インタビュー

Ghostface Killah

歴戦の強豪MCが集う武闘集団において唯一(?)、単独活動でも勝利を収め続けるバケモノ顔の人殺し。3度目の一人舞台も濃厚な魂が渦巻く傑作だ!

 ゴーストフェイス・キラー、七変化。ウータン・クランの主要メンバーにして、ヒップホップ界でもワン&オンリーの高音ヴォイスにして迫力満点のスタイルを持つ男。スタッテン・アイランド叩き上げのワルにして、家族思いの苦労人。そのゴーストフェイス・キラー(以下GFK)が、また新機軸を打ち出した。

デビュー・アルバム『Iron Man』から待たされること4年、2000年にやっと登場したセカンド・アルバム『Supreme Clientele』はその年の最高傑作のひとつに数えられるほどの出来だった。GFKはそこで硬軟取り交ぜた魑魅魍魎とした世界を創り出すことに成功。中毒性の高いこの世界に取り憑かれたファンの心境を察してか、続く『Bulletproof Wallet』を1年ちょっと、という短いインターバルで放出した。で、その最新作がオモシロイ。

「俺はトラックを選ぶとき、すごくうるさいんだ。ちょうど、女性を選ぶときみたいなもんだな」と言い放つGFKの〈耳〉に適ったトラックは実に多彩だ。剃刀みたいにシャープな(そういえば、ウータンのプロデュース隊長であるRZAが運営する、その名もレザー・シャープというレーベルからGFKのソロ・アルバムは出ている)勢いに満ちたトラック、今回初めて組むとは思えないほど相性の良い西海岸のアルケミストによる緻密にしてどことなくメロウなトラック、そして最近の得意技、70'sディスコティーク風(別名おバカ路線)もある。

そのトラックの数々に芯を通すのが、吹っ切れた、というよりブチ切れているGFK、怒涛のフロウである。

「俺が(リリックを)書くときは、勝つために書くんだ。体裁なんてクソ喰らえさ。聴き手がなにかを感じてくれるように書くだけだ」。

体内にあるものを、好きなように吐き出す。それがヒップホップの原点だ。それなのに、聞こえがいいように、わかりやすいように、キャッチーにまとめただけのライムが市場にどれほどたくさん出回っていることか。

「半年後に、どういうつもりで書いたのか自分でも忘れていることがある」という恐ろしい? 発言をしていたGFKのリリックの真骨頂は、〈筋は通らないけど、気持ちはなんとなくわかる〉という点にある。


傑作しかリリースしないゴーストフェイス・キラーの96年作『Iron Man』(Razor Sharp/Epic)

また、彼は本音野郎でもある。『Bulletproof Wallet』からのファースト・シングル“Never Be The Same Again”はカール・トーマスを迎えた(なんと)R&B色の強い曲だが、そこで浮気っぽい妻に向かって「ヤツのどこが良かったんだ、俺より×××がデカかったのか」という、実に勇気ある発言が聞ける。また、「トニー・スタークス(GFKの変名)を市長に!」とブチ上げているのは半分本気に聞こえるし、ツアー先の様子を実況中継したような“The Hilton”なんて曲もある。英語がわからなくても、怒っているのか、哀しんでいるのか、彼のラップさえ聴けばはっきりとそれが伝わってくる。GFKことデニス・コールマンという人間の、喜怒哀楽の激しい性格がそのまま盤に焼き付けられているわけだ。

〈新機軸を打ち出した〉と冒頭に書いたのは、もともと正直な彼がさらに自分の感情に忠実に、肩の力を抜いて楽しんでいる様子がありありと出ているからだ。相棒であるレイクォンの出番はしっかり確保しているし、従兄弟でもあるRZAも全面協力している。メソッド・マンやキラー・シンといったウー一家のMCのほか、自分で立ち上げたスタークス・エンタープライズの新人を起用するなど、ファミリーの結束の固さも相変わらず。が、その〈相変わらず〉具合とテンションを変えずに、遊び心をあちこちに覗かせているのが新鮮なのだ。R&B畑のプロデューサー・チーム、アンダードッグスを起用したり、〈いちご〉や〈森〉といったメルヘンチックなタイトルを堂々と付けてしまったりする余裕を、ヒップホップ・ゲームにおいてトップの一角を担ういまの彼はもっている。魑魅魍魎としたウータンらしい音世界に、〈やりたいようにやる自分〉=素のGFKが透けて見える。それこそが、『Bulletproof Wallet』最大の聴きどころにして、GFKワールドの魅力だ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年05月16日 17:00

更新: 2003年03月06日 19:36

ソース: 『bounce』 228号(2001/12/25)

文/池城 美菜子