Funky DL
良質のヒップホップ・サウンドをコンスタントに届けてくれるファンキーDL。彼の最新作は漆黒の艶が薫る〈私が考えるジャズ〉。これまた傑作だ!
『When Love Is Breaking Down...』に続く、5枚目のアルバム『Blackcurrent Jazz』を発表するファンキーDL。そもそもアルバム・タイトルは全体のコンセプトとして キーワード的にあらかじめ用意されたものではなく、あくまでノリでつけられたもの のようだ。
「最初は『Blackcurrent』だったんだけど、そこにオレの好きな〈Jazz〉を加えた。それがとてもキャッチーで、オリジナリティーのあるタイトルだったから」。ジャズに対する彼の思いは相当に強いようで。
「オレの音楽の源はジャズだと思っている。曲のもつ表情を定義するのに役立っているしね。ジャズのサンプルを使用して音楽を創ることは、オレの中ではつねに重要 なことだ。オレからジャズを完全に取り上げたとしたら、それはもうファンキーDLじゃないといってもいいくらいにね。オレはブラックだし、いまを生きてる。そしてジ ャズを愛している。このアルバムは、まさにオレ自身、DLをレペゼン(代表)してるってことなんだ」。
彼の音楽が彼自身を「レペゼンしてる」という点については頷けるとしても、これまでの彼の音楽から「いまを生きる」という同時代的なうつろいを感じることはあまりできなかったのは確か。彼はその時その時の自分のうつろいよりも、むしろ自分自身の根っことなる不変の部分/普遍的なものを表現してきたアーティストと言ったほ うがふさわしく見えたからだ(実際、彼も今回のインタヴューで「その時々のムード で作品を作りたくない」という言葉を残してもくれた)。それはこのアルバムにおいてもなんら変わることはない。今回も彼は、聴く者の心を温め共振させんとする音楽を、そして、人々の記憶と響きあわんとする音楽を鳴らしている。
「聴いてる人を一種の独特な場所や特定の時間へ連れ出すこと。聴いてる人自身の精神的な部分までも曲の一部であるかのように思わせてしまうこと。聴いてるうちに 知らず知らずに自分のソウルを込めてて、居場所も忘れてしまい、気付かず首を振ってる……そんなヴァイブ、そういったことがオレらしい部分ってことになると思うよ 」。
その〈らしさ〉健在のなか、いつにも増して強調されて聴こえる部分があるとしたら、それは彼のヴォーカル・スタイルだ。思わず口ずさみたくなるようなメロディア スなタッチがよりはっきりとしたフロウは、リスナーと響きあう接点を広げる効果を上げ、音楽そのものに安定感と滑らかさをも加えている。
「自分のヴォーカルやフロウをもっとメロディアスにすることで、曲に対する制限がより少なくなったと感じているし、ビートの中のメロディーだけじゃなくて、ヴォーカルからも同じように、創造性や雰囲気を感じとることができるんじゃないかな。 音楽においてメロディーはパワフルなものだ。ヴォーカルにフレーズやメロディーが 備われば、それはより一層強力なものになる。これは、オレのスタイルにおける大いなる発展だよ」。
その「大いなる発展」がもたらされたアルバムについて、彼はさらにまとめる。 「このサンプルを使えばこんな曲ができるとかは考えずに、ただ使いたいと思って使ったものが結果としてこういうアルバムになったんだ。とてもカラフルで音楽的に表情豊かになってるだろ。トータルで聴いても一貫性があって、自分でも聴くたびにエレクトリックなヴァイブを感じるようなアルバムに仕上がったよ。自分に正直なものだし、自分がやりたいことや自分が向かうべき方向へと導いてくれたアルバムだね 」。
「現時点での完全なアルバム」――そんな言葉に続けて、「でも数週間後にはまた新しいアイデアが出て、これも不完全なものになってしまうんだろうね」と話す彼。 年に1枚というアルバムのリリース・ペースを順調にクリアしてきた活動は、今後もまだまだ続きそう。やりたいこと、向かうべき方向、それが彼にとって具体的にどん なものを示すかを訊くことはできなかったけど、それはつねに彼の根っこにある不変 のものを磨きあげた音楽になるはずだ。
「音楽は人間の所有する偉大な贈り物のひとつさ。世界中の異国、異文化の中で人間が共通に理解できる言語だし、いつでもいてほしい友達のようなものかな。子供たちにとってはポジティヴなものであってほしいし、アーティストにとってはいつもチャレンジしがいのあるもので、成長し、前進し、現状より良い方向へ導いてくれるものであってほしいと思うよ」。
締めは彼がインタヴューの最後に発した言葉で。
「心にいつもヒップホップを」。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2002年05月16日 21:00
更新: 2003年03月03日 23:27
ソース: 『bounce』 227号(2001/11/25)
文/一ノ木 裕之