SAIGENJI
ブラジリアン・ミュージックの旨味を知り尽くしたウワサのギタリスト&ヴォイス・パフォーマー、saigenji。新作『la puerta』がこれまた極上の味わいだ!
ほいきた、saigenji。疾風怒濤のセカンド・アルバム『la puerta』がここに完成。ファースト・アルバム『saigenji』のリリースから一年弱、ポップス・シーンに立てられた、鬚にトサカの〈saigenji印〉の旗の数はいったいどれほどになるのか? コンピやトリビュート・アルバム、客演にプロジェクトへの参加などなどが立て続けにあり、現在もなお相変わらずのひっぱりだこ状態が継続中。ブラジルなど中南米音楽のエッセンスを有した彼の音楽スタイルは広く認知され、いまやブランド化しつつある。けれど、彼はそもそもJ-Pop界の異端児としてわれわれの前に現れたはず。そんな男がシーンの海をスイスイと泳いでいくさまは実に愉快ツーカイ。
「ポップスのことはね、全然わかんないっす」と彼は喋り出した。
「ホント俺の音楽趣味は狭かったからな。(ローリング・ストーンズのトリビュート・アルバム『IT'S ONLY FOR ROCK'N'ROLL(BUT WE LIKE IT)』で超メジャーな“Satisfaction”をカヴァーしたが)これしか知らなかったんじゃなく、そういう曲があるっていうことを知ってる、ってことで選んだぐらいで。ガハハ!! だからね、ポップスを聴いてこなかった人間がなんとかポップスを始めてみようとしてできたのが今の俺の音楽なんだよ」。
綱渡り主義者、saigenji。手本も持たずにポップス・マナーについてあれやこれや考えを巡らせながら、アクロバティックにメジャーの線上を渡ってきた彼の最新報告が『la puerta』だ。しかしこのアルバムには実に熟れた、香り高きポップスが詰まっている。ただ単にキャッチ-なだけではない。歌から放散されるメロウな味わい、それには著しい進歩を見つけずにはいられない。
「歌とギターを丁寧に録ったら自然とそういう味が生まれたんだよね。聴いてくれたみんなが〈わかりやすい〉って言うんだけど、たぶんさ、ライヴでの人気曲を集めたせいだね。でも実は前作よりもずっと複雑なことをやってるんだよ、コード展開とか、ギターの弾き方とか。あと歌詞で変に韻を踏んだりしなくなったのもキャッチ-になった理由のひとつか(笑)」。
ファ-スト・アルバム『saigenji』にくっきりと見えた、つんのめっていくような姿勢はここにはない。代わりになにかを確信したことによる強さが表われているのだ。「最近日本語で歌うことが恥ずかしくなくなったよ」と彼は話す。
「もともとは意図的に日本語の歌を始めたんだよ。でもこれでいいんだろうか?って気持ちもあって、恥ずかしさが拭えなかった。でも、あるとき〈自分の音楽はあらゆる音楽のなかのひとつなんだ〉と思えてきて、すごく気が楽になった。〈コラソン〉と表現するのも、〈心〉と言ってしまうのもいっしょだというふうに繋がってきたんだよ、4年かかってようやく。だから逆にカヴァーも楽にできるようになって」。
それは、月何十本もライヴをこなす日々のなかから掴み取った確信であるはず。あと、つんのめり姿勢についても「あの頃は何クソ!っていうのが原動力だったけど、〈俺が俺が!!〉っていうのはファーストで吐き出したからな。今はないね」と言う。とにかく毎日がステージという慌ただしい生活を送る彼だ。緊張感の維持のさせ方などにコツがあるのだろうか?
「以前はライヴ空間が非日常だったけど、今は逆転してるでしょ? だから緊張は日常の中にずっとあるの。いつもライヴ前になるとライヴハウスの周りをウロウロ散歩して緊張を高めるようにしてるし。だから緊張が苦にならなくなってる。なんていうか、〈コレが自分の日常だ〉って。……そうそう昨日さ、風邪で熱出ちゃって大変だったんだけど、ギターを持って弾きはじめるとすごい元気が出ちゃって。で、休むとまたバタッて倒れちゃう。だから思うんだけど、音楽をやるためだけに生きてるんだろうなぁ、俺は」。
シンガーとしても、プレイヤーとしても、またコンポーザーとしてもさらなる自信を深めているsaigenji。それがはっきりと確認できる『la puerta』は実に強力な一枚だ。この勢いじゃ、またあちらこちらにトサカのシルエットが並ぶことになるんだろうな、きっと。
▼saigenjiがこれまでに参加してきた作品の一部を紹介
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