Seal
5年というブランクを楽曲の価値へと転化させ、さらなる高みへ到達したシールが放つ黒い魂の歌
マイペースな人だ。急いでない、ガツガツしてない、ヤマっ気がない。だからなのか、この人の動向が日本で話題になることはめったになく、欧米じゃ毎回ミリオン・ヒットを放ち続けるビッグ・ネームでありながら、地味めな印象を持たれている感もややある。リリースのペースも、1作目から2作目までが約3年、2作目から3作目までが約4年、3作目から今回の新作までが5年と、またゆっくりしたものだ。
「ハハハ。意識的にそうしてるわけじゃないんだけどね。でも、価値のある深い曲を書こうとすると、それなりの時間がかかるんだよ」。
移り変わりの激しいポップ・シーンで、何を悠長なことを……と思ってしまうこっちのほうが貧乏性なんであって、当のシールは、慌ててもしょうがないといったふうだ。
「移り変わりの激しいポップ・シーンとかなんとか言うけど、究極的には曲の良さがすべてだと僕は思うんだよね。人々の心と記憶に残るのは、曲。で、必要なのはそれを歌う能力。いたってシンプルなことだ」。
揺らぐことなどまったくない。俺道、まっすぐ。
「人生は旅だよ。それを僕は音符と詩にするんだ」。
しかしそんなシールも、いまから1年半前には、みずからちょっとした変化を求めた。デビュー以来ずっと住んでいたLAを離れ、生まれ育ったロンドンに居を移したのだ。
「しばらくの間、自分が誰なのか見失っている感じがしていたんだ。そんな状態を変えるために何かしなければと思ってね。それでイギリスに戻ったのさ。自分にとって最高の判断だったと思うよ。生まれ育った環境に戻ることで、ファースト・アルバムを制作した時のような感覚を取り戻すことができたんだからね」。
ファースト・アルバムの時のような感覚とは、恐らくコンセプトに囚われないアクティヴな曲作りのことだろう。シールといえば、人並み以上にコンセプト、またはアルバムの統一感にこだわりを見せてきたアーティストという感がある。とりわけ5年前の『Human Being』はそのあたりが顕著で、傷みや苦悩を伝えてくる歌詞と共に、メロディとサウンドもダークなトーンで貫かれていた。
「あのアルバムの制作は、非常に難しいものだった。いまでは誇りに思えるけど、当時はよからぬ恋愛関係に陥り、ストレスフルな状態だったんだ。それに比べて今回は、総じていままででいちばん楽しいレコーディングだったと言える。曲も、引っ越してからの1年半の間だけで、75曲書いたからね」。
75曲! そこからの選りすぐりがこのアルバム『Seal 4』の収録曲なのだから、そりゃもう素晴らしくないわけがない。“Let Me Roll”とか“Get It Together”とか、曲タイトルだけでもいまのシールが相当アクティヴなモードにあることをわかっていただけると思うが、実際、それらのファンキーだったり王道ソウル的だったりする音と声の力強さを前にすると、〈どーだ! これがシールだ!〉と快哉を叫ばずにはいられなくなる。
「このアルバムを聴くと、エキサイティングな気分になるんだ」。
いや、本当に。だから、このアルバム携えて、ツアーとかバリバリやっちゃってくださいね。地味めな印象、覆しちゃってくださいね。
▼シールのアルバムおよび参加作品。
91年作『Seal』(ZTT/Wea)
- 次の記事: シール・サウンドの鍵を握る男、トレヴァー・ホーン