NIRGILIS
FORCE OF NATUREにジョーン・オブ・アーク、韻踏合組合、Spangle call Lilli line……これまでの作品で彼らが依頼したリミキサーは数知れず。それがただ単に依頼しただけならまだしも、寄ってたかってイジられつつ、その核の部分はまったく揺るぎない5人組、NIRGILISの摩訶不思議。しかも、作品においては一朝一夕で成立し得ない精緻な打ち込みを披露しつつ、ライヴにおいてはバンド編成でそれを再現するに止まらず、軽く飛び越えてみせるオールラウンダーだったりして、彼らって一体何者!? しかし、見る前に跳べ!、跳ぶ前に聴け!と差し出されたニュー・アルバム『ニュースタンダード』にはKen Ishii、そしてART-SCHOOLというまったくベクトルの異なるアーティストとのコラボレーションが何食わぬ顔で……。
「Ken IshiiさんとART-SCHOOL。その2組を並べたら、確かにありえないですよね(笑)。でも……」(岩田アッチュ)。
その試みをオールOKにしているのが、アルバム・タイトルでもある彼らの〈ニュースタンダード〉観でして。どこが〈ニュー〉なのかといえば、敢えてミクスチャーといわずして、iPodのような携帯オーディオ・プレイヤーで何千曲もの楽曲が歩きながらシャッフルで聴ける、異種混同が当たり前の世代らしい皮膚感覚優先の音楽アプローチがまさに〈ニュー〉なのではないか、と。
「それは、ある時はリズムだったり、またある時はメロディーだったり、グッとくるポイントは人それぞれ、時と場合にもよるでしょうけど、このアルバムは1曲中、それからアルバム全体にフックとなるものがいろいろ詰まっているんじゃないかと思います」(佐竹モヨ)。
甘いものを食べ続けたら塩辛いものが食べたくなるように、あるいはスイカに塩をかけたら甘みが増すように、五感が欲する美味なるパートを一瞬一瞬、一曲一曲、微妙なさじ加減で提示していくこと。彼らが実践しているのは、そういうことなのではないか、と。だからこそ、本作では穏やかなアコースティック・チューン“エレキバ”の後にトランス・ファンク・トリップアウトな“ブルジョアブレイン”が控えていたり、口当たりのいいピアノ・ポップ“サイボーグ”では〈和を乱そう!〉と歌っていたりと、その佇まいはフリーフォームにして、毒気すら旨味を増すスパイスとして使ってみせるなんてことも。もちろん、アルバムの曲順にしたって、その例外ではなかったりして。
「アルバムを最後までどう聴かせるか、曲順は悩んだんですけど、7曲目の“ブルジョアブレイン”みたいな曲を頭に持ってきたら、その時点で聴くのは間違いなく止めちゃうだろうし(笑)。だから、これが標準的な曲順なのかなと思います」(佐竹)。
「まぁ、曲順を並べ替えて聴いてもらっても全然構わないですけど」(岩田)と、聴き手の楽しみ方もフリーフォームなところは本作の突出した魅力。こんなに無防備で、かつ風通しのいい音楽って、そうそうない!……と思いつつ、逆に訊きたいのは、NIRGILISの面々が聴いて100%満足するような、はたまた理想とするような音楽があるのかということ。参考までに1アーティストずつ挙げてもらったのですが、個人的には思わず膝を打ちたくなるセレクションに、NIRGILISと感性を同じくするアーティストが増殖中であることを実感した次第。
「N.E.R.D.とか?」(佐竹)。
「私はアウトキャストかな。アルバムをとおして聴くと、いろんな入り口がありつつ、2枚のアルバムを飽きさせずに聴かせてくれる。あんなアルバムを作ろうと思ったら、普通、途中で転んでまうと思うんやけど、そこを上手く落としてるし、あのヴァリエーションの豊かな感じは、図々しいかもしれんけど、うちらに近いかも」(岩田)。
PROFILE
NIRGILIS
93年、大学生だった佐竹モヨ(キーボードほか)と伊東孝氣(ギターほか)によって結成。98年に岩田アッチュ(ヴォーカル/キーボードほか)、2000年に栗原稔(ベースほか)、2001年に稲寺佑紀(ドラムス)が加入し、現在のラインナップとなる。地元・関西を中心とした活動を経て、2003年には初の全国リリースとなったシングル“サンダー”を発表。その後リリースされたファースト・アルバム『テニス』、リミックス・アルバム『スカッシュ』も高い評価を得て、同年9月にシングル“真夜中のシュナイダー”でメジャー・デビュー。このたび、待望のメジャー・ファースト・アルバム『ニュースタンダード』(chukuri/セーニャ・アンド・カンパニー)がリリースされたばかり。