ラトル&ベルリン・フィルのベートーヴェン交響曲全集がワンポイント録音よりLP化!
【テスト盤試聴記】
2017年6月、都内スタジオにてラトル指揮ベルリン・フィルによるベートーヴェン:交響曲全集LPレコードのテスト盤を聴きました。昨年5月に発売されたCD+ブルーレイとの比較試聴は非常に興味深いものでした。
交響曲第3番“英雄”の第1楽章呈示部、CD(マルチマイク収録)の音も素晴らしく厚みがあり、同時に各パートが明瞭で、ベートーヴェンが書いた楽器の受け渡しが、ラトル&ベルリン・フィルの名人芸により実に滑らかに受け継がれてゆくことが目に見えるように表現されてゆきます。
同じ部分、LPレコード(ワンポイント収録)では、やはり素晴らしく厚みのある音であることと、強奏でCDのようにエッジが立たない柔らかな音の触感と、自然な響きであることがまず感じられます。次に楽器の受け渡しですが、CDでは各楽器が配置された場所で極めてクリアーに、次々にクローズアップして受け渡されてゆくのですが、LPレコードでは同じく配置された場所で、各楽器の受け渡しが全体の響きのなかに溶け込んで聴こえるのです。聴き較べると、CDがいかに巧妙にミキシングされた音であるかに驚かされるのですが、LPレコードを聴くと、やはりコンサートホールの最上席で聴くのはこのような音だと納得させられます。
このようにCD(マルチマイク)とLPレコード(ワンポイント)の聴き較べは、“レコード芸術”(実演とエンジニアの音作りの関係、デジタルとアナログのそれぞれの特徴、等々)とは何かを、改めて聴き手に問いかけているようにも思います。
また、こうした聴き較べをせずに、LPレコードだけを聴いて、ラトルとベルリン・フィルの演奏に集中する、という本来の聴き方をしても、さまざまな感慨を催させます。例えば交響曲第5番などは、指揮者がフルトヴェングラー、カラヤン、ラトルと変わっても、やはりベルリン・フィル固有の響きが感じられますし、同時に技術面では世界のどのオーケストラもかなわない位の技術の高さとアンサンブルの良さに驚かされることでしょう。ラトルが少し眉を動かすだけで、オーケストラの音色がサッと変わるような、細やかなニュアンスの変化も、全曲のそこここで実感されます。
この一組のLPレコードが、超一流オーケストラの圧倒的な実演体験とほぼ同等の聴体験と、それとはまた違ったレコード固有の楽しみを、二つながら与えてくれるのは、ほぼ間違いないものと思います。
(タワーレコード商品本部 板倉重雄)
試聴に用いた機材
スタジオ用LPプレーヤーのターンテーブルに乗るラトルのLPレコード
大きな話題を呼んだ同コンビによるダイレクト・カッティング方式のブラームス交響曲全集(完売)に続き、昨年5月にCD+ブルーレイで発売され、ベストセラーとなったベートーヴェンの交響曲全集がLPレコード10枚組で登場します。
しかも、CD+ブルーレイ仕様盤と同一日の収録ながら、マイクのセッティングは異なり、このLPの音源にはワンポイント・マイク収録によるハイレゾ音源を用いているところが特徴です。この収録方式はマイク同士の位相差がなく、音像が明確になり濁りのない音が収音されるので、アナログ特有の肌触りとともに、よりコンサートホールでの臨場感を再現してくれるものと思います。
また特典としてワンポイント・マイク収録の全曲ハイレゾ音源(24bit/192kHz)をダウンロードするためのURLとそのパスワードが封入されているので、アナログだけでなくデジタルでもこの臨場感を味わうことができ、その聴き較べも興味深いものとなることでしょう。
加えてベルリン・フィルの映像配信サービス「デジタル・コンサートホール」を7日間無料視聴できるチケット・コードが封入され、初回応募特典も予定される(後日発表)など、今回も豪華セットに相応しい至れり尽くせりの内容となっています。
180グラム重量盤でシリアルナンバー入りの全世界2,000セットの限定盤です。
(タワーレコード)
