レーヴェンタール(ルーエンサール)/コンプリート・RCA & コロンビア・アルバム・コレクション(8枚組)
20世紀に突如現れた、空前の超絶技巧ロマン派ピアニスト、
レーヴェンタールの圧倒的な技と音を聴く8枚組。
リスト「巡礼の年」第1年・第2年の全曲が録音後50年を経て初めて陽の目を見る!
日本ではレイモンド・ルーエンサールと読まれきたアメリカの名ピアニストのアンソロジーが登場します。CDではチェスキー・レーベルのガーシュウィン/ラプソディ・イン・ブルー(PHCF5256:廃盤)が宇野功芳氏により絶賛されたことがありました。彼の録音の復刻は海外盤でも少なく、現在入手することができるのは彼のウエストミンスターへの小品録音をCD2枚分収録した「The Liszt Legacy」という10枚組(DG 4779527)だけでした。RCAとコロンビアの録音は、日本ではLP時代を含め全く発売されなかったので、今回のBOXは多くのピアノ・ファンに喜ばれることでしょう。
(タワーレコード 商品本部 板倉重雄)
レイモンド・レーヴェンタール[ルーウェンタール、ルーウェンサールとも]は、テキサス州サンアントニオで生まれました。彼の生年はしばしば1926年と言われていましたが、それはハリウッド映画での子役としてのキャリアのためで、実際には3年前の1923年生まれでした。15歳より名ピアニストのシュラ・チェルカスキーの母であり教師であるリディア・チェルカスキーのもとでピアノを学びました。1945年、カリフォルニアで開催された3つの主要なコンペティションすべてで優勝。オルガ・サマロフ・ストコフスキーの奨学生としてジュリアード音楽院で勉強を続け、ヨーロッパでアルフレッド・コルトーとグイド・アゴスティにも師事しました。
1948年に、ミトロプーロス指揮フィラデルフィア管弦楽団との共演で、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を演奏しデビュー。もともとこの曲の演奏はミトロプーロスの弾き振りで演奏される予定でしたが、ミトロプーロスの指揮の下で演奏するように招待された初めての機会であり、この演奏は大絶賛。数週間後のニューヨークでのデビュー・リサイタルでも大成功をおさめ、北米での本格的キャリアを開始しましたが、1953年、ニューヨークのセントラルパークを散歩中にギャングに襲われ、手と腕を骨折。時間をかけ身体的および心理的回復の後、海外に移り、ヨーロッパと南アメリカで時折行われるツアーと録音を除き、コンサートのステージから退きました。しかしこの間、彼は当時ほとんど一般に知られていなかったフランス・ロマン派の作曲家・ピアニスト、シャルル・ヴァランタン・アルカン(1813~1888)の生涯と音楽についての研究に没頭したのです(その研究結果を記した本は、彼の死の時点で未出版のままでした)。
レーヴェンタールは、アルカンのピアノ曲の楽譜を編纂してシャーマー社から出版し、1963年にはニューヨークのラジオ局WBAIでアルカンについての番組をプロデュースしてその作品を広く紹介することで、風変わりかつ予言的で、技巧的なアルカンのピアノ曲を忘却の淵から救い出したのでした。この放送は熱狂的な反応を呼びで、それに勇気づけられたレーヴェンタールは、1964年9月にニューヨークのタウンホールで、アルカンのピアノ曲を含むリサイタルを行いました。この成功を受けて翌年1月にRCAへの初録音であるアルカンの作品集(CD1)が実現し、「アメリカで録音・発売された最初のオール・アルカン・アルバム」として批評家たちから絶賛を受けました。特にニューヨークとロンドンなどでのコンサートでは、モシェレス、フンメル、ヘンセルト、シャルヴェンカ、ルビンシテイン、ロイブケ、フィールド、ドゥセクなどの重要だがほとんど軽視された19世紀の作曲家によるソロと室内楽作品を再紹介し、「知られざるロマン派音楽リヴァイバル」への率先者と見なされるようになりました。
レーヴェンタールの熱意は、アルカンに限定されませんでした。リストの知られざる作品の発掘にも取り組み、リストのほかチェルニーやショパンなど6人の作曲家の共同で作曲され、リストによってまとめられた「ヘクサメロン変奏曲」を初録音し、これまた超絶技巧が要求される「ノルマの回想」をカップリングしています(CD2)。この時期、レーヴェンタールはリストの大作「巡礼の年」の全曲録音に取り組みますが、なぜか第1年と第2年を録音したところで中座し、録音されたセッション・テープはそのまま忘れられていました。今回のボックス化にさいして、そのセッション・テープが全曲試聴され、選定されたベストテイクから新たに編集され、録音後半世紀を経て初めてその姿を現すことになりました(CD6・CD7)。
また彼の功績として、クララ・シューマンが初演し、ブゾーニが愛奏し、リストが絶賛した、ヘンゼルトのほとんど知られていなかったピアノ協奏曲を20世紀に復活させたことがあげられるでしょう。1969年にRCAからコロンビアに移籍したレーヴェンタールは、この演奏困難な作品を、マッケラス指揮ロンドン交響楽団と録音し、リストの「死の舞踏」のさまざまな稿を自ら編曲した版による演奏とカップリングしました(CD3)。同じ年に、アントン・ルビンシテインのピアノ協奏曲第4番とシャルヴェンカのピアノ協奏曲第2番のフィナーレも録音しています(CD4)。1971年には、新しいアルカン・アルバム(CD5)に取り組み、ピアノ曲のみならず、「ある鸚鵡の死によせる葬送行進曲」では合唱団を指揮さえしています。
