インタビュー

Air (France)

トリコロールの貴公子から、エロティックな座禅ボーイズへ……エールが開いた新境地とは!?



 知的好奇心がムズムズしてくるような空間的な音は、デビュー以来ずっとエールの真骨頂。新作『Talkie Walkie』ではその面がさらに洗練され、柔らかな美を放っている。何せ、新作についてJBいわく「これは〈禅〉」。聴いていない人にはまさに禅問答のように何のこっちゃなお答えだが、たとえば映画「Lost In Translation」のサントラで彼らが鳴らしていたのは波の音だったことを思い出してみてほしい。京都中心部に海がないのをこのフレンチ・ボーイズは知っていて、それでもあえて鳴らした波の音。それはまるで、早朝の竹林に吹く風の音にも似た静寂と凛とした強さを醸し出していた。で、この新作は、まさにそういう世界観の発展形。想像力を駆使すればするほど、抑えに抑えたミニマルなビートと、クラシックにも造詣の深い彼らならではの生音との交錯する音作りが、まるで知らない世界を旅するような快感を届けてくれる。

「僕たちのダークで変わった部分を前作の『City Reading』に詰め込んだことで、今作には親しみやすいトーンだけを持ち込むことができたと思うな」(JB:以下同)。

 そう話すように、ゲストは基本的に参加せず、ニコラとJBの2人で録音した本作は、これまでの彼らの作品にはなかったほどに穏やか。ヴォーカル・ラインもすべてJB自身が歌っているのは、外の世界を夢みて作ってきた過去の作品とは違い、今作はあくまで内側の「自分たちらしさ」に焦点を当てたから。

「僕たちは作品を通して〈自由〉を表現したいと思っているんだ。インスピレーションに導かれるまま、あらゆる感情を解放するというか。ガイド役はピュアなハーモニーさ。美しさに辿り着くまで、音楽の旅は続いてゆくんだよ」。

 大人の男の抑えたエロを描いた歌詞のロマンティックさも含め、このアルバムには〈個性〉という名の勲章が燦然と輝いている。

▼エール関連の近作。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年02月26日 13:00

更新: 2004年02月26日 19:30

ソース: 『bounce』 251号(2004/2/25)

文/妹沢 奈美