インタビュー

ヘア

そのキャリアを総括した、〈インターナショナル・モッド・アンセム〉なニュー・アルバム!

 かつての東京モッド・シーンの重鎮として、またドメスティックなレア・グルーヴを探求するいわゆる〈和モノ〉ブームの先駆けとしても知られるヘア=あいさとうが、レディメイドから新作をリリースすることに驚きを覚える方は少なくないだろう。80年代後半からの長いキャリアの末、バンドから不定形のユニットへと形を変え、さらに小西康陽の熱いラヴコールにより実現したアルバム『いま、創られつつあるレコード、あるいは「ローマを見てから、死ね。」』は、彼らしい心地良い裏切りに満ちている。

「いままでやってきたものの総括になればいいなと……自分自身のリミックスみたいな感じはありましたね。今回は〈昭和40年代〉といったような特定の世界観が何もなかった。いわゆるムーヴメントということをまったく考えていなかったのが、いちばん大きな違いです」。

 昨年末のレディメイド・フェスティヴァルで新しいヘアはその姿を現したが、そこでも披露されたファンキーな3ピースのジャズ・ロック的編成に加え、アルバムでは打ち込みのプロダクションを大胆に導入している。その新たな音像への興味の高まりと開拓が、〈レディメイド〉からリリースすることになった理由のひとつであるという。

「やっぱり自分にとっていちばん魅力的な打ち込みの音を作っているレーベルで、とくに、去年小西さんが作られた作品はすごく勉強になりましたね。それまでは60~70年代の質感の再現的なものをめざしていたから、ある種のカルチャー・ショックというか。古くもあり新しくもあるサウンドを小西さんは見事に作られていて、そこは刺激になったんです」。

 打ち込みと生の音、歌ものとインストという区切りの融和したプロダクションの変化は同時に、彼らがなぜ〈和モノ〉や〈昭和40年代〉の質感に魅了されていたのかを証明してもいる。

「歌を共有してほしいという気持ちがあるんです。もともとヘアの曲は複合的にいくつもの意味や異なる出来事が1曲に入っていたりするんですけれど、そこで当時の歌謡曲のように、みんなが受け入れられるような要素を含ませるというか。そうすれば、タイトルと曲のインプレッションだけでも、聴く人それぞれが自分なりの景色を投影できるんじゃないかと」。

 彼が昨年、夏木マリに提供した名曲“ローマを見てから、死ね。”の横山剣によるヴァージョン、野本かりあが歌う“私の子猫は悪戯だけど秘密は守る。”などに混じり、“インターナショナル・モッド・アンセム”なるタイトルもあり、今作は先駆者たるヘアが〈モッドとはなにか?〉ということを作品に改めて投影/表明した作品であると言えるかもしれない。

「そうですね。それはさっきの〈自己リミックス〉みたいなことから始まるんだけど、やっぱりモッズという〈スタイル〉に夢中になっていた時期があって。でも、なぜそこを離れたかというと、結局退屈してしまうから。先駆的なやつらはサイケデリックな方向にいち早く進んでいったりと、オリジナル・モッドには変化していく側面もあったんですよね。なにかかっこいいことはないかと、新しいアイデアに向かっていく気持ちが大事だし、それがモッドのいちばん素晴らしいところじゃないかなって。そういう意味で、ヘアはいままでいろんなものを提示してきたんですけど、それも〈モッド〉という概念でやってきたとしか言いようがない。改めてそれを頭のなかでしっかり刻んでおきたかったんです」。

 かつてノーマン・メイラーが〈ヒップスター〉という言葉で時代の順応主義者へ反逆する人物を形容したように、ここにはなにかに追従したり多数に入っていくのを嫌い、変化を恐れずに自分で楽しいことを見つけていくヘアのヒップな姿勢が貫かれている。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年09月18日 17:00

ソース: 『bounce』 246号(2003/8/25)

文/駒井 憲嗣