注目アイテム詳細

北村早樹子、ニュー・アルバム『わたしのライオン』発売記念スペシャル・インタビュー

北村早樹子

フジテレビ系列の「アウトxデラックス」に昨年出演し大きな話題となった北村早樹子。2006年の1st『聴心器』からこれまでリアルタイムで作品を聴いてきた筆者だが、今までのアルバムは『ガールウォーズ』を除き、弾き語りのスタイルを主体としていたのに対し、今回の新作『わたしのライオン』は音作りの点を外部プロデューサーに完全に委ねるという初めてのバンドサウンドによるアルバムになった。また、露骨に性的表現を多用した歌詞も非常に驚かされた。 今回取材の機会を頂き、北村自身の歌い始めたきっかけから、今回の作品の事、歌以外の活動についてなど、いろいろと聞かせて頂いた。

 

インタビュー:池田敏弘(タワーレコード新宿店)
写真:市川力夫

line
――3年振り新作発売おめでとうございます

ありがとうございます。

――後ほどアルバムのお話もお伺いしますが、まず、影響を受けたことや、音楽自体にぞっこんな訳では無いと発言してることも含め、歌い始めたきっかけを教えて貰えますか?
元々中3くらいの時に、人生の谷間といいますか、第1回目の谷間にズドンと落ちちゃって、それまでは明るい子だったハズがすごい暗い子になって友達も出来ず、誰も信用できないみたいなモードになった時に、親戚のおじさんに早川義夫さんのソロになってから初めてのアルバム(この世でいちばんきれいなもの)を聴かせてもらって「なんだ、こんな歌があるんだ!」と思って、心打たれ、衝撃を受けて「こういう風に歌を歌っていいのか!」と思ってやり始めました。別にそれまで音楽が好きだった訳でもないし、一般的な女の子よりも音楽知らない、関心ないくらいだったんですけど、突然始まった感じです。

――歌うことが自分の吐き出しというか、メンタルのバランスを保つ為という感覚が強い感じですか?

そうですね。それこそ早川義夫さんの歌っていけない事ばっかりじゃないことじゃないですか。

――普通歌にしない事の様な。

そう、そのいけない事をこんなに歌っていいんだ、聴かせていいんだって思ってそれで、私もそういう事をやりたいと思って始まった感じですね。だから割と私の歌ってよくよく歌詞を読むとギョッとされる事が多いんですけど、それは影響をしっかり受けて育ったので私の中ではそのまんまその芸風をやらせて頂いてる感じです。歌ってこんなもんじゃないのって思っちゃってますね。

――音楽の勉強っていうことはそんなにやってないですか?

全然して無いですね。みんな自分でやる様になったら勉強するらしいんですけど、私そんな気も起きなくて。

――歌っていう表現手段をメインにして行こうと決めてからは影響という点では音楽よりも文学とかの方が多いのかもしれないですか?

はい、多いと思います。
歌いはじめた頃に読んでて衝撃を受けた作家さんとか色々居ますけど、野溝七生子さんっていう人が居て、母親コンプレックス的なことをネタに強烈な女の子のお話を書いてて『山梔 (くちなし)』っていう小説があるんですけど、こういう風に吐き出しちゃっていいんだって思って。私もマザコンが凄くて、それはお母さんの、事が嫌い過ぎてっていう方のコンプレックスで、でもそれは好きの裏返しなんかもっていう凄いもやもやした感じが今だにあって、そういうのを消化するために歌を使っちゃってる感じもあります。直接母親に言えなかったりした事とかなんですけど、そういうのを歌にしたら母親は何かを感じてくれるかもしれないというのがどこかにあって。

――言葉遣いとか手法っていうよりは何を歌うかだったり、どこまでタブーに踏み込むかみたいな影響っていうのがあるんですかね?

そうですね、あると思います。

――今までの北村さんの歌を聴いてきていろんなスタイルの詞の曲がありますが、それは何某かの影響を受けてると思いますか?

多分如実にその時に読んでたものの影響を受けてはいると思います。昨今の私の歌詞ってわかりやすい言葉が多いんです。
昔はノンフィクションものってそんなに読まなかったんですが、物語ではないものを沢山読んで、そういった言葉を仕入れる様に、触れる様になった事で変わった部分もあると思います。

――これまでは弾き語りがメインで(『ガールウォーズ』は自身による打ち込みもあった)中村宗一郎さんという外部のプロデューサーに音作りを任せる事が初めてとなる新作でしたが、これまでとの違いなどどうでしたか?

中村さんは歌詞やメロディーに関しては一切言ってこない、豊田さん(豊田道倫:『明るみ』でプロデュースを務めた)は逆にそっちを言う代わりにそれ以外は何も言ってこないんです。

――音作りの点で中村さんとあれこれやり合う事はありましたか?

音の部分でのやり取りはほぼ無くて、お任せでした。
今までの作風と全然違うアレンジだったけど、スルッと受け入れられました。

 

北村早樹子

――歌詞は全編わかりやすい言葉を使っていますが、それでも比喩的な感じの箇所がちらちらありました。

そうですね。

――あとは性的な言葉が結構入ってますが、タイトル曲自体がそういう歌で、アルバムのコンセプト的にそういった曲が多いですね。“すずめのお宿”もスゴイ歌詞でした。

“すずめのお宿”は『明るみ』の時に作ったんですけど、豊田さんにあかんって言われて、それからはライうで時々やるくらいでした。
昔、ご一緒した時早川さんが何あの曲!って言われて凄いメモしてました(笑)
あと今回凄い動物園みたい。動物がたくさん出てきます。

――からす、虫、野良猫とか。

でも、どれも結局は人間の事を歌ってて、それをギョッとされない様に動物の名前を借りてるんですけど。

――こんな露骨な性的な曲って過去にありましたか?

