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インタビュー

TSUTCHIE

多岐にわたる活動で、トラックメイカー/プロデューサーとしての評価を高めてきたTSUTCHIE。築き上げてきたボーダレスな人脈とともに、初めてのソロ・アルバム『THANKS FOR LISTENING』を、ついに完成させた!


あれがいつのことだったか定かではないが、クラブや飲みの場で話題になっていた噂――あのSHAKKAZOMBIEのトラックメイカー、TSUTCHIEが生音でソロを制作中であり、その出来が非常にヤバいらしい――を筆者は鮮明に覚えている。ヤバいとはいささか乱暴な物言いではあるが、そのアルバム『THANKS FOR LISTENING』は確かにヤバい……鳥肌が立つほどにヤバい作品であり、そのヤバさにクインシー・ジョーンズが自身の75年作アルバムに与えたタイトル〈Mellow Madness〉という言葉が思わずフラッシュバックする。

「ホントは3年前に、トータルで半年くらいスタジオに入ってたんだけど、SHAKKAZOMBIEのアルバム制作で一端休止して。そのときのトラックは作業再開してみると、旬というか、フレッシュネスがなくなってたから、そのほとんどを捨てて……。生音? そのときはまったく考えてなかったんだけど、2000年に出たディアンジェロの『Voodoo』が俺のなかでは今でも名盤っていうか、あの音を越えるアルバムは出てないと思うんだけど、それをやりたかったんだよね」。

トラックメイカーとしての自負が存分に発揮されたジューシーかつエレガントな生音トラックは、それをやましい目的に用いるのがためらわれるほどに鋭い光を放っているが、その揺るぎない土台を支えるのがHi-STANDARDのドラマー、恒岡章なのだからそれもそのはず。

「今回のメンバーは基本的に狭い半径の中から参加してもらってるんだけど、もともと学校がいっしょだったコークヘッド・ヒップスターズとよく遊んでて、その対バンがハイスタだったってところからツネ(恒岡)との付き合いは始まってる。ヤツはマイルス(・デイヴィス)やイエスタデイズ・ニュー・クィンテットがすごい好きだし、俺がドラムのネタを聴かせてあげたりもしたんだけど、今回はルーツとかQ・ティップの音を聴いてもらって、ドラムをどういうふうに叩いて、どう作ってるのか考えてもらったりして、結局、ドラムの音決めだけでも1曲で2時間とか平気でかかってた」。

本作の表層に荒々しさは微塵もないが、TSUTCHIE自身も数曲でベースとドラムスを務めるほど、エンジニアのイリシットツボイと突き詰めたリズムには鬼気迫るものがある。そして、制作期間中は誰よりもよく顔を会わせていたという高野勲が弾く、滴るようなフェンダー・ローズ・ピアノをはじめ、石井マサユキ(TICA)や木暮晋也(ヒックスヴィル)といったギタリストらによる技の数々がふんだんに散りばめられ、それらウワモノのアレンジも実に抜け目ない。

「石井さんとは5月にキタキ(マユ)のサポートで知り合ったし、木暮さんもいっしょに仕事させてもらったのはキタキのライヴから。あと、今回使ったスタジオは高野くんの紹介だったんだけど、そのスタジオは音へのこだわりがハンパなくて……もうね、今回に関してはミラクルと言うしかない(笑)」。

さらに参加ヴォーカリスト/ラッパーに至ってはキラー・ファルセットを披露している曽我部恵一をはじめ、本作ゲストの橋渡しを行ったキタキマユや渡辺俊美(TOKYO No.1 SOULSET)、DABOやスチャダラパー+ロボ宙、ECDら、彼だからこそ成立するコラボレーションがここでは贅の限りを尽くして繰り広げられている。

「このアルバムはね、同じ世代の人に共感して欲しいし、これを聴いた年下の子たちが〈あっ、なんかいいことやってるな〉って思えるものでありたいっていうところで作ってたんだけど、参加してる人もほとんどが30代だし、俺も30代だからやっと出来た作品なんだよね」。

この日、NYでのマスタリング作業から戻ってきたばかりの彼は、3年越しの傑作ソロをそう締め括ったが、ヒップホップとともに大人になった彼の発言、その説得力には(作品を耳にしたときと同様)言葉が出ない。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年01月09日 12:00

更新: 2003年01月22日 13:24

ソース: 『bounce』 239号(2002/12/25)

文/小野田 雄