The Agonist(ジ・アゴニスト)ニュー・アルバム『Orphans』をリリース
現ARCH ENEMYの女性シンガー、アリッサ・ホワイト-グルーズが在籍していたことでも知られるカナダはケベック州モントリオール出身のジ・アゴニスト。このバンドは、2004年にアリッサ、ダニー・マリノ[g]、クリス・ケルズ[b,vo]の3人によって結成されている。ちなみにダニーは、MAHOGANY RUSHのリーダーとしても知られるギター・ヒーロー、フランク・マリノの甥だ。当初はTHE TEMPESTというバンド名だったが、『Century Media』と契約してワールドワイドでデビュー・アルバムをリリースするにあたってそのバンド名は余りにもありきたりであると考え、また同名のバンドがいたこともあってジ・アゴニストに改名している。
そのデビュー・アルバム「ONCE ONLY IMAGINED」は、2007年にリリースされている。この時点でサイモン・マッケイ[ds]が加入していたが、タイミングの関係上、アルバムではゲストを起用している。さておき、ヘヴィでアグレッシヴでブルータルで、なおかつメロディックでキャッチーでコマーシャルなサウンドはここ日本でも高く評価された。スクリームとクリーンを完璧に使い分ける表現力豊かなアリッサのヴォーカルも大きな魅力だった。2009年には2nd「LULLABIES FOR THE DORMANT MIND」をリリース。前作を進化させた内容で、PV化された“Thank You, Pain”はこのバンドの代表曲になった。2010年2月にはHEAD PHONES PRESIDENTを従えての初来日公演が実現。この時はセカンド・ギタリストとして、CRYPTOPSYのメンバーでもあり、1st、2ndのプロデューサーでもあるクリスチャン・ドナルドソンが同行した。2012年には正式なセカンド・ギタリストとしてパスカル・ジョビンを迎えた5人編成による3rd「PRISONERS」をリリース。同年11月には二度目の来日公演が実現した。サポートを務めたのはALDIOUSだった。
そして、2014年。アリッサがアンジェラ・ゴソウの後任としてARCH ENEMYに移籍する。この時起こったことは、アリッサにとってもジ・アゴニストにとっても苦い思い出でしかないだろう。アリッサは「2つのバンドを並行してやろうと思っていたのに、(ジ・アゴニストの)他のメンバーにその機会を奪われた。追い出された」と辛辣な言葉を浴びせた。アリッサの気持もよく判る。フェイヴァリット・バンドの1つであるARCH ENEMYから声が掛かったのだから受けない手はないし、2つのバンドを並行してやっていこうと考えていたのも事実だ。しかし、アリッサのARCH ENEMY加入を「WAR ETERNAL」(アリッサ加入後のARCH ENEMYの第一弾。2014年リリース)の完成後に間接的に聞かされたという他のジ・アゴニストのメンバーの気持も判る。彼らが「このまま続けたらフルタイム・バンドとしてのジ・アゴニストはもうおしまいだ。ARCH ENEMYのシンガーのサイド・プロジェクトになってしまう」と危機感を抱いたのも判る。ジ・アゴニストよりもARCH ENEMYの方がビッグなのだから、アリッサがそちらを優先して動くことはある意味当然だった。
ダニーがヴィッキー・サラキス、ギリシャ人の両親を持つシカゴ出身のこの女性シンガーの存在を知ったのは、インターネットの動画サイトで、だった。彼女はIRON MAIDENやNEVERMORE、NIGHTWISHの曲の他、“Thank You, Pain”を歌っていた。ダニーは早速コンタクトを取るが、最初は「アリッサが辞めるので、ジ・アゴニストのオーディションを受けてみないか?」ではなく「別プロジェクトをやろうと思っているので、君のことをもっと知りたい」と言ったそうだ。ジ・アゴニストとARCH ENEMYはどちらも『Century Media』の所属で、レーベルを介して「しかるべき時が来るまでどちらも何も言わない」という取り決めをしていたためだ。そして、音を合わせたり話をしたりしているうちに“相思相愛”になっていき、“しかるべき時”が来るとジ・アゴニストはヴィッキーに正式に加入をオファーする。アリッサのARCH ENEMY加入とヴィッキーのジ・アゴニスト加入の発表はほぼ同時期だった。
ヴィッキーを迎えた新体制による4th「EYE OF PROVIDENCE」は2015年にリリースされた。音楽的に大きな変化はなく、ヴィッキーもアリッサと遜色のないヴォーカルを聴かせた。スクリームを本格的に始めたのがジ・アゴニストに入る約1年半前だったというのが信じられないくらいに。2016年には、『Napalm Records』に移籍して5th「ファイヴ」をリリース。2018年8月には、三度目の来日公演が実現した。この時はCELLAR DARLINGとのダブル・ヘッドライナーで、他にもゲスト・バンドが出演した。
そして、ここに6thアルバム「オーファンズ」がリリースされた。メタルコアのヘヴィネスとアグレッションを基盤にしながらプログレ由来のテクニカルな展開、さらにはジャズやクラシック音楽の要素を盛り込んだサウンドは健在だ。ヴィッキー加入後に増えたオーセンティックなHM/HR色の強い曲もある。さらなる飛躍が期待出来るアルバムだ。
日本語解説書封入/歌詞対訳付き
【収録曲】
01. イン・ヴァーティゴ
02. アズ・ワン・ウィ・サヴァイヴ
03. ザ・ギフト・オブ・サイレンス
04. ブラッド・アズ・マイ・ガイド
05. ミスター・コールド
06. ダスト・トゥ・ダスト
07. ア・デヴィル・メイド・ミー・ドゥ・イット
08. ザ・キリング・アイ
09. オーファンズ
10.バーン・イット・オール・ダウン
【メンバー】
ヴィッキー・サラキス (ヴォーカル)
ダニー・マリノ (ギター)
クリス・ケルズ (ベース)
サイモン・マッケイ (ドラムス)
パスカル・ジョビン (ギター)
タグ : ハードロック/ヘヴィメタル(HR/HM)
掲載: 2019年08月23日 12:59