実はあって。“貝のみた夢”(『おもかげ』に収録) とかもそうなんですけど、わかんない様にわかんない様にっていうモードの時だったんで

――今回はアルバム聴いてて、くさい川とか、唾とか引っかかる言葉があって、これまでの北村さんの歌を聴いてきた中ではじめての感覚が個人的にあって、言葉のチョイスとかが変わってきたのかなと思いました

そうかもしれないです。
そんなん普通歌詞にはしない様な言葉を使いたくなっちゃうんですよね。
くさいとか普通言わないですよね、しかもアルバム冒頭初っ端から言うかみたいな感じですよね。

――“マイハッピーお葬式”もそうですけど、一般世界でタブー視されてる事を暴く 、そういう感じがあって。

多分そういう事がしたいんです私って。
それこそ風俗に行くとかでもそうかもしれないですけど、無い事にしてやっていこうとする事がなんか私は許せないって思っちゃっうところがあって、そういうことほど言ってやるみたいな、年々そういう感じになってる気がします。

――『明るみ』の時に赤軍の坂口弘の事を歌にしてましたね。あの時にそういう傾向があるのかなとちらっと感じて、今回は割とそういう感じが全編あるなーと。

そうかもしれないです。

――で、最後の曲、“みずいろ”が鎮静剤みたいな感じで(笑)

そう、森下くるみさんのお陰でね。
自分では書けない言葉ですしね。

――あれは北村さんの事を歌ってるんですよね?

そうなんです。くるみさんご自身の歌では無くて。ある程度私の人間性なりをわかって書いて頂いていて。凄い良い歌詞なんです。ギョッとする歌詞を入れてやろうとか邪な考えは持ってらっしゃらないので、シンプルな言葉で凄いキュっとなるんですよね。

――誰かに歌詞をお願いして歌うっていうパターンは過去にありましたか?

いや、こっちからそんなお願いはしたことないですね。

――“みずいろ”っていうタイトルも絶妙ですよね。
その言葉から醸されるイメージ。色の事は出てこないけど凄い腑に落ちる感じがして。

くるみさんの言葉のセンスはやっぱり素晴らしいです。

――歌以外の活動、演劇とか映画の主題歌、トークのイベントとかが、ある時期から増えて行きましたが、そういった活動が歌にフィードバックする様な事はありますか?

演劇にしてもトークにしても、自分からやってみようっていうのは無くて、どれも声をかけてもらって、そしたら意外と全部楽しくて、演劇見てもらった人からまた声をかけてくれてどんどん今に続いてる感じですね。

――演劇とかきっかけに佐々木敦さんとか。

そうなんです。新潟まで見に来られてました。

――歌も歌いつつの演劇なんですか?

その時のはそうですね、松井周さんという演出家の方が私の色んな時期の歌を散りばめて、私が歌う音楽劇を書いて下さったんです。

私に当て書きして下さることが多くて、さっきの森下くるみさんにしてもそうなんですけど、歌詞をお願いしただけなのに
松井周さんも私の家庭事情とかも色々と聞いて来られて、それを物語にヘンゼルとグレーテルを題材に捨て子の女の子みたいな話しを書いて下さったんです。
今回のPVの監督で飯田華子さんとやったミュージカルも、やばい内容の私の色々な事情を当て書きしてくれていて。

なのでお芝居といっても割と、私の中から出ているまんまでOKみたいなものが多かったです。
毎日の様に一緒に会って稽古とかするっていう、同じ人達と長い時間過ごすっていうのをやったことがなかったんですけど、そういう経験があって、私が誰かに演出されたい欲があって、それで今回のアルバムは中村さんに演出して頂いたっていう感覚もあります。

――北村さんの声質とか、もしかすると風貌とかそういったもの込みで、だからこそ歌える歌というか。夢見心地では無くて、これでもくらえみたいな感じじゃないですか?声質も含めて、北村さんにしか歌えない歌だと思います。

歌が上手くないから成り立っているんだろうなーとは思います。凄い上手な人が歌っちゃうと性的な詞も生々しくなっちゃうし。

――ピアノも歌も技術的に言うと、テクニカルではないですね。

全く真逆ですね。まだ外出たらダメなレベルですよ (笑)

――だけど、流麗にピアノが弾ける様になっちゃうと北村さんの世界が壊れちゃいますからね。

それこそ早川さんも、早川さんにしか弾けないフレーズだったり、ピアノのペダルの踏み方だったりそういったものも合わせてもの凄い説得力がありますね。

――アウトデラックス出演がかなり話題になりましたが、出演して変わったことありますか?

知らない人から「あっ」って言われる様になりました(笑)
歌を歌う人みたいな認識はないみたいですけどね。

――友川カズキさんがナインティナインの「オールナイトニッポン」に出演されて。

若いお客さんがとても増えたと言ってました。北村さんも多くの方に知ってもらう機会となったのは良かったんじゃないですか。

――では、最後に今後の予定など教えて頂けますか?

レコ発ワンマンが3月20日に東高円寺UFOクラブであります。
そのあと、4月5日~7日に浅草橋ルーサイトギャラリーというところで千木良悠子さん演出の「女中たち」というジャン・ジュネ原作のお芝居をやります。

――今日はありがとうございました。

こちらこそありがというございました。

タグ : J-インディーズ

掲載: 2016年03月07日 17:49