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インタビュー

スガシカオ

大ヒットとなった前作『Sugarless』に続くアルバム制作に向けて、スガ シカオがとったアクションは……。あくまでも前向きな原点回帰を図った新作『SMILE』が到着!


「〈山〉で行なった作業量は実際そんなに多くない。でも、スタジオに籠ってばっかりで、あんまり(トピックとして採り上げる)ネタがないから、みんな〈山〉にすごい食らいついてくるんだけどさ」と笑うスガさん。とはいえ、ドラマティックな物語を想像しちゃうじゃないですか、〈山籠り〉だなんて。スガ シカオが新作制作に向けて山梨の奥地に籠り、音楽と向き合っている、との情報が滑り込んできたのは去年の秋。その話にただならぬ胸騒ぎを覚えたのは俺一人じゃなかろう。

「あまりにも毎日同じで、何してたか憶えてない(笑)。朝起きてシャワー浴びると、もう一日何もすることがない。とりあえず鍵盤とギターでジャカジャカやって、夜はすぐ寝る、みたいな生活をほぼ毎日──22日間繰り返した。電気と水道はあるけど、半径2、3キロに人はいない、みたいな。かなり孤独な感じでしたよ」。

 やはり訊かねばならない、そんな場所を求めた動機を。 

「一人になって集中したかったって理由があるけど、ただの原点回帰じゃなく、〈ミュージシャンの立ち位置として〉の原点回帰を求めちゃったところはあると思う。デビューする前はそうやって作ってたから」。
             
 一巡したな──この通算6枚目のアルバム『SMILE』からは、まずそんな印象が与えられる。スガ・ポップスのスタンダード的資質を凝縮させた形の前作『Sugarless』の次にこれ、って繋がりが原因なのかもしれないけれど、とにかく迷いのない、一点の曇りもない、スガスガしいまでのスガ節炸裂ぶりは、例えば2000年の『4Flusher』などと比べると、圧倒的だという感を抱く。

「ちょっと前までは、エレクトロニカみたいなのとか、ふらふらそっちのほうに行きがちだった。やっぱりかっこいいしさ(笑)。でも、山に行って、本当にそれでいいのかなあ?って思い始めて。結局辿り着いた答えは、ジャンルを吸収するんじゃなく、自分のジャンルを作ろう、と。いまの周りの音楽よりも絶対自分の音楽のほうが強い!って確信が自分のなかに生まれたんだよね。俺が生ギターをガーッてやれば、誰にもできないタイミングで弾ける自信がどっかにあった。一切の雑念を払って、俺個人のジャンルを徹底的に突き詰めたのが、このアルバムなの」。

 かつてのダウナーな季節は過ぎ去り、〈餅屋は餅屋〉的精神の芽生えとともに新しい夜明けの到来、そんな感じがある。ファンク・ナンバーにおける餅状の粘着性、歌詞のヤバい尖り方を武器に、〈これでも食らえ!〉って風情で出現したデビュー時を彷佛とさせたりして。

「食らえ!って(笑)、そんなつもりじゃなかったけど、完成品を聴いてやっぱりそう聴こえたな。ぶっちゃけね、ぱっと聴き(以前の作品と)似たようなもんになっちゃうけど、同じでいいんだよね。俺はこういくんだ!って勢いがアルバムのなかに反映されていればいいんだと思う」。

 それにしても、彼は不思議な立ち位置をキープし続けているなと思わずにいられない。攻撃性を失うことなく、ポップスのフォーマットにこだわる姿勢。J-Popシーンに食い込みながらも、その世界と安易に戯れようとしない。「サブカル意識は強くもっているけど、サブカルの内部世界で完結する感じはすごく嫌い」と語る彼が起こすさまざまなアクションは、すでに世間で十分認知されているが、同時に孤高の存在なるイメージも与えられて。まず、スガ シカオの音楽、そのムードとはなんなのか? 誰も掴めないからフォロワーが現れない。つまり、後継者を生まない音楽なのではないかと。

「拒否してるわけではないですからね、言っときますけど。ものすごくウェルカムなんですよ俺(笑)。例えば、山崎(まさよし)のフォロワーっていっぱい見るけど、俺のはぜんぜんいないんだよね(笑)。フォロワーまでいかないまでも、シーンができないんだよ。このあいだ、スーパーバタードッグのメンバーともその話をしたんですよ。〈シーン作ろうよー、頼むよー〉みたいな(笑)」。

 いやしかし、それは宿命でしょうからね。今回の『SMILE』にもまた、魅惑的な孤高の光が密やかに瞬いている。それにしても、この躊躇のない身振りはホント……。

「ヤバいですよね。少しは躊躇しろよ、みたいな(笑)」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年05月15日 13:00

更新: 2003年05月29日 17:38

ソース: 『bounce』 242号(2003/4/25)

文/桑原 シロー