Mum
たくさんのアイデアとトラップを独自のクラフトマン・シップで包み上げた、まばゆいばかりのサード・アルバム『Summer Make Good』が登場だ!!
「〈mum〉っていうのは象が向かい合って鼻を絡ませている姿なんだ。ほら、〈m〉が象で〈u〉が鼻(笑)。最初にバンド名を考えたとき、普通の言葉にはしたくなかった。それで落書きしてて、この単語を思いついたんだ。で、カフェの隣に座っていたドイツ人の旅行者になんて発音するかを訊いたら〈ムーム〉だっていうことになって。でも、しばらくしてアメリカでは〈母親〉っていう意味だということを知って驚いたよ」(グンナル・ティネス)。
民家を改造した小さなオフィスで、グンナルはもとになった象のイラストを描いてくれる。窓からはうっすらと西陽。彼の横には共に来日したメンバーのオルヴァル・スマウラソンが笑っている。
ムームは当初ギター・バンドをやっていた彼ら2人と、室内楽を勉強していたギーザとクリスティンのアンナ姉妹の4人によってアイスランドで結成されたエレクトロニカ・ユニット(残念ながらギーザは2年前に脱退)。届けられたばかりの彼らのサード・アルバム『Summer Make Good』は、いつもどおり離れ小島にある灯台でレコーディングされ、さらにそこから離れた無人の測候所でアルバムとしてまとめられた。まるで秘密の実験みたいに。
「普通のスタジオでは音がクリアになり過ぎたり、パーソナルな感覚が失われたりしてしまうんだ。僕たちは汚れた音や未完成な音が好きだからね。それに自然に囲まれた美しい環境でレコーディングするのはとても楽しいよ」(オルヴァル)。
例えば冒頭のナンバー“Hu Hviss - A Ship”を聴いただけでも、彼らの美しくもロウな感触を持ったサウンドに触れることができるだろう。吹きつける風、霧笛のようなサンプリング、そして、麗しきセイレーン=クリスティンの歌声。アルバム全編を通してメロディカ、トランペット、ヴァイオリン、ミュージカル・ソウ……といった多彩な生楽器を使用しつつ、プロトゥールズと同時に、古いアンプやグラモフォンのスピーカーを使ってレコーディングされたそのサウンドは、柔らかなノイズがプチプチと泡立ち、まるで濃霧のようにゆっくりと拡がっていく。
「僕たちは曲にコンセプトを求めたりはしない。リスナーにいろいろ想像してほしいんだ。ストーリーを作るより、音楽のなかですべてが自然に語られるほうがいい」(オルヴァル)。
ビョークやシガー・ロスがそうであるように、ムームの音楽にもアイスランドの自然が醸しだす神話的時間(ドリーム・タイム)が流れていることがわかるだろう。そのドラマティックな盛り上がり、奥行きはこれまでのアルバムのなかではいちばんかもしれない。そして、そのオブスキュアな音像は、彼らが愛するシューゲイザー・バンドからの影響も感じさせつつ(「マイ・ブラディ・ヴァレンタインは僕らのお気に入りのひとつさ!」:オルヴァル)、もうひとつの彼らのルーツ、エイフェックス・ツインの無邪気なフリーキーさも顔を出す。
「ロシアのバラライカの音を録りたくて。でもスタジオではイマイチだったから通りで演奏しながら録音したよ、ノイズといっしょにね。前には他人の家の屋根からぶら下がっているツララを叩いて録音してたらそれが落ちてきて、その音も録ったりした。合唱団の練習室のドアの下にマイクを隠して置いていたら、〈もっと真面目に!〉って
指揮者が合唱団に怒鳴っている声が録れたこともあったね(笑)」(オルヴァル)。
同郷のシガー・ロスや、今回ゲストに迎えられたアダム・ピアース(マイス・パレード)とも親交の深い彼ら。最近ではACOのプロデュースを手掛けるなど数々の交流のなかで綴られた最新の便りには、いつにも増してアイスランドの風や雨や海のヴァイブがいっぱい詰め込まれている。そして、そのレターヘッドにある〈SUMMER〉という言葉が、このアルバムのひとつのストーリーを物語っているかもしれない。
「アイスランドの冬はすごく暗いから、夏といえばとにかく〈光〉を思い出すね。あとは〈自由〉とか。そういえば今日の天気の良さは、アイスランドの夏の最初の日を思い出させるよ」。
手巻きの煙草を吹かしながら、そう語ってくれたグンナル。煙の向こうに緑に萌える北国が笑顔を覗かせた。
▼ムームのアルバムを紹介。