弥生
モデルとして活躍してきた彼女が、音楽という表現のステージに立った!
「きっかけとして大きかったのは98年、〈フジロック〉で観たビョークですね。そこで音楽っていう表現を改めて突きつけられて、ああこれなんだ、って。それからギターと出会って、独学で曲作りを始めていきました」。
3歳からピアノを習い、学生時代はバンドでドラムを叩くなど、つねに音楽といっしょだった彼女だが、その道に進む考えは当初なかったとのこと。で、最初に歩みはじめたのはモデルの道。雑誌、CM、コレクションなどで活躍するも、そこは自己表現の本意に叶わず葛藤のなか、居場所探しの日々がしばし続く。そしてそれにピリオドを打ったのがビョークとは、透明感と浮遊感に溢れるシンガー・ソングライター、弥生の世界とは随分かけ離れているような……。
「別にビョークみたいになりたいのではなくて、ひとりの表現者として影響を受けたわけだから。ただ軽い気持ちとかを歌うんじゃなくて、日常で感じた大切なことをエピソードとして書いて歌うのが好きなんですね。自分の人生哲学があって、それを女性として生きていくなかで音楽に表現しているという、その一貫した信念にすごく打たれたので」。
例えば、アイドルから脱却して自立する女性アーティストの代名詞となったかつてのフランソワーズ・アルディとか、最近ではやはりモデルからシンガー・ソングライターへの自然な転身が支持されているカーラ・ブルーニとか。弥生もそんな生き方の途上にあるのかも知れない。さり気なく、しかし強く志している理想の像と響く歌。温めていた構想はロンドン・レコーディングから徐々に実現していった。
「最初のロンドンでは自分の内側に向いていたんですけど、東京に戻って録った後、ニューヨークでレコーディングする時には、すっかり外向きに広がって。それが全体をとおしていいバランスの輪になっていると思います」。
レゲエ・ダブ的要素を施した屋敷豪太、スペイシーなエフェクトで彩ったWATER MELON(中西俊夫+シャーデーのアンドリュー・ヘイル)、リズミックなリード・トラック“Day & Night”でメリハリをつけたAKほか、精鋭プロデューサーとの共演で響かせた弥生の歌はまた、すべてのネガティヴをポジティヴへ導こうとする博愛にも満ちている。
「とにかく気負わずにやっていきたいと思います。いずれ結婚して家族も作りたいし、音楽もそんななかで育んでいきたい。時間が経つと消えてしまう大事なものをかたちにしながら、足跡を残していければなぁって」。
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