小泉今日子
いまだからできる音楽、いまだから歌える歌を携えて、KYON2が帰ってきた。アルバム『厚木I.C.』は、シンガー・小泉今日子の明るい未来を予感させる!
アルバム『厚木I.C.』を小脇に抱えて〈歌うKYON2〉が帰ってまいりました。おかえりなさい! オリジナル・フル・アルバムとしては96年の『otokonoko onnanoko』以来ってことになります。
「歌うことが好きなんだなあって、あらためて思いました」とKYON2が語るこのアルバム、絶妙なアーティストから寄せられた全10曲が、KYON2のラヴリー&リラクシンな歌唱によってほのかな温度を次々と与えられていく様はカンペキ、聴きたかったKYON2そのもの。しかしながら、このアルバムに至るまで、KYON2自身には逡巡があった模様。
「音楽は好きなんだけど、楽しめなくなったのはなんでだろう?って時期があったんだけど、私のデビュー20周年ってことで、スタッフの人たちが〈せっかくだから記念に残るようなことしましょうよ〉って言ってくれて。じゃあベスト盤とかなんですかねえ、って言ってたんだけど、その時期に宮沢和史さんとお仕事してて――」。
2001年秋のTVドラマ「恋を何年休んでますか」は、KYON2主演もさることながら、ポップ聴きとしてはTHE BOOMの宮沢との共演!!というエポックなものでありました。そんな彼からの一言がこのアルバムの第一歩だったそうで。
「いまだから歌える歌、できることがあるから、それをやったほうがカッコイイですよ――言われて、たしかにそうだなって。ドラマが終わってから、スタッフのみんなと宮沢さんのライヴを観に行ったときにね、ちょっと〈……クヤシイ!!〉って思ったの。〈あ、アタシ、クヤシイとか思っちゃってる〉と思うと嬉しくなっちゃって(笑)。それでやる気が出た(ニッコリ)」。
わかります(笑)。〈歌うKYON2〉とは単なる〈歌手・小泉今日子〉を指し示す語彙ではなく、有機的なコラボレーションも含めての言葉であって。東京スカパラダイスオーケストラ、スチャダラパー、フリッパーズ・ギター、藤原ヒロシ……かつてティーンエイジャーがKYON2に教えてもらった人・こと・モノは存外に多かったのです。21世紀を跨ぐ過程における、そういう象徴的な意味でのKYON2の不在には、そこはかとない寂寞感があって。
「私も閉じてましたしね。どういうふうにおばちゃんになっていこう?っていう自分のことで精一杯で(笑)。けど、やっぱりそのクヤシイ気持ちが発見できたことで、自分が開いていったの」。
そんな開いたKYON2が生み出した『厚木I.C.』は、結果、これからのKYON2に光を照らすものになってはおりますまいか。つまり、これから歳をとっていくKYON2も素敵だなあ、と聴き手に想わせるような。
「自分はすごい楽しみ、〈お婆ちゃんになったときが勝負だ!〉って。かっこいいお婆ちゃんになりたくて、そのために日々があると思ってるの。それこそ〈あ、白髪発見!〉とかもちょっと楽しい感じ(笑)。ただ、私のことを興味があって見てくれてた人のなかには、17歳の私、20歳の私……みたいな残像が残っちゃうだろうから、老けていったりすることがちょっとショックかもしれないな、とは思うんだけど(笑)」。
僕は、KYON2の登場からリアルタイムで眺めてきた世代ですので、得も言われぬ感慨があるのですが、彼女のデビュー時にはこの世に生を受けてなかったティーンエイジャー、とくにこの「bounce」を手にとるほどポップ・ミュージックを広く聴いていこうという覚悟を決めたアナタにこそ、このアルバムは〈歌うKYON2〉との格好の出会いだと思います。
「大人だからできること、いまの私だから歌える歌を歌いたいっていうぐらいで。それぞれのアーティストの方も偶然、ソロ活動とか新しいことを始めたりしてて、説明しなくてもその気分っていうのがわかってくれる時期だったんじゃないかな。だからみんな、自分の想いを暑苦しく向けてくるんじゃなくて、アルバムの全体像、私の未来、もっと大きく言えば日本のポップス=歌謡曲の未来……そういう広い目で見てる感じで。みんな男のヴォーカリストだから、女だったらこんな歌を歌いたいっていう希望を託された感もあったりして、そういう気持ちが伝わってくるから、余計、大事に歌いたかったの(ニッコリ)」。
大人になったKYON2の音楽――ここでいう〈大人〉は、聴き手が未来へ地続きに共有できる存在感であることが重要。だもんで、居丈高な振る舞いとは無縁に、ボッサやファド、メロウなグルーヴにのって軽やかに弾むKYON2の歌声が心地良く日常生活に寄り添ってくれるのです。そんなさり気なくも愛おしいそのときどきの音楽を、これからもKYON2は送り届けてくれるのです、きっと。もう一度言います。おかえりなさい!
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2003年05月01日 11:00
更新: 2003年05月01日 18:49
ソース: 『bounce』 242号(2003/4/25)
文/フミ・ヤマウチ