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インタビュー

Lipitone

謎のマイク・マスターがフィールド・レコーディング音源をベースにした異色作をリリース!!


 DJシェビー・サバー『Krishna Lila』、KAMA AINAこと青柳拓次がプロデュースを手掛けた『bonjour hawaii』、同作をパードン木村がリミックスした『FROZEN HAWAII』、久保田麻琴率いるblue asiaの『HOTEL WAIMEA』――環境音や自然音、古典や伝統音楽などのフィールド・レコーディング音源に電子音などのエフェクトを加え、トリートメントをおこなった作品が最近とても気持ちいい。フィールド・レコーディング作品は濃すぎたり、薄すぎたり、時間感覚が都会人の生活と違いすぎたりして、日常的に聴くのは難しかったりする。しかし、プロデューサーという外からの視点が入り、イイ湯加減にされたこれらの作品は、普段都会で音楽を消費している僕たちがより積極的に踏み込める新しいタイプの音響=音楽ではないか。

そんなナイスな作品が多発するなか、フレデリック・ガリアーノが主宰する西アフリカ探求レーベル〈フリキワ〉からおもしろい作品がリリースされた。リピトンのニュー・アルバム『Nuits Sur Ecoute - Bougouni』は、マリ共和国のブゴニ村で録音された生活音を素材にしながらも、それらの音を極めて音楽的に聴かせてしまうという、奇妙なサウンド・モンタージュだ。

 リピトンはフレデリックやローラン・ガルニエのバンドでキーボードを担当してきたマーク・シャロッセのプロジェクト。長年パリでジャズ・ピアニストとして活動してきたマークは6年前に電子音楽へと転向。トーイ・サンというグループで活動していたのがフレデリックの目にとまり、彼のバンドに参加することになる。彼はこの作品についてこう語ってくれた。

「昨年、フレデリックがマリのブゴニ村に行くことになったとき、〈ブゴニの夜〉をテーマにアルバムを作ろうと誘ってくれたんだ。それまで僕はアフリカについてなにも知らなかったけど、ブゴニでは毎晩、生活の音や音楽など、聞こえてくる音を2週間の間、録り続けた。川に行って環境音をマイクで録音したりね。星の光だけに照らされた夜に漁師がボートを漕ぐ音、水の跳ねる音……すべてがマジックのように順番に鳴り響いて、とても素晴らしかったよ。素材を揃えてからはパリに戻ってエディットしまくった。シンセを少し足して、ギニアのハジャ・コヤテやマリの女性ヴォーカリストに歌ってもらい、さらにミックス&エディットして出来上がったのがこの作品だよ」。

村の食堂ではTVニュースが流れ、オヤジが注文を取り、子供が童歌を歌う。水路を漁師が船を滑らせ、遠くに誰かの叩く手慰みのタイコ。もちろん伝統的な弾き語りも収められているが、こんな何気ない音さえも非常に音楽的なのはマリならではのマジックだろうか? それらがリピートされ、リヴァーブをかけられ、薄いシンセや電子音が足されたすえ、聞こえてくるのはなんとも不思議なアフリカとパリを結ぶ夜の音楽=音響なのだ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年08月22日 00:00

更新: 2003年03月10日 12:01

ソース: 『bounce』 234号(2002/7/25)

文/サラーム海上