野和明の『ジェノサイド』を今更読んでひっくり返りました。あとノーベル賞受賞の中国の莫言の『蛙鳴』もすごかったです。あと医療ものてゆうか病室が舞台なだけで珠玉の古典変態小説て感じやけど、泉鏡花の『外科室』とか読み返してやっぱり名作やな~と思いました。それからノンフィクションものも好きで、上原善広さんてゆう路地の研究をしている人の新刊が今年はばんばん出るのでゴキゲンです。やっぱり早く売れて好きな本をばんばん買える人間になりたいです! (了)

タグ : J-インディーズ

掲載: 2014年09月04日 16:23