インタビュー

櫛引彩香

ビッキーの復活作は、自他共に認める〈自然体〉にたどり着いた『I'll be there』!


 愛だとか、チョコレートだとか、そんなまろやかな甘さにくるまれたリリックと、ファミリー・バンドが奏でるノーザン・ソウル直系のポップかつハートウォーミングなサウンド。それがあろうことか、彼女から飛び出すとは! 彼女の名前は櫛引彩香。これまでに2枚のアルバムを発表し、日常の風を音楽とともに吹かせる女性シンガー・ソングライターと評されていた……そんな彼女に一体何が!? 完成したばかりのミニ・アルバム『I'll be there』を前にして、彼女はいつも以上にリラックスしているように見える。

「本人的には変化を見せたつもりはないんですけど、歌詞においても、アレンジにおいても、聴く人が聴けば、変化した!って思うのかもしれない。昔は〈ナチュラルな……〉とか〈自然体で……〉とか書かれたりしてたけど、逆に今のほうが自然体っていう感じというか……。そもそも私は高校生くらいの時からスティーヴィー・ワンダーとかカーティス・メイフィールドなんかを聴いていて、そういうものをやりたいのにできないっていうのがメジャー時代の自分だったりしたから、遠回りしちゃったけど、今回のアルバムではそれがようやくできましたね」。

 しかし、所属レコード会社/マネージメント事務所との契約満了という現実に直面した彼女の道程は決して楽なものではなかった。

「最初は、当然、生活のこともあるし、〈どうしよう?〉って思ったんですけど、〈はい、曲作って!〉とか〈もうちょっと恋愛の風景が見える歌詞を書いたほうがいいんじゃないの?〉みたいなことをバシバシ言われることもなくなったから、純粋に自分と向き合う時間が持てましたよね」。

 ただし、彼女には音楽を介した仲間がたくさんいる。かつての職場で同僚だったというSCAFULL KINGの増渕謙司を共同プロデューサーに、同じく同僚だった松田岳二や歌い手としての先輩でもあるHICKSVILLEの真城めぐみらを迎えた本作は、彼女がこれまでの作品で封印していたキーボード・プレイを披露するほどに、和やかな環境で制作されたという。

「このアルバム、〈スティーヴィー・ワンダーに聴かせたいわ~〉っていうくらい(笑)。今まで、そう思ったことはなかったし、思っても言えませんでしたからね(笑)」。

 その開放感は、〈この作品こそ、まさに!〉という説得力を生み出しているように思えるし、ここから先に向けての原動力になっていきそうな予感がひしひしと。どうですか、櫛引さん。次はダスティ・スプリングフィールドに倣って、メンフィスに行っちゃう、なんてのは?

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掲載: 2004年05月13日 11:00

更新: 2004年05月13日 19:08

ソース: 『bounce』 253号(2004/4/25)

文/小野田 雄