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インタビュー

Kylie Minogue

イギリスをふたたび震撼させた、カイリー・ミノーグのニュー・アルバム『Fever』!!

 〈ポップス〉――その言葉の意味も、実像が薄いものになってしまいました。昨今、あらゆる種類の音楽が台頭したことによって、音楽のメインストリームは完全にひっくり返ってしまったからです。そこにきて、クロスオーヴァーなる自由な、そして一歩間違えば、音楽の本質さえもぼやけてしまう明るいムーヴメントまでもが起こってしまったわけですから、ことは厄介。ある時期には、聴いたことのない一風変わった音楽、なんらかの知識がないと楽しめない音楽がもてはやされたものでした。

 そんな〈ポップス〉が光輝き、シーンを牽引していた時代に彼女はレコード・デビューをしました。87年のことです。それから多少の寄り道はあったものの、〈ポップス〉にこだわり続けてきたカイリー・ミノーグ。〈顔とスタイルは覚えているけど、曲は忘れてしまったよ〉なんて、陰口が聞こえてきそうな厳しい時代もありましたが、昨年発表されたアルバム『Light Years』が大ヒット。そして本作『Fever』では、ついにUKチャートNo.1の栄冠に!逆襲に成功したのです。

 「私たち、このアルバムは前作から一歩前進したものにしたかったの。前はやりすぎたから、今回はもっとシンプルかつプログレッシヴなものにしようって。ポップスの構造をキープしながらね。今回は素晴らしい人たちと仕事ができた。私がなにをやりたいのか、すぐに理解してくれるの。だから、このアルバムは私にとって大いなる前進といえるわ。でも、私のルーツともいえる〈ポップス〉は絶対的にこのアルバムにも存在しているわ」。

 自信みなぎる彼女が〈私たち〉と言うように、このアルバムにはオール・セインツやカタトニア、そしてトム・ジョーンズなどを手掛けた経験のあるプロデューサーが多数参加しています。しかし、彼らの提供するトラックは主張が抑えられており、彼女の歌が存分に楽しめる仕組みになっています。先行シングル曲にもなった“Can't Get You Out Of My Head”での、淡々とリズムを刻むシンセのなかを泳ぎまわる彼女のヴォーカルとストリングスの気持ち良さは格別のものです。あえて先鋭的なトラックで化学反応のひとつも起こせたかもしれません。しかしみんなはカイリーの歌が聴きたいのだし、彼女はそんなアプローチは経験ずみだから二度とやりません。目立ってはいませんが、本当はプログレッシヴなアルバムなのです。

 「このアルバムはランダムにどの曲を聴いても〈カイリーの曲〉って感じでしょ。でも以前の曲より、ずっと興味深いものになっていると思う。……前とはなにかちょっと違うサウンド・プロダクションかしら? あとはヴォーカル。このアルバムのほとんどの曲は、いままでやってきたものとはずいぶん違う歌い方をしているわ。どうやっても〈私〉が聴こえてくると思うけど(笑)」。

 聴こえてきますとも。しかし、彼女は自己へのチャレンジも忘れていませんでした。これまでのパターンにはない楽曲を〈カイリーの曲〉へと昇華させる努力……結果、見事なヴォーカル・アルバムになっているのです。イギリスの音楽ファンを動かした、いちばんの理由なのではないでしょうか?

「初めて“Burning Up”を聴いたとき〈あら?(いままでとは)違いすぎてるわ〉って思ったの。〈なにかの間違いだわ〉って。でも曲を聴いていくうちに、この曲のなかにあるふたつのグルーヴにすっかり入り込んでしまった。いままでこんな曲は聴いたことがなかった。そういうふうに、いままでやったことのないことができたのは、ひとつの達成といえると思う」。

 チャレンジ精神と確かなスタンスで歩み彼女。ポップ・ミュージックがふたたび輝き始めました。最後はポップ・スターらしく、月並みな質問を――カイリー、オフにはなにを……?

「(笑)少しの時間しかないから、静けさを楽しむわ。身近な人と会ったり、ビデオやTVを見たり、CDを聴いたりね」。                   

PROFILE
68年、メルボルン出身。79年には女優としてTVデビュー。87年にはレコード・デビューを果たし、シングル“The Loco-Motion”が大ヒットとなった。その後、ストック/エイトキン/ウォーターマンのプロデュースで数々の作品をリリース。なかでも89年にリリースの『Enjoy Yourself』は全英チャート1位となっている。2000年にはレーベルを移籍して発表されたアルバム『Light Years』が大ヒットし、健在ぶりをアピール。先ごろ8作目となるアルバム『Fever』が発表されたが、先行リリースされたイギリスではチャート1位を記録。その日本盤がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年05月16日 12:00

更新: 2003年03月06日 20:15

ソース: 『bounce』 227号(2001/11/25)

文/犬笛 ヒロ