男性ジャズ・ヴォーカルの偉人たち──その艶やかな歌声にも耳を傾けてみましょう
アメリカのメイル・ジャズ・ヴォーカリストについて書こうとしたとき、まず思い浮かぶのはキング・オブ・クルーナー(囁くように歌うシンガー)、ビング・クロスビーだ。20世紀最大のポピュラー・シンガーであり、偉大なエンターテイナーである。かつてジャズが世界中に夢と希望を与えていた時代の彼は〈イキでオシャレでほがらか〉な歌声を駆使し、輝けるアメリカを体現していた。つまり世界中の男子が憧れの眼差しで彼を見つめていたのである。ソフトで洗練されたスタイル、それがジャズ・ヴォーカリストの必須条件。そこにホットな感覚を加えた男が登場する。フランク・シナトラである。ビングへの憧れを抱きつつも自分のスタイルを模索し、ポピュラー界の大スターの地位を獲得するに至った彼は、ビートルズやボサノヴァまでも貪欲に自分のテリトリーに取り込んでみせた。そんなシナトラに〈金を払ってでも聴きたい歌手が世界にひとりだけいる〉と言わしめた男、トニー・ベネット。彼はシナトラの影響をモロに受けながらも正統派ジャズ道を邁進。先頃発表されたKDラングとの共演作『Wonderful World』もクルーナーとしての美学を見せつけた一枚だった。ピアノに向かって歌うシンガー、ということではモーズ・アリソン。小粋な彼の歌声はミュージシャンのなかにもファンが多く、ヴァン・モリソンらとの共演で再度注目を浴びた。そして忘れちゃならない巨人、ナット・キング・コール。美空ひばりも愛した彼のスケールの大きな歌こそ、ジャズ・ヴォーカルが何たるかを示す最高のサンプルだ。
▼文中に登場したアーティストの作品を紹介。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2004年02月05日 14:00
更新: 2004年02月05日 19:02
ソース: 『bounce』 250号(2003/12/25)
文/桑原 シロー