トーマス・バートレット(Thomas Bartlett)とニコ・マーリー(Nico Muhly)のコラボ作『Peter Pears: Balinese Ceremonial Music』
若きアメリカの現代作曲家、ニコ・マーリー(Nico Muhly)。ジュリアード音楽院を首席で卒業し、アメリカのミニマリズムから聖公会の教会音楽まで幅広い影響を受けてきた彼は、クラシックにとどまらず、ビヨークやフィリップ・グラス、サム・アミドン、ルーファス・ウェインライトス・ウェインライトなど、ジャンルを超えたアーティスト達と数多くコラボレーションを行ってきた。
そのニコが今回コラボレートするのが、トーマス・バートレット。自身のソロ・プロジェクト、ダヴマン名義でも活躍している彼だが、ザ・ナショナルやアンソニー・アンド・ザ・ジョンソンズから、ルーファル・ウェインライト、エド・シーランまで多くのアーティストと共演した経験を持つキーボード奏者であり、クリス・シーリ、マーサ・ウェインライト、サム・アミドンやグレン・ハンサードなどのプロデュースも手掛けている。
共にアメリカ、ヴァーモント出身である二人が、今回コラボレートしたアルバム『PETER PEARS: BALINESE CEREMONIAL MUSIC』は、二人による新曲9曲と、民族音楽学者、コリン・マクフィーが書き起こしたガムランの楽曲によって構成されている。コリン・マクフィーは、バリのガムランに魅せられたカナダ人作曲家で、1930年代にバリ島へと渡り、ガムラン音楽を学び、研究し、また採譜も行った。後にニューヨークへ戻った彼は、ガムランを西洋に紹介しただけでなく、自身の作品に”ワールド・ミュージック”を取り入れた最初の作曲家の1人にもなった。そしてブルックリンに住まうアーティスト達のグループに加わった彼は、1941年、バリ島で耳にした儀式音楽を西洋式に編曲した『バリ島の儀式音楽』を、その当時ブルックリンに住んでいた英国の作曲家の友人、ベンジャミン・ブリテンと録音した。ベンジャミン・ブリテンもまた、コリン・マクフィーにバリ島の音楽を紹介され、大きな影響を受けたアーティストの1人であったのだ。
ニコ・マーリーとトーマス・バートレットは、マクフィーがブリテンと共に録音したバリ島の儀式音楽にすっかり魅了され、それらの音色や連続するリズムを基にした音楽を一緒に作り始めた。その結果が、本作に収録されている9曲となる。アルバムのタイトルにもある“PETER PEARS”は、ブリテンの長年の盟友でありパートナーでもあった英国のテノール歌手、ピーター・ピアーズから取られている。彼は、ブリテンのブルックリン行きに同行しただけでなく、バリへの旅にも同行したという。またピアーズは、他のアーティスト達とブリテンを繋ぐ架け橋的な役割も担っていたという。
「ダヴマンで演奏する楽曲と同じ“声音”、つまり、“歌おうという意思を何とか奮い立たせようとしているみじめで心折れた少年”の声音で本作の曲を作りたくなかった。それに食傷気味だったこともあるけど。そこで子供時代に母が買ってくれた子供向けの本を読み返し、そこから当時言ってたかもしれない奇妙な言葉を広い、そこから歌詞を作り上げていった――そこに、ピーター・ピアーズやコリン・マクフィーの世界に繋がっているような要素を織り込んでいったんだ」 そうトーマスが語れば、ニコは次のように付け加える:「マクフィーの採譜は、インストゥルメンタルだから、“意味を持つ言葉”はないけど、そこには音楽的、そして感情的なつながりがあるんだ」
遠い異国の音楽に魅了された先人が作り上げた芸術に、現代のアーティストが魅了され、また新たな芸術の源泉となる――ニコ・マーリーとトーマス・バートレットという二人の若き才能が、感じ取った音楽的で感情的な繋がり。それが本作、『PETER PEARS:BALINESE CEREMONIAL MUSIC』というアルバムへと昇華したのだ。
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掲載: 2018年05月15日 10:11