Bounty Killer
ジャマイカNo.1のヒットマンが、泣く子も黙る驚愕の新作を2作同時にリリース!!
「俺はいろんな面を持っている。バウンティ・キラーであり、ロドニー・プライスであり、貧しい人々の代弁者なんだ。それがごちゃごちゃにならないように新作は2枚に分けたんだ」。
2年ぶりの新作を2作同時にリリースした理由を、バウンティはブルックリンのレコード店で行われるサイン会に向かう車中でそう話してくれた。
インテンスなチューンが続々飛び出す『Ghetto Dictionary : The Art Of War』は、「ライバルたちに向けて闘いを宣言している。ビーニー(・マン)、(ミスター・)ヴェガス、レクサス、マーシレス、シズラ、みんなだ」。そう、ジャマイカのダンスホール・シーンは真剣勝負の場でもある。ヒップホップでもライバルMC同士の舌禍合戦は珍しくないが、インタヴューで話を振られると「エンターテイメントの一環」とかわすのが彼らの常套手段。だがダンスホールの王者、バウンティは直球勝負。激化しているビーニー・マンとの抗争についても「ビーニーはいま、ヒット曲がないから俺に喧嘩をふっかけて話題を作りたいんだよ。ステージ上で奴と闘ってもいいけど、あいつは〈俺は女性に愛される優しいタイプ〉とか何とか言って弱腰になるからな。相手にならん」と容赦ない。実は、バウンティが客演したノー・ダウトの“Hey, Baby”のプロモ・クリップで男性がお尻を出すシーンがあり、徹底的に同性愛を嫌うジャマイカでは手柄どころか攻撃の対象になってしまったのだ。その先頭を切って攻撃しているのがビーニー・マン、という図式。90年代初頭、シーンを制したシャバ・ランクスにはニンジャマンがいたように、バウンティにもビーニーという好敵手がいるのは、むしろいいことかも知れないが。
一方、『Ghetto Dictionary : The Mystery』はメッセージ色が強い仕上がりだ。
「俺たちの言動に対するジャマイカ政府の取り締まりについてとか、ジャマイカについての話題が多いから、今回はアメリカのラッパーとはほとんど組まなかった」。
先ごろ、来日公演のために訪れた日本について訊いてみた。
「日本のレゲエが盛り上がっているのはすごくいいことだよ。日本人は言葉がわからなくてもずっとレゲエをサポートしてくれている。日本語のレゲエがビッグになるのは当然だし、レゲエ全体にもいいことだ」。
ライバルたちを言葉で殺し、恵まれない人たちを代表して政府にたてつき、レゲエの国際化について熱弁を振るう。この後、ジャマイカのヒーローは、レコード店の中で行列をなしたファンひとりひとりと握手し、サインをする〈使命〉にも、ニコリともせず、しかし大真面目に取り組んでいた。かっこ良すぎる。
2作同時にリリースされたバウンティ・キラーのニュー・アルバムを紹介。左から、『Ghetto Dictionary : The Art Of War』、『Ghetto Dictionary : The Mystery』(共にVP/ビクター)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2002年06月27日 12:00
更新: 2003年02月13日 12:24
ソース: 『bounce』 233号(2002/6/25)
文/Minako Ikeshiro