インタビュー

竹村延和

スピーチ・シンセと出会い、理想のコミュニケーションを実現させた新作『10th』


竹村延和のニュー・アルバム『10th』がリリースされた。文字どおり10枚目のソロ・アルバムを意味するこの作品は、アキツユコや西山豊乃をフィーチャーした生演奏主体の前作『ソングブック』と対を成しながら、〈うた〉に対するアプローチをエレクトロニクスの側から掘り下げた内容となっている。ここではスピーチ・シンセのロボット・ヴォイスが〈うたを歌って〉いるのだ。

「自分のなかでは同じなんですけど、表現の仕方を変えてみたっていうか。ただ、『10th』には『ソングブック』のときに作った曲も入ってるんですけど、そのメロディーをヴォーカリストの方に歌ってもらったときに、どうもしっくりこないこともあって……。特に複雑な跳躍の多いメロディーだと、いかに上手いヴォーカリストの方であったとしても、完璧にメロディーをなぞることは難しい。でも機械ならそれができるわけで、だから、仮にアコースティックで人間が歌うにしても、自分のなかで究極を求めると、それはエレクトリックになるんです」。

『10th』は、竹村延和自身による〈音楽〉に対する問いかけだ。〈うたを歌う〉のが、人間であるのかスピーチ・シンセであるのかは、とりたてて重要なことではない。楽曲のメロディーやハーモニーや構造といった要素自体の素晴らしさは、そのどちらであろうと変わりはないはずで、そしてだからこそ最初から生楽器と電子音双方向からのアプローチによってひとつの〈うた〉が完成されるよう、意図して制作されている。そこには〈音楽〉の本質が、ゆるやかに、だけれどかつラディカルに描き出されているのではないだろうか。

「音楽っていうのは、僕にとってはコミュニケートするための道具なんです。もともとスピーチ・シンセは、障害者の方、話すことが不自由な方のためのコミュニケーション・ツールとして開発されたものなんですが、それを知ったときに〈これこそ自分のツールだ〉って思ったんですよ。自分が音楽をやるにあたって〈これこそがふさわしいんじゃないか〉って。会話の不自由な方が、スピーチ・シンセを使って人とコミュニケートしようとしているのを見て、なんていうか、それがすごく感動的だったんです」。

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掲載: 2002年08月22日 00:00

更新: 2003年02月10日 12:56

ソース: 『bounce』 234号(2002/7/25)

文/西山伸基