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インタビュー

Reggie Watts


 かのニルヴァーナやパール・ジャムを生み、かつては〈グランジの聖地〉とも呼ばれたシアトル。そこから登場したマクチューブは、70年代のソウルやロックといった古き良き音楽を内包しつつ、バンドで〈ジャム〉ることでそれらを爆発させるという、これまでのシアトルのイメージになかった現在要注目のソウル・バンドである。

「いまのシアトルは多様な音楽があって凄いんだよ。僕はいつもそこで見つけたものに驚かされるしね。自分がシアトルから出てきたことを誇りに思うよ」。

 そう語るのは、初のソロ・アルバム『Simplified』をリリースしたマクチューブのヴォーカリスト、レジー・ワッツだ。

「今回のソロはマクチューブの『Subtle Ways』(99年)の録音が終わった頃からすでに話があったんだ。僕は前々からソロ・プロジェクトには興味があったしね。マクチューブでやってる時は、生の爆発的なエネルギーに押されるようにその波に乗っていく感じだったけれど、ソロのほうはもっと頭を使って軽い感じかな。だから今回は自由にいろんなことを試してみることができたと思ってるよ。僕はそういう自由が好きだな」。

 今回のアルバムはやはりバンドとは別次元のパーソナルなものであったようだ。『Simplified』には、彼最大の魅力である、あのダイナミックでいて、時にはアル・グリーンやマーヴィン・ゲイをも彷彿とさせるファルセットを備えたソウルフルな歌声と、卓越したメロディー・センスはそのままに、マクチューブでは見られなかった斬新なサウンドが随所に散りばめられている。なかでも本作のリード・トラックでもある“Part Of The World”は、シンセの音色やレトロなビート・ボックスを使った80年代風のサウンドが印象的だ。

「あの曲は僕の好きなホール&オーツやリック・スプリングフィールドの要素がミックスされていると思うね。彼らの音楽は聴くとハッピーな気持ちになれるものだよ。僕は彼らのそういったスピリットが大好きだし、ほんと素晴らしいソングライターたちだよね」。

 と、これまでのマクチューブの作品を聴く限りではおよそ見当のつかないアーティストの名前も飛び出てきた。彼の音楽的背景はその懐の深いサウンドが示すようにかなり幅広いというか、〈純粋な音楽ファン〉とでもいうべきなのだろうか。

「僕の最初のレコードはエルヴィス。小さい頃はトップ40のラジオばっかり聴いていたよ。高校の時にニューウェイヴやインダストリアル・ミュージックにハマっていったんだ。なかでもニューウェイヴにはいちばん影響を受けたんじゃないかな」。

 そして現在のお気に入りはというと「ヤー・ヤー・ヤーズは感動的だ。長いことあんな素晴らしい女性ヴォーカルは聴いたことがなかったよ」。なるほど、この感覚は彼自身の音楽的な趣向に垣根がないという証だろう。オールド感覚に溢れ、ソウルフルでファンキーなマクチューブのバンド・サウンドに対し、「自由な発想で心地良い楽しさと慣れ親しんだ雰囲気を出したかった」という本ソロ作からは、まさにそんな〈心地良い音〉が全編から感じ取れる。

 なお、この本が出た頃には、ちょうどあのソウライヴと共に来日を果たしている予定のレジー。現在マクチューブの所属するヴェロアは、ソウライヴが名門ブルー・ノートへ移籍する前に所属していたレーベルという繋がりがあり、レジーいわく「ヴェロアは世界への入り口として素晴らしいインディー・レーベル」と、何やら自分たちの未来を暗示しているかのようだが……。ま、それはさておき、「ソウライヴの楽曲をメインにしたセッションになると思うけど、僕の曲もいくつかプレイするよ」という彼のパフォーマンスと歌声をぜひ〈ブレイク前〉に体感していただきたい。

PROFILE

レジー・ワッツ
ドイツ出身。アフリカン・アメリカンの父とフランス人の母を持ち、アメリカのモンタナで育つ。ジャズ・ヴォーカルを学ぶために移ったシアトルでニルヴァーナやサウンドガーデンに魅せられ、音楽学校に通いながら、友人たちとマクチューブを結成。精力的なライヴ活動を展開し、ソウライヴ、ルーツ、ジャック・ジョンソンらと共演している。マクチューブでは99年の『Subtle Ways』、2002年の『Khronos』と2枚のアルバムをリリース、後者が2003年にヴェロアより再リリースされて話題を呼ぶ。その後はバンドのメジャー移籍作を制作しながらソロでも録音を進める。2003年のファースト・ソロ・アルバム『Simplified』(Non Linear/Village Again)の日本盤がこのたびリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年04月08日 14:00

更新: 2004年04月08日 18:00

ソース: 『bounce』 252号(2004/3/25)

文/卯之田 吉晴