ヘドウィグ・アンド・ジ・アングリー・インチ
ステージからスクリーンへ。
性別を超えた妖しさでロックンロールのマジックを甦らせるヘドウィグって誰?
「ロッキー・ホラー・ショウ」「トミー」「ザ・ウォール」……ロック・オペラと 呼ばれる数々のドラマがこれまで生まれてきたけれど、「ヘドウィグ・アンド・アグリーインチ」は、その歴史へ、優雅に、ワイルドな文体で新しい章を書き加える。もともとはオフ・ブロードウェイで上演され、その後全米で上演されるほどの大ヒット になった舞台の映画化。その製作・監督・主演をこなすのは舞台の産みの親でもあるジョン・キャメロン・ミッチェルだ。彼は〈ヘドウィグ〉との付き合いについてこう語る。
「本物のロックンロールを使った舞台をやりたかったんだ。そんな時に、ドラッグ ・クィーン・バーで働いていたスティーヴン(・トラスク/舞台と映画で音楽を担当)に出会った。そこで僕がモノローグを書き、彼が曲を書いて、それをミックスさせ たパフォーマンスを始めた。それを4年ほどやって、オフ・ブロードウェイでの上演に漕ぎ着けたんだ。そして、今回の映画化……ヘドウィグと付き合って7年くらいになるけど、もう自分とヘドウィグを切り離して考えるのは難しいよ」
ヘドウィグはドイツで生まれたゲイのミュージシャン。かつての恋人は、ヘドウィグの曲でスターの座を手に入れるものの、当のヘドウィグはドサまわりの日々。彼(女)は、自分の〈失われた片割れ〉を追い求め、その不安と葛藤をロックンロールに乗せて歌い続ける。
「ヘドウィグは、ロック・スターであり、スタンダップ・コメディアンであり、ドラッグ・クィーン。僕が舞台で実現したかったすべてをもっているんだ。だから僕の 〈失われた片割れ〉なのかも知れない」
ヘドウィグの生まれはベルリン。デヴィッド・ボウイやルー・リード、イギー・ポップら、ジョンが「僕にとっては神の三身一体」と言う、3人のロックンローラーた ちがかつて曲の題材を求めた土地だ。そこでヘドウィグは“Walk On The Wildside” を聴き、自分の性に、宿命に目覚める。
「僕自身は、ロックのほかにも、ジャズ・ヴォーカルものから、スタックス、アトランティックといったソウル・クラシックスのレーベルものとかも大好き。最近では 、エレファント6周辺のバンドとコラボレートしているんだ。基本的にオーガニックでパーソナルな音楽が好きだよ」
そんな彼の嗜好を反映してか、映画のなかで登場するヘドウィグとそのバンド、アグリーインチのサウンドは、グラマラスな装いを艶やかに身に纏いつつ、70年代のロックがもっていた華やかな感覚を見事に再現してみせる。どんな時代のティーンエイジャーも、みんな口ずさんでしまいそうな、シャープで甘いメロディー。そんな音楽とドラマの〈共演〉に魅せられたミュージシャンのひとりがボブ・モウルドだ。
「ボブは何度も舞台を観に来てくれたよ。舞台用にギターを貸してくれたこともあ った。だからサントラにギターで参加することを快く引き受けてくれた時は大喜びさ 。だって僕もスティーヴンも彼の大ファンだったからね。彼はとても情熱をもってる人で、映画自体に特別な味を加えてくれたと思う」
舞台には、デヴィッド・ボウイやルー・リードはもちろん、マドンナやマリリン・マンソンまでもが駆け付けたという。それは彼らがヘドウィグと同じく、自分のなか のフリークな部分と向き合うことで、アーティストとして成長してきた者たちだからかもしれない。そこにはヘドウィグがもつ、アウトサイダーの誇りに対する彼らの共感があるのだ。
「若いころはそれで悩むこともある。でもある時気付くはずさ。フリークなのは才能であり、特権だって。自分のユニ-クさを楽しみ、尊重するのは大切なことなんだ 。フリークやアウトサイダーなのが良いことか悪いことかは、すべて自分次第なんだよ」
そして、ゲイ・フォビアが多い映画界のなかで、ゲイであることを隠しもせずに乗り込んだジョン。彼もまた輝かしきアウトサイダーのひとりなのだ。
PROFILE
63年生まれ。テキサス州エルパソ出身。86年に「マイアミ5」で映画デビューし、90 年の「ブック・オブ・ラブ あの日の恋」などでその存在が注目される。93年にはエ イズをテ-マにした舞台「The Destiny Of Me」でオビー賞を、94年にはミュージカ ル「Hallo Again」でドラマ・デスク賞を受賞。98年に上演された舞台「ヘドウィグ ・アンド・アグリーインチ」は2年間のロングランを記録、各賞を総ナメにする。その映画化作品が2002年2月に日本でも上映予定。また、映画に登場するバンドによる サントラ盤『Origin Of Love』がリリースされたばかり。