mama!milk
コントラバスとアコーディオンの音色が今日もバーの片隅から聞こえてくる。楽しくて、ちょっぴり哀しくて、トビっきり自由な音楽……mama!milkの新作が登場!
愛すべき酔いどれたちが愛する音楽に心底酔っぱらえる場所、それはときに俗でいかがわしいものだけれど、だからこそフラフラと心惹かれ彷徨い歩いたりするわけで。そんな千鳥足のステップのBGMを刻むのが、mama!milkの音楽。アコーディオンとコントラバスによって綴られる隙間だらけの旋律、だからこそどこまでも身軽に、そして誰とでも気軽に繋がり合える自由を持っている。この1年の時間の中で、NOISE ON TRASHの山崎円城との瞳孔が開くような『meets#1 madoki yamsaki』、そして今を生きる大道芸人風情が楽しいジーナ+クリスとの『meets#2 gina+chris』と、立て続けにコラボレート・アルバムをリリースしてきた彼ら。これほど気ままなスタンスで音と戯れられる音楽家もなかなかいない。
でも、ね。偉そうなことをひとつだけ。mama!milkのオリジナル盤としては3枚目となる『Gala de Caras』は、これまでのどの作品とも趣を異にするもの。それは、トウヤマタケオのマリンバや波多野敦子のチェロという表面的なことじゃなくって、もっと根の部分での話。ガジェットな妖しさではなく、音と正面から対峙する真摯な表情が、音の端々から見え隠れしている。
「いつだって、本気ですよ(笑)。でも確かに、ライヴやアルバムを重ねながら、自分のなかで変わっていくものを感じています。実は、このアルバムの原型は2年前には完成してたんですよ。まず、色や匂いがくっきりと見えていたので、その色に沿って、少しずつ曲を作っていきました。イメージのなかでは、ずっとチェロが響いていたので、1年前に弦楽器奏者の波多野さんと出会えたのが大きかったですね。これでやっと録音が始められると思いました」(生駒祐子、アコーディオン)。
「音がブツかりやすい楽器に関しては、リハーサルで何度も繰り返しやりました。コントラバス、チェロ、アコーディオンの左パートの組み立ては、かなりギリギリのところで成立してるんで。僕も慣れないながらも、チェロ・パートの譜面を書きましたよ。くちゃくちゃで笑われたけど」(清水恒輔、コントラバス)。
これまでの作品で、〈ヨーロッパ指向〉的な形容を受けることもあったという彼らだが、実は少し前までヨーロッパには旅したこともなかったという。例えば、劇画家さいとうたかをは「ゴルゴ13」の単行本を数十巻重ねるまで、事実考証を元にするのではなくすべて妄想だけで描いていたそうだけれど、ときに想像力は事実を凌駕してその本質に辿りつくこともあるのだ。ただ、この春に少しだけヨーロッパを回り、いくつかのライヴを行った彼らの目には、リアルなヨーロッパはどのように映ったのだろうか?
「主にベルリンでライヴをしたのですが、日本国内でのいろんな街でのライヴや、日々の時間が音楽に必ず反映されるのと同じように、なんらかの形でこの作品に反映されてると思います。ライヴとレコーディングはまったく別物です。音楽へのアプローチが違いますね。いつも、その瞬間の全部の空気を全身で受けて、いろんなことを感じながら演奏してます」(生駒)。
「予備知識もなく、言葉が通じなくても、良い空間を作れれば音楽でコミュニケートできることを実感しました。ただ〈ヨーロッパ指向〉的な言われ方は日本のなかだけのことで、僕たちはすごく日本的だとも思っています」(清水)。
絶頂期のピアソラよろしく、スピーカーの前で昂揚せざるを得ないアレンジの妙もあれば、2人の笑い顔が見える小品に心をくすぐらされたりと、さまざまな表情が収められた逸品。「なんの説明もいらない、自分たちのスタンダード・アルバムが作りたかった」と清水が語るとおり、その真っ直ぐな姿勢がはっきりと音に現れているのがなによりも素晴らしい!
「今回、本気は本気ですよ。ほとんど呑まずに録音しましたから」(清水)。
いや、ほとんど呑まないというのは、少しは呑んでるってことなんだけどね(笑)。
▼mama!milkの作品を紹介。
99年作『abundant abandon』(NRP)
▼mama!mailkの〈meets〉シリーズを紹介。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2003年10月30日 12:00
更新: 2003年10月30日 14:20
ソース: 『bounce』 248号(2003/10/25)
文/小田 晶房