しかし1970年代に入ると、その気難しい性格で音楽マネジメントと衝突して、レーヴェンタールの演奏活動は大幅に少なくなり、1973年にはマンハッタン音楽学校で教鞭を執り始め、教育活動に比重を移しました。1980年代には慢性的な心臓病のためにマンハッタンを離れてハドソンに移って隠棲し、1988年11月21日に65歳で亡くなりました。
この8枚組ボックスには、レーヴェンタールが1965年から1971年にかけてRCAとコロンビアに録音した全録音が収録されています。いずれもオリジナル・アナログ・マスターテープより、24bit/192kHzリマスターが施されています。それぞれのディスクはオリジナルLPのカップリングで、各ディスクはジャケットのデザインによる紙ジャケに封入され、レーベルも初出時のデザインが採用され、ジェッド・ディストラーによる解説や詳細なトラックリストを掲載した27ページのオールカラー・ブックレットとともに、クラムシェルボックスに封入されています。また《CD8》は、レーヴェンタール自身がそれぞれの作品について解説した音源で、もともとコロンビアのLP発売時に、7インチのボーナスLPとして添付されていた貴重な録音です。
(ソニーミュージック)
収録内容
<CD1>[RCA録音]
シャルル・ヴァランタン・アルカン:
1. 『全ての短調による12の練習曲Op.39』より第12番「イソップの饗宴」
2. 『歌曲集 第3集 Op.65』より第6番「舟歌」
3. 『グランド・ソナタ 四つの時代Op.33』より第2楽章「30歳代-ファウストの如く」
4. 『全ての短調による12の練習曲Op.39』より第4番「交響曲第1楽章:アレグロ・モデラート」
5. 『全ての短調による12の練習曲Op.39』より第5番「交響曲第2楽章:葬送行進曲」
6. 『全ての短調による12の練習曲Op.39』より第6番「交響曲第3楽章:メヌエット」
7. 『全ての短調による12の練習曲Op.39』より第7番「交響曲第4楽章:フィナーレ」
【録音】1965年1月11, 13, 14, 19, 20日、ニューヨーク、ウエブスター・ホール
<CD2>[RCA録音]
1-12. フランツ・リスト他:ベッリーニの『清教徒』の行進曲による華麗な大変奏曲 S.392(「ヘクサメロン」変奏曲)
13. フランツ・リスト:『ノルマ』の回想 S.394
【録音】1966年4月25, 27, 29日、5月2, 4, 9, 11日、ニューヨーク、ウエブスター・ホール
<CD3>[コロンビア録音]
1-3. アドルフ・フォン・ヘンゼルト:ピアノ協奏曲ヘ短調Op.16
4. フランツ・リスト(レーヴェンタール編):死の舞踏 S.126
【共演】 チャールズ・マッケラス(指揮)ロンドン交響楽団
【録音】1969年1月30-2月1日、ロンドン、アビイロード・スタジオ
<CD4>[コロンビア録音]
1-3. アントン・ルビンシテイン:ピアノ協奏曲第4番ニ短調Op.70
4. フランツ・クサヴァー・シャルヴェンカ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.56 より第3楽章
【共演】エレアザール・デ・カルヴァーリョ(指揮)ロンドン交響楽団
【録音】1969年9月19, 20, 22日、ロンドン、アビイロード・スタジオ
<CD5>[コロンビア録音]
シャルル・ヴァランタン・アルカン:
1-4. ソナチネ イ短調Op.61
5. 小さな物語 変ホ長調
6. 戦場の太鼓
7. 幻影Op.63-1
8. ある鸚鵡の死によせる葬送行進曲
9. 小悪魔たち Op.63-45
10. 練習曲 変イ長調
11. 小スケルツォ Op.63-47
12. しけ Op.74-10
13. 嘆息 Op.63-11
14. 小舟歌 Op.63-12
15. ヘラクレイトスとデモクリトス Op.63-39
16. 戦慄 Op.63-7
【録音】1970年9月17, 21, 24日、ニューヨーク、コロンビア30番街スタジオ
<CD6>[RCA録音/未発表音源]
フランツ・リスト:巡礼の年第1年『スイス』S.160(全曲)
【録音】1966年12月、ニューヨーク、ウエブスター・ホール
<CD7>[RCA録音/未発表音源]
フランツ・リスト:巡礼の年第2年『イタリア』S.161(全曲)
【録音】1966年5月&6月、ニューヨーク、ウエブスター・ホール
<CD8>:レイモンド・レーヴェンタールによる、ディスカッションと説明[コロンビア録音]
1. アドルフ・フォン・ヘンゼルトのピアノ協奏曲について
2. リストの死の舞踏について
3. アントン・ルビンシテインのピアノ協奏曲第4番について
4. フランツ・クサヴァー・シャルヴェンカのピアノ協奏曲第2番の終楽章について
5. アルカンの音楽について
【録音】1969年4月3日、9月12日、1970年11月13日、ニューヨーク、コロンビア30番街スタジオ
【演奏】
レイモンド・レーヴェンタール(ピアノ)
カテゴリ : ニューリリース | タグ : ボックスセット(クラシック)
掲載: 2019年09月27日 12:00