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インタビュー

Zero 7

この美しさはどこから落ちてきた? シンプルで深淵なサウンド・アプローチとメランコリックなヴォーカルで紡ぐ『When It Falls』──ゼロ7が帰ってきた!!


 必ずしも音楽は〈わかる〉ことが重要だとは思わないのだけれど。最新作『When It Falls』は、ゼロ7というユニットの目線はどこにあって、その本質は何なのかをようやくあきらかにしてくれる作品になっている。あー、すっきり。つまりゼロ7はロンドン出身のプロデューサー・ユニットという立場で、70年代アメリカを象徴するソウル・ミュージックをいかに未来的に発展させてゆくかを、歌モノのダウンテンポという形で展開している、といえそうだ。少なくともこの新作からは、ソウルの未来が響いてくる。英米で大ヒットし、ジャスティン・ティンバーレイクからネプチューンズまでを虜にした2001年のデビュー作『Simple Things』は、しかしいま思えばこの新作への偉大な助走だったのかもしれない。

「(今作に)ライヴの経験が大きな影響を与えたことは確かだね。そもそも俺たちはスタジオで作業するプロデューサーだから、ライヴ自体考えてもいなかったし。だからステージに立つのは素晴らしい経験だったね。俺たちのステージを、ソウル・レヴューみたいって表現した人もいるよ」(ヘンリー・ビンズ:以下同)。

 そもそも、ヨーロッパのプロデューサー・ユニットの多くがテクノかハウスのどちらかに簡単にルーツを系統付けられるのに比べて、ゼロ7の成り立ちは、より複雑。たとえばデビュー当時にはアシッド・ジャズの仕掛け人でもあり、トーキン・ラウド設立者でもあるジャイルズ・ピーターソンが「メインストリームとアンダーグラウンドの双方から同時に評価される数少ない音」という言葉で賞賛。一方で、もともと彼らが世に出たきっかけはレディオヘッドのリミックスであり、いまやロック界のゴッド・プロデューサーであるナイジェル・ゴッドリッチは、いっしょにスタジオを作った仲。そもそも若き日に夢中になった音も、ヘンリーはソウルやジャズ、サム・ハーダガーはヒップホップだった。いわばジャンルを縦横無尽に横断している彼らだが、今作からは揃って「子供の頃から親しんでいた」というソウルへの愛情が滲み出ている。一切エフェクトをかけないゲスト・シンガーたちの歌声も、心に強く訴えかけてくるものだ。

「ヴォーカルはシンプルなのがいいと思うんだ。最近とみに氾濫しているデジタル・リヴァーブがあまり好きじゃないし」。

 声だけでなく、生音を重ねる音作りも、彼らならではのメランコリックな浮遊感が漂うメロディー・ラインも、どこか懐かしく温かい。いわゆるオーガニック・ソウルやニュー・クラシック・ソウルとは少々違う印象が残るのは、どこかフォーク風の味付けも成されているからか。

「ファースト・アルバムは、誰でもそうであるように、俺たちのそれまでの人生のすべてが詰まった作品だった。でもこのアルバムは、時間をかけて作った作品だから、伝記のような作品と言えるかもしれないね。でも事前に〈こうしよう〉なんて考えは特になかった。自分たちが感じたことを音楽にしただけなんだ。前作からガラリと変わった作品を作りたいとも感じなかったね」。

 いっしょにツアーを回ったシンガーやプレイヤーとともにスタジオに入り、彼らにもインスパイアされるなかで紡ぎあげられた新作。歌モノとしての完成度の高さは、このプロデューサー・ユニットがそもそも破格のソングライティング力を持つことを改めて立証している。身体を委ねたくなる、心地良い音世界だ。

▼ゼロ7の作品。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年03月04日 16:00

更新: 2004年03月04日 16:10

ソース: 『bounce』 251号(2004/2/25)

文/妹沢 奈美