Kahimi Karie
パリを拠点に制作された前作『Trapeziste』と対照的な新作『Montage』が完成!
「前回はパリで生活していた時に、ラジオで聴いていた現代音楽や自分の周りの環境音、例えば街を歩いている時に重なって聞こえてくる音なんかと、その時に考えていたことをひとつの形にしたかったんですけど、今回は自分の周りにある現実の環境というよりも、自分のなかで作り上げた空想世界……もっと内側な感じですね。というのも、前回同様、今回も神田(朋樹)君と高井(康生)君といっしょにアルバムを作りたかったので、そうなると放っといても共通点が出てくるわけで、前回と違うところを意識したっていうこともあります。それと、前回から日本でアルバムを作るようになって、久しぶりに往き来しないでレコーディングしていることも、(前作と本作の世界が)ひっくり返った理由なのかな」。
その意味で、前作『Trapeziste』と対になる作品といえるニュー・アルバム『Montage』を完成させたカヒミ・カリィ。神田朋樹と高井康生という2人のクリエイターとの間でトラックと言葉をやり取りしながら作り上げていったという本作は、彼女の内世界や空想世界を色彩豊かな立体空間にトレースしたかのよう。しかし、内世界や空想世界とはいっても、まったくの虚構というわけではなく、半睡半醒の状態に近くもある、不思議な実感が伴った空間へと聴き手を導いてくれるのだ。
「前作もそうだったんですけど、具体的な音楽からの影響は、ますます少なくなってきていて。ただし、前回のアルバムの時、菊地成孔さんとか外山明さんとか、ジャズの方たちと出会って、また世界が広がったというか。特にリズムに関して、前回はリズムを意識していたことに気付いてなくて、レコーディングの時にそのことを指摘されたんですけど、今回は最初からリズムを気にするようになって。そうなると、ジャズもそうなんですけど、民族音楽なんかも気になるじゃないですか。あえて挙げるなら、そんなところかな」。
リズムに惹かれるまま本作に足を踏み入れると、耳を澄ませば、英語、日本語、フランス語がそれぞれの言語特有のテンポで飛び交い、目前では海と空がひっくり返った世界や、小さな蟻がプラカードを持って行進するどこか遠くの暑い国、BMWに乗った猿が登場するジャングルなどが、寄せては返す波のように静かに、気が付かないうちに押し寄せる。そして、小山田圭吾が参加した“Making our world”に至っては、BPMすらねじ曲がり、時間の感覚すら狂ってゆくのだけれど、本作にあってはそうした体験にまったく違和感がないのだ。これが、もしかすると、アルバム・タイトルでもある〈Montage〉感覚なのだろうか?
「前回はコラージュって感じだったと思うんですけど、いろんなところから取ってきたイメージを組み合わせて新しい絵を作る時、その要素を違うところから持ってきたのが、はっきりわかるのがコラージュ。で、モンタージュはコラージュと同じく構成要素を違うところから持ってきたのはわかるんだけど、その繋ぎ目がわからない感じ。今回は空想のなかの世界をできるだけ驚かせないで見せたかったのでタイトルは〈Montage〉なのかな、と」。
想像を超えた事件が頻発している現実において、何が想像できるのか? ――21世紀の芸術家には、そんな大きな課題も課せられているが、だったら夢でもなければ、現実でもない、ちょうどその狭間のプレイグラウンドで遊んでみたら? 軽やかな装いの本作は、ことさらな主張を込めず、その響きだけでそう語りかけているのかもしれない。