インタビュー

Slum Village

新章を開いた彼らの現在・過去・未来


 モーターシティの3人組、スラム・ヴィレッジ。彼らの『Fantastic Volume 2』に収められた“Hold Tight”において、Q・ティップは〈ヒップホップの未来はスラムの手の中にある〉と認めた。それは、革新性と伝統主義を折衷するビート職人、ジェイ・ディーがその1/3だったからこそ、でもある。ゆえに、彼らの2年ぶりの新作『Trinity: Past, Present And Future』はいろいろな意味で衝撃的だろう。彼らはジェイ・ディーを失った。残された2人は彼との〈別離〉についてこう説明する。

「奴は、本人がいつも望んでいた役割を引き受けている。それはビートを作ることだけなんだ」(T3)。

「俺たちは別の道を別の時間に歩むこともあるだろうけど、みんな、いつでもスラムに関わってる。ジェイ・ディーは今後も俺らの作品に参加し続けるよ」(バーティン)。

 そう、〈別離〉とは適切じゃなかった。T3の言葉どおり、ジェイ・ディーは当然のように数曲のプロデュースを手掛けている。そしてもちろん、バーティンとT3の滑らかなライミングはより迫力を増してそこにある。ジェイ・ディーが占めていたスペースを与えられた新たなトラックメイカーたち──すでに名を成した名匠、ハイ・テックやスコット・ストーチから、先行シングル“Tainted”をネオ・ソウル色に染め上げたカリーム・リギンスらの新鋭まで──によるビートから新たな刺激を受けたことは疑いない。そうやって生まれた新作は、グループの遍歴を象徴する3つのパート……過去、現在、未来に分かれたコンセプト・アルバムとなっている。

「今回はとてもリリカルなアルバムにした。俺たちの伝記的なストーリーとファンタジーのミックスみたいなものさ」(T3)。

 また、彼らの三位一体における〈未来〉を担う新メンバー、エルジーの貢献も見逃せない。

「リリカルな部分を加えてくれたのはエルジーさ。彼と俺たちのサウンドはバランスがとれてるんだよ」(バーティン)。

「俺たちはアルバムでそれぞれいろんな役割を果たしている。俺はソルジャーで、エルジーは演説者、バーティンはシェイプシフター(姿を自在に変えるもの)だな」(T3)。

 そういった個々のスタイルやリリックがある種の――以前とは異なる種類の――マジックを生み出している。バーティンいわく「魔法のミックスがスラムなんだ」。そして彼はこう続ける。

「だけど、同じ魔法のミックスを続けたら、サウンドも同じになってしまう。だから俺たちは、少しだけ新しくする。それを繰り返していくのさ」。

 漸進。彼らは、遥か後方を見つめ、足元を見直し、さらには彼方の未来をも視野に入れる。そもそも、ヒップホップとはそういうものだ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年08月22日 18:00

更新: 2003年02月10日 13:00

ソース: 『bounce』 234号(2002/7/25)

文/狛犬