インタビュー

Rocking Time

ロックステディーをルーツに日常に寄り添うゴキゲンな歌を聴かせてくれる彼ら。より輝きを増した新作『ROCKING TIME』にあるチャームネスは、幅広いリスナーを魅了するに違いない!!


 日本語のロックステディーを演奏するバンドとして名を馳せてきたROCKING TIME。ロックステディーが歌心とグルーヴを両立させた素晴らしい音楽フォームであることは言うまでもないが、それはさておいてもROCKING TIMEというバンドがナイス!──と、改めて思い知らせてくれるのが本格的なメジャー・デビュー盤となるニュー・アルバム『ROCKING TIME』だ。

「〈ロックステディーを演奏して楽しみたい〉っていう初期衝動みたいなものはわりとずいぶん前にやってしまってるんで。それはなくならずにあるんですけど、まず、いい曲かどうか。〈いい歌だな……あ、こういうのがロックステディーっていうんだ〉っていうふうに聴いてもらえるといいなあ」(今野英明、ヴォーカル:以下同)。

 カリプソ・フレイヴァーたっぷりな冒頭の“燃え上がる熱い心”からソウル弾き語りなラストの“季節が変わる頃”まで、ナット・キング・コール“PRETEND”とジョージ・マックレー“ROCK YOUR BABY”の日本語カヴァーを含む全10曲、ロックステディー・バンドとしての矜持を保ちながらより自由度と輝きを増したROCKING TIMEの世界を、たっぷりと(ホント!!)味わうことができる。なかでも“ROCK YOUR BABY”は、かつてトマトスがカヴァーした歌詞で歌われており、彼らへの敬意がたっぷりと注がれた素晴らしい仕上がりになっていることにハイ注目。

「とにかくトマトスの“ROCK YOUR BABY”は気が狂うほど好きすぎてカヴァーするってことも最近まで忘れてたぐらい(笑)。トマトスはおもいっきりデカイですよ! スタンダードとかカリブの音楽全般を好きになったのって、キヨシさん(トマトスのギター&ヴォーカルの松竹谷清)の影響なんですよ。〈トマトス好きでしょ?〉〈キヨシさん好きでしょ?〉ってズバリ言い当てられるときがあるんですけど、言われてうれしいくらい(笑)」。

 ブルースやカリビアン・ミュージックを下敷きにした素晴らしい日本語ポップスを奏でていたトマトス。素材もさることながらバンド自体の歌世界・音世界こそ素晴らしかったと胸を張って言えるのだが……そう! ROCKING TIMEもまた、然り。かつてはロック少年だったという今野が、トマトスと出会い、自身の資質にジャストなロックステディーと出会い──。

「ロックステディーのリズムってあんまり速くない、ちょうど歩くくらいの速さでしょ。オレはあんまり口が回らないほうなんでラップとか絶対ムリだなと思うんですけど……そんな自分でも歌える(笑)。腰が動くモノで、歌い上げる感じじゃなく歌がでっかくガーンとある──アルトン・エリス“Rock Steady”の〈ステディーにロックしようぜ〉っていうのが……シビレますよねえ! グッと腰を落として揺れようぜ、っていうのが……自分にとっては世界一カッコいいなって思ったんですよね」。

 ダウンテンポでありながらファットなグルーヴを失わないロックステディーのビートと、子音のアタッキーさより母音の伸びやかさが強調される今野の歌とは、抜群のフィットぶり。その今野の歌世界こそROCKING TIMEの重要なキモのひとつ(もうひとつはいうまでもなく演奏)で、〈~だよ〉など語りかけを軸としたシンプルな詞が、アーティスト・エゴとは無縁に、少年の蒼さやマンダムなダンディズムともまた違う男の色気をはらんだ音色で歌われている。

「あんまりパーソナルな内容の歌をROCKING TIMEで出す気持ちにならないんですよ。たとえばジョン・レノンだったら〈ジョンの魂〉とか……そういうのも自分のなかにないことはないんですけどROCKING TIMEは〈詠み人知らず〉みたいな、そういうものであるといいなあって、なんとなく思ってるんです。小説、詩、絵、映画、もちろん音楽──なんでもいいんですけど、〈親しい人に宛てた手紙〉みたいなものが好きなんですよね。坂本九さんの歌なんかもオレはそういう感じがします」。

 かようにROCKING TIMEが演奏するのは、マッチョネスとは無縁の、純粋にすべての人に聴かれるのを待っているような人なつっこいチャーミングな音楽。

「敷居は高くない、むしろペッタンコっていうか(笑)。僕が勝手に思ってる裏テーマっていうのがあって、田舎のカリプソ・バンド、もしくは、場末のダンスホールでお客さんもいないのに自分らだけノリノリでやってるトンマなヤツらっていう(笑)。そういう感じが好きなんですよ」。

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掲載: 2002年09月05日 11:00

更新: 2003年02月13日 12:13

ソース: 『bounce』 235号(2002/8/25)

文/フミ・ヤマウチ