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インタビュー

東京ザヴィヌルバッハ


 TOKYO ZAWINUL BACH(東京ザヴィヌルバッハ)とは、実力派キーボード奏者の坪口昌恭と、サックスとCDJを担当する菊地成孔による人工知能ファンク・ジャズ・ユニット。2人の名をデートコースペンタゴンロイヤルガーデンで見たり聞いたりしたという人も少なくないと思うし、なにより昨今のおびただしい菊地のさまざまな活動による露出過多ぶりには、〈いまの東京を象徴するトリック・スター〉とすら呼びたくなってしまう。

ところで、このユニットの音楽性を〈人工知能ファンク・ジャズ〉と表現したのだが、その理由はリズム・セクションを担当しているのが、フランスで80年代に開発された〈M〉という、音楽を自動的に生成するコンピュータ・ソフトだからだ。つまり擬似的な人工知能が勝手にコラージュし、ランダムに作り出すグルーヴを核にして、2人の生身の演奏家がセッションするというコンセプトにもとづき、彼らのデビュー・アルバム『COOL CLUSTER』は作られている。

「一時ミニマルとかの現代音楽によく使われたけど、すっかり時代から葬り去られようとしていたこの〈M〉に、あえてベースとドラムの役割を担わせてファンクをやったらおもしろいだろう、っていうアイデアを坪口がもってきて。で、やってみたらすごくおもしろかった」(菊地)。

刺激的なのは、擬似人工知能が作り出す気まぐれなリズム・セクションに坪口と菊地のシャープな即興演奏が正面から斬り込むとき。機械と人間が交感神経を共有して同化していると思わせるような瞬間が少なからずあることだ。

「実は僕、子供のころからサイボーグになりたいと思っていて、シャツの下にトランシーバーの基盤を仕込んでは弟に見せて〈お兄ちゃんの体は機械で出来てるんや〉とか言ったりして遊んでたんですよ(爆笑)」(坪口)。

「今回、機械と対等にセッションするような作品を作って、坪口君の人生も一本筋が通ったワケだ(笑)」(菊地)。

スタンリー・キューブリックが生きていたら思わずのけぞりそうな、「A.I.」の対極をいく機械化願望だ。

 ところで、『COOL CLUSTER』には未来感溢れるグルーヴが詰まっているが、既成のビートとは無縁だ。マイルス・デイヴィスのセッション・テープをゴダールが映画「勝手に逃げろ(人生)」風に再編集したかのようなトラックに始まり、“Rockit”期のハービー・ハンコックを彷彿とさせる打ち込みバキバキのエレクトロや、ウェザー・リポートを完コピしつつどこかロボット感(笑)が漂うナンバーまで、ここでの〈未来〉にはどことなく80年代のフレイヴァーが漂う。でも彼らの場合は、ノスタルジーとは全く別物。

「例えば、あるベースラインの上に僕がキーボードを重ねていくにしても、わざとバラバラなコードとメロディーを使って不協和音的な効果を出すような試みをアルバムの随所でやってますからね。だから70?80年代のヴィンテージもののキーボードばかり使っているのに、当時のエレクトロとは全くの別物に仕上がっている」(坪口)。

特筆すべきは、彼らはライヴ活動も盛んにおこなっているところ。疾走しながら気まぐれに組み変わっていくグルーヴを制御しながら、丁々発止でプレイする坪口のエレクトリック・ピアノと菊地のサックスには、かつてのギル・エヴァンスとスティーヴ・レイシーの共演すら思い出してしまう。ちなみに昨年2月、彼らはメデスキー・マーティン&ウッドの前座としてもプレイしているのだが、完全に主役を喰ってその夜の話題を独占していた。

このアンドロイドが夢想した電気仕掛けのファンク・ジャズには、洗練された悪意と毒気の強いユーモアと極めて斬新な音楽的アイデアが満載されている。しかもアンドロイドだけにベッタリとした情感とは無縁で、極めてクールだ。

PROFILE

 99年、坪口昌恭(キーボード/コンピュータ)が持っていたアイデアを菊池成孔(サックス/CDJ)がプロデュースするかたちでグループを結成。都内のライヴハウスを中心に活動を始め、数々のイヴェントへ出演。その高い音楽性で話題になりつつあった彼らだが、イヴェント〈Organic Groove〉でのメデスキー・マーティン&ウッドのオープニング・アクトを務めたことで、その評価を決定的なものとした。両者ともにデートコースペンタゴンロイヤルガーデンのメンバーとしての活動も並行させており、自主制作でリリースされたライヴ・リミックス作品は2タイトルともソールドアウトとなっている。このたびデビュー・アルバム『COOL CLUSTER』(イーストワークス)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年05月23日 12:00

更新: 2003年03月03日 23:20

ソース: 『bounce』 231号(2002/4/25)

文/今村健一