2015年10月に本拠地ベルリンのフィルハーモニーで行われたベートーヴェン・ツィクルスが10枚組LPボックスで発売となります。2016年5月の来日の際に発売されたベートーヴェン交響曲全集CD+ブルーレイ(KKC9151)は、オケの充実した響き、ラトルの深い解釈、そして素晴らしい音質で話題となりました。この度発売されるLPは、演奏日付は前述のセットと同じですが、録音方法が異なり、2本のマイクをMS方式でセッティングし録音されています。MS方式というのは単一指向性のMidマイクと左右に指向性のある双指向性のSideマイクを上下に配置するというマイクセッティング。またブラームス交響曲全集6LP(完全限定盤/完売)で行われた一組のステレオマイクを用いるワンポイント録音と同様で、マイク同士の位相差がなく、音像が明確になり濁りのない音が収音され、コンサートホールの特等席で聴いているような臨場感を味わうことができます。LPは、こうして録音された24bitのマスター音源をもちいてカッティングされています。ラトルはウィーン・フィルとベートーヴェン全曲録音(2002年)を行っており、20世紀後半に発表されたベーレンライター社によるジョナサン・デル・マー校訂版を用い、そこにラトルらしい解釈を加えた新しいベートーヴェン像として当時話題になりました。本演奏でも同様の版を使っていますが、ラトルの鋭く攻め入るスタイルそして一音一音を大切にする緻密な指揮ぶり、それにベルリン・フィルの重量級の表現が反映され、ベルリン・フィルの持つ音楽的パワーを実感する推進力に満ちた演奏を繰り広げています。解説書には、校訂者ジョナサン・デル・マーがベーレンライターについて語った文章も挿入されており、ラトルとの興味深い会話なども書かれており、ベートーヴェンの音楽、ラトルの演奏をより理解することができます。首席指揮者・芸術監督就任以来ラトルがベルリン・フィルと培ってきた「音楽」を存分に堪能できる内容となっています。
(キングインターナショナル)
品番:KKC 1070/79 (10LP)
仕様:180gシリアルナンバー入り限定盤(全世界2,000セット限定)
日本語帯・解説付
ダウンロード・コード
このLP-BOXには、上記全曲のハイレゾ音源(24bit/192kHz)をダウンロードするためのURLとそのパスワードが封入されています。
デジタル・コンサートホール
ベルリン・フィルの映像配信サービス「デジタル・コンサートホール」を7日間無料視聴できるチケット・コードが封入されています。
初回応募特典あり(詳細は後日web発表します)
【収録内容】
ベートーヴェン:交響曲全集
(ベーレンライター版/ジョナシン・デル・マー校訂版)
LP1A 交響曲第1番ハ長調 Op.21 [24’42]
LP1B・LP2A 交響曲第2番ニ長調 Op.36 [30’51]
LP2B・LP3 交響曲第3番変ホ長調 Op.55『英雄』 [49’09]
LP4 交響曲第4番変ロ長調 Op.60 [33’29]
LP5 交響曲第5番ハ短調 Op.67『運命』 [30’32]
LP6 交響曲第6番ヘ長調 Op.68『田園』 [42’36]
LP7 交響曲第7番イ長調 Op.92 [39’12]
LP8 交響曲第8番ヘ長調 Op.93 [25’08]
LP9・LP10 交響曲第9番ニ短調 Op.125『合唱』 [67’47]
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
サー・サイモン・ラトル(指揮)
アンネッテ・ダッシュ(ソプラノ)
エーファ・フォーゲル(アルト)
クリスティアン・エルスナー(テノール)
ディミトリー・イヴァシュシェンコ(バス)
ベルリン放送合唱団、サイモン・ハルジー(合唱指揮)
録音:2015年10月6&12日(第1、3番) 7&13日(第2、5番) 3、9&15日(第4、7番)
8&14日(第8、6番) 10&16日(第9番) フィルハーモニー、ベルリン(ライヴ)
レコーディング・プロデューサー:クリストフ・フランケ
サウンド・エンジニア:ルネ・メラー
LPマスタリング:ライナー・マイヤール、フレデリック・スタンデル、エミール・ベルリナー・スタジオ
MS方式ワンポイントマイクによる録音(24bitのマスターを使用してのカッティング)
カバー・イメージ:イサ・ゲンツケン《Fenster》1990