Liberty
華麗なる復活劇を演じた新人(!?)、アイドル帝国の異端児、リバティーが誕生!!
ポップスターならぬ〈フロップ(失敗)スター〉に始まり、 〈残飯〉〈負け犬の悪あがき〉……。 毒舌で名高い英国の大衆マスコミに以上のような表現で散々コケにされてきたのが、 ここにご紹介するリバティーである。 ケリ、ジェシカ、ミッシェル、トニー、ケヴィンという男女からなる新人グループだ。 彼らがそんなイジメを被らねばならなかった理由は、グループ誕生の経緯にある。
昨年、英国では実に1,200万の視聴者数を誇るオーディション番組が放映されていた。 その名もずばり「Popstars」。4,000人の応募者から絞られた5人がデビューのチャンスを与えられるという企画で、 実際その5人は現在ヒアー・セイの名でつぎつぎにヒットを放っている。 が、10人の最終候補に挙がりながら選に漏れてしまった残る5人の男女も、 そそくさと引き下がったわけではなかった。 みずからグループを結成したのである。
「収録中に意気投合した僕たちは、その後も連絡を取り合っていたんだ。 オーディション終了後に各自が次にとるべきステップについて思案した末に、 そのステップを5人いっしょに踏み出そうという結論へ自然に達したのさ」(トニー)。
その時点ですでに「セミ有名人になってた」(ジェシカ)5人の動向はすぐにニュースとなり、 前述のコキおろしが始まるわけだが、彼らはまずたっぷり時間をかけてオリジナル曲を作ることを選んだ。 そしてあのリチャード・ブランソンの支持を得てレコード契約(契約金は破格の4億5千万円!)。 さらにデビュー・シングル“Thinking It Over”のリリースを前に、彼らは一計を案じる。 元アートフル・ドジャーのピート・デヴェルーがプロデュースしたこの曲にラジオのUKガラージ専門番組の名物DJが惚れ込んだことから、 まずはクレジットを伏せてプレイしてもらうことにしたのだ。
「DJの方から〈偏見に左右されずに曲の良さを知らせるために〉と提案してくれたの。 すぐヘヴィー・ローテーションになって、クラブでも大評判。アーティスト名を公表したときには手遅れってわけ。 〈えっ? あ、そうなんだ……〉なんて、みんな口籠っちゃってたわ(笑)」(ケリ)。
結局、10月には全英チャートで初登場5位を記録。 リバティーは絶好のスタートを切った。 そしてこのシングルが予告したとおり、先ごろ完成したアルバム『To Those Who Wait』で彼らは、 UKガラージやR&Bをベースにした独自のスタイリッシュなポップを追求。 たとえばシュガーベイブスやオール・セインツに通ずる英国らしいエッジーなセンスといい、 音のミクスチャー感覚といい、男女ヴォーカルのスリリングな絡み方といい、 5人の個性は着実に作品に反映されている。
「わたしたちはアメリカの売れ線ポップの焼き直しには興味がない。 かといって作為的に音を作ってるつもりもないの。 ただ自分たちが好きな音、自分たちの内から自然に生まれる音楽を形にしているのよ」(ケリ)。
以上がリバティーの華麗なる敗者復活劇の次第である。 実力、野心、いい意味でのしたたかさ、根性、自作曲へのこだわりと自信、ルックス。 これだけの条件を備えたグループが成功しないわけもないし、 いまの5人が「オーディションに落ちて良かった!」と満面の笑みを浮かべていることは言うまでもない。
「まだグループ名もなく1曲も発表してないのに、英国中の人が僕たちを知っているという奇妙な状況から始まったわけだけど、 いま思えばあの番組で学んだことは多かったよ。業界の内情を前もって知ることができたし、人脈も築けたし。 そしてなによりも、タフじゃなきゃ成功できないってことをね(笑)」(ケヴィン)。
PROFILE
イギリスで放映されているオーディション番組「Popstars」で、 最終候補まで残りながらも落選してしまったケリ、ジェシカ、ミッシェル、トニー、ケヴィンの5人が、 お互いの才能と個性に惹かれ合いグループを結成。 容姿はもちろんのこと、みずからが楽曲を手掛けるという音楽的才能にも注目され、 先ごろリリース契約を果たした。匿名ながらラジオでヒットしていた“Thinking It Over”をデビュー・シングルとして9月に発表、 UKチャートで初登場5位を記録する。このたびファースト・アルバム『To Those Who Wait』が日本先行でリリースされる。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2002年05月09日 17:00
更新: 2003年03月07日 17:01
ソース: 『bounce』 226号(2001/10/25)
文/新谷 洋子